鷹見:「一字書」というシリーズがあるじゃないですか。太い筆でばんと「花」とか一文字書いたものですけど。
長尾:ええ。
鷹見:それと藁で描いていたというのは非常につながりますね。でもそこから現在のような極細の筆を使って線を描いているんですから。
長尾:束ねた太い藁で描いていても、藁の固い部分から意図せずに細い線が出ることがあるんですよ。その線が気になっていて、これで全部描いたら面白いなと思って現在のような作品を描き始めました。
鷹見:藁は当然筆のような線はひけないでしょうが、予期せぬ線という点で面白みがありますね。筆のような道具は目的の為にどんどん洗練され進化するけれど、それと同時に失うものもありますから。それを考えれば、筆以前の原初的な状態に発見を見いだしていくというのはひとつの自然な道筋でしょう。
長尾:実は筆を使い始めた時少しとまどいました。道具を使って意識的に描いた線は、偶然生まれてくる線と全然違いますし。
鷹見:そうでしょうね。筆はパソコンに比べたら今や随分素朴な道具に見えますが、長い間使われ続けてきたということはある意味すごく洗練されているということなんですね。使いこなせれば表現の幅はすごく広い。だから藁を束ねただけのものから生まれる線とは違いますよね。逆に使ってみることで筆の面白さを発見しましたか?
長尾:今まで言っていたことと逆みたいになっちゃいますけど、線をコントロール出来るようになっていくこと。画面上に意図した線をひけるようになって、結果的に偶然生まれた線の良さから離れることになったので。
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