高橋美江 絵地図師・散歩屋
窪島誠一郎「ある若い画家への手紙」−信州の二つの美術館から−
もぐら庵の一期一印
日野之彦
小滝雅道
遠藤彰子VS佐々木豊
長谷川健司・中野亘
松本哲男
やなぎみわVS佐々木豊
清野圭一
Jean Claude WOUTERS ジャン・クロード・ウーターズ
長尾和典VS鷹見明彦
わたなべゆうVS佐々木豊
カジ・ギャスディン・吉武研司
千住博VS佐々木豊
山本容子VS佐々木豊
三瀬夏之介
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秋山祐徳太子
林アメリー
マコト・フジムラ
深沢軍治
木津文哉
杉浦康益
上條陽子
山口晃vs佐々木豊
山田まほ
中堀慎治

わたなべゆう氏

'Round About

第24回 わたなべゆう VS 佐々木 豊

独特なマチエールを、まるで求道者のごとく、愚直にひたすら探求し続けるわたなべゆう氏。河口湖畔近くのアトリエに一人こもって制作する姿は風貌まで仙人そのもの。都会を離れ自分の時間軸を乱すことなく、静かに時代の流れにたゆたう男だ。大きな個展を控えたわたなべゆう氏と佐々木豊氏の久々の会話を追ってみた。

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  したたかな根無し草生き残り法  
   
 
自然の中で自然を描かず
佐々木:先日、突然、「田中一村の映画(『アダン』)を観た?」って電話がかけてきたじゃない。一村が好きなの?
わたなべ:好きというわけじゃない。ただあの人の生き方に興味を持っただけで、どんな状況で奄美にいくことになったのかと思って。
佐々木:ぼくは一村の絵も好きだけど。
わたなべ:絵は冷たい感じがするからいまいち入りきれないな。
佐々木:田中一村と、この前三鷹市美術ギャラリーで展覧会をやっていた高島野十郎。ぼくは両方観たんだけど、都会から離れて仙人になりたいというところが、二人とも共通してるね。
わたなべ:一村は、本当は有名になりたいと思っているのに、実はいじけて奄美へいっちゃった。今と状況が違うかもしれないけど、わかってくれなくていいんだと半分いじけながら描いている。あの冷たさに入り込めないなって感じた。野十郎はもうちょっと温かい。お月様とかローソクとかあの辺の作品は人間的にやわらかい。仙人になりたかったかどうかは知らないけれど。
佐々木:わたなべゆうもぼくには仙人というイメージがある。今日のあなたの格好も山の翁だし、二十代に五年間、世をすねたように放浪の旅をしたし。今は都会から離れて一人で絵に没頭している。どうしてもあの二人と重なるんだ。
わたなべ:ただね、ぼくなんかもっとしたたかだし俗っ気もたっぷり。お金も欲しいし。でも、村上隆はファクトリーで稼いでいるけど、ぼくは家内工業だからやりかたが違う。だけど、欲の部分で有名になりたかったり、お金がほしかったり、ずっと絵を描いていたかったりする気持ちは要するに同じなんだ。
佐々木:村上の頭にあるのはウォーホル、ゆうさんの場合は自営業。
わたなべ:だから誰かに発注するとか任せるとか出来ない。額でさえ自分で作るし。
 
   
   
 
美大を目指さず絵描きになる
佐々木:若い頃に放浪してたわけだけど、その時に絵描きになろうという目的があったの? それともただの無銭旅行?
わたなべ:絵描きになろうと決めたのは中学生のときだもの。
佐々木:そんなに早いの。天才だね。
わたなべ:天才じゃないよ。どうやったら絵描きになれるか何も知らないんだけど、絵を描いて生きていこうと思った気持ちはずっと変らなかった。
佐々木:そうしたら、ふつう美術系大学へ行く道を考えるよね。
わたなべ:ふつうは考えるけど、受験勉強もデッサンも嫌いだから一回もやったことがない。いい美術部がある高校を選んだんだけど、授業は返事で抜け出して部室で絵を描いていた。だから成績は目いっぱい下。卒業のときも、写真あげないって言われたんだから。そんなレベルだから大学へ行くなんて考えもしなかった。
佐々木:でも絵描きにはなりたいんだ。それと旅は関係あるの?
わたなべ:旅はものを見たかっただけ。自分の周りにくっついてくるしがらみからある意味で逃げたかった部分もあるかもしれない。
 
   
 
佐々木:で、最近都会のどまんなかの大田区から、こちら(山梨県河口湖)に来たわけだよね。
わたなべ:でも単身赴任。アトリエにしていたところが子どもにとられちゃって、いるところがないから。
佐々木:絵が呼んだ感じもするね。土の匂いとか、麦藁の匂いとか日本の土壌が恋しくなって、ネオンの下じゃ描けないと思ったの?
わたなべ:そこが難しいんだよね。遠くで憧れてるから描けるということもある。こっちに来ちゃうと、自然のいろんな良いものがいくらでもある。描かなくてもそこらへんに転がってるから。
佐々木:こういう題材はそういう転がってるものなの?
わたなべ:全然違う。違うところへの憧れのようなものを描いている。すごく矛盾しているけど、田舎にいても農業をしたいとは思わない。いつか佐々木さんに、こんなごつごつした絵を描く奴はどこの百姓かはたまた詩人かって、言われたことがあるけど、それは今思うとすごく正解だと思う。土着性には憧れがあるんだけど、自分の現実はいつもぷらぷらして空中に浮いてるわけ。自分が何を描こうとしているか言葉にしようと考えると、揺れる身体というか不安定さというか、土着性とは違う形になって出てきているような気もする。