高橋美江 絵地図師・散歩屋
窪島誠一郎「ある若い画家への手紙」−信州の二つの美術館から−
もぐら庵の一期一印
金井訓志・安達博文
クラウディア・デモンテ
森田りえ子VS佐々木豊
川邉耕一
増田常徳VS佐々木豊
内山徹
小林孝亘
束芋VS佐々木豊
吉武研司
北川宏人
伊藤雅史VS佐々木豊
岡村桂三郎×河嶋淳司
原崇浩VS佐々木豊
泉谷淑夫
間島秀徳
町田久美VS佐々木豊
園家誠二
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中山忠彦VS佐々木豊
森村泰昌
佐野紀満
絹谷幸二VS佐々木豊
平野薫
長沢明
ミヤケマイ
奥村美佳
入江明日香
松永賢
坂本佳子
西村亨
秋元雄史
久野和洋VS土屋禮一
池田学
三瀬夏之介
佐藤俊介
秋山祐徳太子
林アメリー
マコト・フジムラ
深沢軍治
木津文哉
杉浦康益
上條陽子
山口晃vs佐々木豊
山田まほ
中堀慎治

奥村美佳氏
'Round About

第53回 奥村美佳

2006年、第3回「東山魁夷記念日経日本画大賞」を受賞した創画会所属の奥村美佳、21世紀における日本画のひとつの姿を示した若き閨秀画家である。古今東西のあらゆる芸術家が歴史的に表現してきた自然への憧憬と畏怖を一人の人間として表現したものであるかのようでもあり、画面をとおして、自然と人間、自然と人工との関係性を問いかけてもいる。大胆な構図と繊細な表現、「かなた」シリーズでは、時間と空間の遠近の複雑なパラメータを解析する数学的な解を描いているようだ。「神は細部に宿る」という、芸術の神もやはり細部に宿っているのではないだろうか。個展会場で、奥村の今を聞いた。

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●いつごろから絵に興味をもったのですか?
奥村:そうですね、絵は小さいころから好きで、親戚にも画家がいたりしたので周りの雰囲気も本当に絵が好きだったら美術の学校に行って画家になったら、という今思うと自然な感じで画家への道を歩み出しました。

●小学校、中学校、高校それぞれの段階で契機となるような具体的なエポックはありましたか?
奥村:中学二年生の14歳のときに、クラブ活動で入った美術部で初めて友達を油絵で描いたのですが、本当に絵を描く楽しさや奥深さを味わいました。そのときはちょうどそろそろ進路を考えようかなという時期でもあったので、これからもずっと絵を描くことを続けていければ良いなと思いました。私が行っていたのは私立の中高一貫教育の学校で、熱心な美術の先生も居られて「奥村は絵が好きだから」、ということで大学受験の指導までしていただきました。

●本格的に画家になる道に進んだのは大学へ入ってからですか?
奥村:京都芸大への進学を目指していたのですが、浪人中にたまたま京都造形大の案内を見た時に以前からお名前を知っていた石本正先生の絵と文章が載っていて、それを読んで感動して石本先生のところで勉強してみたいな、と思って進学先を造形大に変えたのです。大学では、石本先生の他、竹内浩一、吉川弘の両先生など私の好きな絵を描いておられる先生方が揃っておられたので造形大に進んでよかった、めぐりあいというか来るべくして来たなと思いました。
 
 
 
●大学入学してからはどのような勉強をしたのですか?
奥村:受験でももちろんデッサンの勉強はしてきたのですが、入学後は自分の主観を大事にするようなデッサンの勉強を習慣づけることなどを石本先生などに教わりました。それは今も大事にしているし有難かったな、と思っています。

●時間とともに人物、風景、静物それぞれの描き方にはどんな影響がありましたか?

奥村:学生のころから今までとはだいぶん変わってきたと思います。今は風景をたくさん描いているのですが、そのきっかけになったのは外に出かけて風景のデッサンをたくさん描いたことです。特に学生の時に初めて行った、イタリアのシエナという街で見たプップリコ宮殿のフレスコ画に大きな感動と衝撃を受けました。イタリアののどかな田園地帯を背景に描かれた絵だったのですが、日本画でこういう風景が描けるのではないかと思いましたし、日本の障壁画の風景にも通じているとも思いました。
 
 
●作品には西洋画というか、ちょっとルネッサンス絵画の影響なども感じるのですが。
奥村:ルネッサンス以前が好きです、特に14世紀以前のイタリアの作品が好きですね。先ほども言いましたが、現地でフレスコ画の絵肌を直接見たときに日本画の絵肌と共通するものを感じました。フレスコ画を見るまでは、日本画の絵具には手こずっていましたから。私が入ったころの造形大では、入学してから1年間は人体や、花、樹木のデッサンに徹し、2年生から日本画の絵具を使うのですが、初めての日本画の絵具なのでなかなか使いこなせなくて困っていました。だから、フレスコ画を見た時に、もしかしたらこういう方法で絵具のことも私なりに解決できるのではないかと考え、私なりの日本画に対する試行錯誤が始まったのです。

●日本画の絵具についての思いは?
奥村:幅広く色の表現が出来ます。同じ色でも粒子の大きさの違いによって色が違いますから。学生のときから色の好みは変わってないと思います。でも、色というのは教えられませんから難しいですね。

●博士課程の論文は「ロマネスク―刻み込まれた精神、モワサックサン・ピエール修道院の預言者エレミヤ像を中心に―」とのことで、日本画家としては珍しい題目だと思うのですが?
奥村:フランスの南部にある修道院の入り口の側面に彫られた小さな像について書きました。ロマネスクが好きだったので、ロマネスクに詳しい先生の旅行に同行した時に見た像に感動して書いた論文です。博士課程の3年目にこの論文と、それまでに描いた150号サイズの作品数点と秋の創画会に出した作品を提出しました。
 
●今は画家と教職という立場ですが。
奥村:教えるという立場から言えば、私が受けてきた教育や、先生方の姿から受けた大事だなと思うことを受け継いで、後輩でもある学生に繰り返し伝えていきたいなと思っています。

●京都という土地が画家としての奥村さんに与える影響はありますか?
奥村:生まれたのは京都で育ったのは奈良なのですが、京都は美術に対する関心はやはり他の都市よりも高いと感じます。育った奈良は絵を描く題材には事欠かない、一番私が安らげる自然が豊富にある場所なので好きです。
 
●「東山魁夷記念・日経日本画大賞」受賞作について。
奥村:第3回日経日本画大賞を受賞した「かなたVII」は、三重県のとある場所の風景を描きました。特に海の大きさをどのようにしたら表現できるかなと思って、水平線を高くすることで大きさを出しました。「かなた」の連作は、自分ではいろんな視点を一つの画面の中に盛り込むという意味で、昔の絵巻物などを意識して日本の古典作品の構成を学びたいと思って始めたものです。
 
 
●現在は創画会の准会員として活躍されている他、公募展、個展、グループ展などを通じて活動されていますが、これからの作品作りの方向などについては?
奥村:今の自分からは見えない遠くの場所への憧れ、という意識が風景を描いている自分の中にいつもあると感じていまして、遠近感を出そうとは意識していなくても自然とそういう構成になるのではないかと思っています。「かなた」のシリーズがそうです。山を描いていたら山の向こうにどんな世界があるのかな、という想像力をかきたてられる絵が描ければと思います。

●これからの予定などを教えてください。
奥村:今年は秋の創画会展や、三越美術百選展、京都で開催される日本画新展、両洋の眼展などに出品する予定です。
 
(京都・ギャラリー青い風にて取材)  
  奥村美佳(おくむらみか)
1974 京都市生まれ
1997 臥龍桜日本画大賞展
1997 創画展 '99、'00、'01、'02、'03、'05、'06
1999 春季創画展(以後毎年)
1999 第8回奨学生美術展(東京・佐藤美術館)
2000 青垣2001年日本画展
2001 京都造形芸術大学 学生選抜展(東京・草月会館)
2002 R.A.M.展(東京・ギャラリー和田、京都・河原町画廊〜'07
2002 創画展/創画会賞
 

 

2003 京都造形芸術大学大学院芸術研究科芸術専攻 博士課程修了
2003 創画展/奨励賞、文化庁現代美術選抜展
2003 平和へのメッセージ展(東京・佐藤美術館)
2003 日本画の未来展(島根・浜田市世界こども美術館)
2004 京都府美術工芸新鋭選抜展 '06
2004 京の今日展(京都文化博物館)
2004 水澄みの里美術展(島根・石正美術館)'05、'06、'07
2005 個展−空の香−(京都・ギャラリー青い風)
2005 京都画壇展(松山・いよてつ高島屋)'06、'07
2005 第13回奨学生美術展/招待作家/作品買い上げ(東京・佐藤美術館)
2005 京都日本画家協会選抜展(京都文化博物館)
2005 第6回菅楯彦大賞展(大阪・高島屋、鳥取・倉吉博物館)
2005 次代を担う作家展(東京・純画廊)
2006 14人の作家展(東京・画廊はね)、軸装展(京都・ギャラリーみつはし)
2006 個展(東京・佐藤美術館)、21世紀関西女性絵画展(兵庫・兵庫県立美術館)
2006 創画展/奨励賞
2006 第3回東山魁夷記念日経日本画大賞展/大賞(ホテルニューオータニ美術館)
2007 日本画の未来展(島根・石正美術館/浜松・秋野不矩美術館)
2007 両洋の眼展(日本橋・三越)'08
2007 京都市芸術新人賞
2008 個展−いざない−(京都・ギャラリー青い風)
現 在 京都造形芸術大学 専任講師 創画会准会員