高橋美江 絵地図師・散歩屋
窪島誠一郎「ある若い画家への手紙」−信州の二つの美術館から−
もぐら庵の一期一印

横山大観氏
見ごろ聞きごろスーパーショット!!
第5回目は横山大観さんの登場です。“生々流転”ではなくアートによる環境、社会問題の解消を真摯に考えている現代彫刻家です。昨今、愛知万博・アンデス共同館で個展(7/10〜9/25)を行い話題になりました。そんな横山さんを迎えて出品作のモチーフであるガラパゴス諸島と、制作の全貌についてうかがいました。
  ●万博のアンデス共同館で展示することになったいきさつを教えてください。

2003年の秋に東京有楽町の朝日アートギャラリーでガラパゴス諸島に材を取った展示をしたんですよ。ガラパゴスゾウガメはもちろん、溶岩島のマグマの吹き上がりや火柱のイメージ、溶岩プレートがぐーっと錘状にくぼんで核に向かっていくようなイメージの作品を並べました。そのときにエクアドル共和国の大使が作品をご覧になられたんです。それが縁で、エクアドルの現代舞踊家の来日公演や、アーティストの展覧会にお誘いいただいたりして親睦が深まったんです。

●万博に出品依頼ということはよほど感動したんでしょうね。

 
  お話をいただいたときはうれしくて、うれしくて。会場にいらっしゃったエクアドル政府の要人の方から、会場に花が咲いたと言っていただけたのでほっとしました。それにお客さんたちも「あーっ、亀さんがいる!」と言ってなでたりしてくれています。特に子どもたちがこういうのを見たら飛び乗ってくるんですね。

●もともとどういうコンセプトで制作していたんですか?

「Concentration to the Earth core」(地球の核心に向かう)というシリーズタイトルで、地球と一体化したような彫刻の展開をずっと進めていました。地球を考えるという、まさに愛知万博のテーマでもある環境保全をずっと考えて作品に投影していたつもりです。それに現代、日常でびっくりするような事件が起きていますが、些事に囚われずに地球の核と対話するような壮大な気持ちを持っていれば、そんな恐ろしい事件も起きないだろうと思います。なので、ある意味ここに集う人たちの浄化になればというおもいもありますね。
 
   
 



●それでガラパゴス諸島に目が向いたわけですね。

そうです。ガラパゴス諸島は世界自然遺産の第一号登録地でもあるわけですが、地球の核からマグマが吹き上がった溶岩島なんですよ。まさにチャールズ・ダーウィンの進化の実験場といった舞台です。なかなか旅費が工面できなかったのですが、ようやく2003年の2月に資金ができて1ヶ月の日程で滞在しました。

●実際ガラパゴス諸島に行ってみてどうでした?

上陸するとき靴の泥を除いたりの検疫があるんですけど、入ってしまえば観光客化していました。1000人ほどだった島の人口がここ10年でどっと増えたらしいです。ガラパゴス諸島でさえ汚染が進んでいるというのはとても残念でした。 それでも甲羅が2メートルぐらいの亀が堂々と歩き回っている姿はすごかったです。市街地から片道1時間半くらいかけてトレッキングしながらコースを回って野生のゾウガメに出合えるわけです。ゾウガメの甲羅は半球なんですよね。この六角形の甲羅が、地球を覆うユーラシア大陸のプレートやナスカプレートが亀に乗っかっているようで、まさに地球の化身だと思ったんですよ。ゾウガメが百頭近く湖にいて甲羅だけが水面から出ている様子なんか宇宙空間にある惑星のような印象を受けましたね。
 
  ●よほど興奮したんですね。

すごいですよ! 自分に対したとき、ぬうっと首を回して、人間の愚行をじーっと見守ってきたようなものすごく痛烈で批判的な眼だったんですよ。ゾウガメの進化の歴史は2000万年です。何億年、何千万年前に火山が爆発してできた溶岩島に、亀がたどり着いて繁殖しだしたんです。それが大航海時代以降、人類の介入によって絶滅の危機に瀕している。さらに戦争や核実験の影響まである。ここまでくると人間同士が傷つけ合う以前に、もっと根源的な部分に視点を移すべきだと思いますね。
 
   
  ●ゾウガメに出合った後、心境の変化はありましたか?

とにかく環境を一人一人が確認しないといかんなというおもいですね。ガラパゴス諸島に限らず、昔はいたはずのホタルやドジョウが壊滅している環境をどうにかしなければだめだと再確認しました。愛知万博も本当にいいきっかけになると思います。そういう環境問題であるとか、地球の資源問題であるとか、そこに肉迫できる作品を残せないかという想いもあります。

 
  ●その点、横山さんの作品は万博のテーマにぴったりですよね。

ありがとうございます。ただ、どこの会場に並べても、次世代を担うような子どもたちが触って太陽の熱を吸収した黒御影石の熱を感じたり、作品の上に座って五感で自分のイメージした地球というようなことがちょっとでも記憶に残ったらそれほどうれしいことないですよ。
 
   
  ●“現代彫刻家”横山大観の名を売る機会でもありましたね。

そうですね。彫刻家だった父が明治の横山大観の仕事をものすごく好きで、こういう大それた名前をいただいたんです。けっして売名行為ではないぞって言いたい(笑)。でも、個展なんかすると横山大観財団だったりから苦情が入ったりしないか内心冷や冷やしていますけど(笑)。最近ようやく認知されてきました。
 
  ●いつ頃から彫刻を始められたんですか?

父の仕事の手伝いをしながらいろんな素材には触れてましたね。それがきっかけといえばきっかけで、うまい具合に流れに入っちゃったかもしれないです。石まみれ粉まみれになって危ない目にもあってきましたが、何千年、何万年と残る素材ですから、これで測定不能な地球に肉迫したい、という確たるものがあったと思います。
 
   
  ●イサムノグチのモエレ沼公園が最近話題になりましたけど、石の彫刻家は考え方そのものがダイナミックですね。

彫刻でも工芸でも絵画でも現代美術でも、ちょっとした日常の些事みたいなものをぐーっと取り上げてくる作家っていますよね。ちっちゃなものをひねったりして。それ、逆にいいなと思っちゃうんですよね(笑)。繊細な作品でうらやましい。こんな汗かいて骨折って、運ぶの一つにも莫大なお金がかかって、時代を逆行しているようなスタイルですから。

●井波という伝統色の濃いところで、どうして横山さんのような方が出てきたんでしょうね。

父親の代から少しずつ新風を故郷にも入れるという動きではあった

 
  んですけど、自分は井波彫刻の中でやはり奇抜なんですよ。なかなか大団体の団塊の世代っていうのは“盾”が分厚くて、いい仕事をしていても知らん振りされることもあるんですよ。若い世代で切磋琢磨しながら頑張りたいですね。
 
   
  ●最後に今後の展開をうかがいたいのですがどうお考えですか?

富士山に肉迫するにはどういうテーマでいけばいいか(笑)。環境保全や環境問題を、より惑星や銀河系の規模へもっていくような新作をはじめているんですよ。太陽系やブラックホールといった測定不能な銀河の領域へ造形を試みようと思っています。
 
  

 

横山大観 経歴
1974年 富山県井波町生まれ
1996年 国際瀧冨士美術賞受賞
1997年 中国福建省泉州市主催国際石彫刻シンポジウム
1997年 沖縄国際石彫刻シンポジウム
1998年 ソウル大学、東京芸術大学 石彫刻シンポジウム
1999年 東京芸術大学大学院美術学部彫刻科修了
1999年 個展「Concentration Works」(銀座)
1999年 日韓国際彫刻シンポジウム
2000年 栃木県那須野ヶ原国際彫刻シンポジウム
2000年 「Concentration to the Earth core 2000」(埼玉県近代美術館)
2002年 個展「Concentration to the Earth core 2002」(東京・銀座)、
2002年 ギャラリーアーバンプレイス(富山市)
2003年 ガラパゴス諸島取材旅行
2003年 個展「Concentration to the Earth core 2003」朝日アートギャラリー(東京・銀座)、
2003年 ギャラリーアーバンプレイス(富山市)
2005年 個展「Concentration to the Earth core 2005」愛知万博・アンデス共同館に招待出品
2006年 第1回芝浦アイランド彫刻コンクール入賞
2006年 第1回海の見える杜美術館彫刻ビエンナーレ奨励賞
2007年 エクアドル共和国大使より日本国天皇への献上品モニュメントをデザイン及び制作
2008年 新潟県十日町石彫刻シンポジウム
2010年 彫刻家横山大観記念館、亀の間を設計、創設する
2011年 東京芸術センター第三回彫刻コンクール奨励賞受賞

 
  
   

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