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●4年間というのは、例えば専門分野である絵画を例に考えると、芸術家を目指す学生にとってはどのような時間なのでしょうか?
この4年間で良い絵は描かなくてもいい。自分の心を開発すればいいんです。卒業しても人生なんて残り50年〜60年あるわけだから、ここは出発点です。現実を考えると、絵描きだけで食べることができる人は本当に少ない。だからほかの職業に就きながら、「なおかつおれは絵を描くんだ」となれるかどうか。この「なおかつ」が大切なんです。みんな食うために精一杯なんだから、絵を描かなくたっていい。だけど「とにかく描きたいんだ」という気持ちで描くからこそ、絵は強くなる。そういう面で言えば文化勲章受章者の片岡球子先生は、50歳過ぎてから院展に入選し始めて、グーンと伸びて、いまやトップです。でもその間いろいろなことをやりながら、ふつふつと「自分の芸術とはなんぞや」と思いをめぐらして、生きてきた人でしょう。
大学で良い絵を描いたってしょうがない。そんな甘っちょろいものではねえぞ、絵描きというのは(笑)。生き方を勉強する。どんな状況でも描いてしまう強い生き方を勉強する。人間力をつける。だから「ここに泉を見つければお前らたいしたものだ」と言うんです。それが10年先、20年先に渾々とあふれ、やがて大河になっていく。われわれ絵描きは、脂がのってくるのは40代だから。20代はガキです(笑)。30代になってはじめて自分の気持ちと腕が一致してきて、本物の絵が描けるようになっていく。それくらい長いスタンスでこの学校を考えてほしい。
●でも、若い人はせっかちだと思います。目に見える結果を求めてしまうのではないでしょうか?
冒険して、いろいろなことを体験して、芸術の無限性を知るということだけでも、すごい進歩です。1,2年で「優秀ですね」と言ってもそんな人間は見向きもされない。どんなところに行こうが、落ちている砂を使ってでも、「俺は描く」となれるか。青木繁が、その辺の流木に絵を描いたという話を聞くじゃないですか。それくらい欲求があるんですよね。そういう欲求がない人は別に描かなくたっていい。だから全員が芸術家になれるとは限らないと思うんです。でも人間の生き方はここで勉強できる。芸術を学ぶことで、人に愛を与える人間にはなれると思います。 |
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