高橋美江 絵地図師・散歩屋
窪島誠一郎「ある若い画家への手紙」−信州の二つの美術館から−
もぐら庵の一期一印
日野之彦
小滝雅道
遠藤彰子VS佐々木豊
長谷川健司・中野亘
松本哲男
やなぎみわVS佐々木豊
清野圭一
Jean Claude WOUTERS ジャン・クロード・ウーターズ
長尾和典VS鷹見明彦
わたなべゆうVS佐々木豊
カジ・ギャスディン・吉武研司
千住博VS佐々木豊
山本容子VS佐々木豊
上條陽子
山口晃vs佐々木豊
山田まほ
中堀慎治
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  第19回「なおかつ描く」が大事 松本哲男

山形市街を見下ろす高台に位置する東北芸術工科大学。15周年を迎えた今年、日本画家の松本哲男氏が学長に就任した。東北の歴史や文化に育まれた精神や叡知をもとに、新しい世界観の創世を目指す同校のスローガン「東北ルネッサンス」とともに、松本氏はいかに学生たちの舵取りするのだろうか?


 
  ●創立15周年ですと、基礎ができて発展する段階という意味で、大学にとって重要な時期に学長に就任されました。今年は何人の新入生が入学したのでしょうか?

514人です。出身地を見ると、いまや全国区になっています。関東をはじめ九州からの入学生もいます。ただ、2/3が東北でその中の1/3が山形県出身です。

●アートの市場は東京が中心ですが、東北芸術工科大学はそこから新幹線でも3時間です。この地で学生を育てることに、どのような意義がありますか?

大学の周辺には、山形の蔵王山があって、向こうに奥羽山脈が見えて、朝日連峰、月山もある。大学の敷地からは山形市内の街並みも見える。ここで空を眺めていたりすると、都会にいるときと違って、自ずと世の平和について考えたりするんですね。学生にはじっくりと土の匂いや風を感じてみて欲しい。春が来れば、そのことを本当に実感させられるんです。春夏秋冬の空気の変化を感じられる。「若いとき、とにかく4年間ここにいたことを幸せだと思わなくてはいかん!」と学生に言うんです(笑)。じっくり地べたに座って、ものをつくるときの、最後の泉にしてほしいんです。ポーンと来て、ハーイと帰るのではなくて、とにかく自分の芸術家魂の原点になるように。
東京を目指して何かをするのではなくて、ここならではのものをつくれるのだと思って欲しい。逆にここをうまく利用してやってみてはどうかと思います。芸術は人間がつくりだすものだから、むしろその人間がどのようにに誠実に生きるかということが大切ですから。

 
   
  ●4年間というのは、例えば専門分野である絵画を例に考えると、芸術家を目指す学生にとってはどのような時間なのでしょうか?

この4年間で良い絵は描かなくてもいい。自分の心を開発すればいいんです。卒業しても人生なんて残り50年〜60年あるわけだから、ここは出発点です。現実を考えると、絵描きだけで食べることができる人は本当に少ない。だからほかの職業に就きながら、「なおかつおれは絵を描くんだ」となれるかどうか。この「なおかつ」が大切なんです。みんな食うために精一杯なんだから、絵を描かなくたっていい。だけど「とにかく描きたいんだ」という気持ちで描くからこそ、絵は強くなる。そういう面で言えば文化勲章受章者の片岡球子先生は、50歳過ぎてから院展に入選し始めて、グーンと伸びて、いまやトップです。でもその間いろいろなことをやりながら、ふつふつと「自分の芸術とはなんぞや」と思いをめぐらして、生きてきた人でしょう。

大学で良い絵を描いたってしょうがない。そんな甘っちょろいものではねえぞ、絵描きというのは(笑)。生き方を勉強する。どんな状況でも描いてしまう強い生き方を勉強する。人間力をつける。だから「ここに泉を見つければお前らたいしたものだ」と言うんです。それが10年先、20年先に渾々とあふれ、やがて大河になっていく。われわれ絵描きは、脂がのってくるのは40代だから。20代はガキです(笑)。30代になってはじめて自分の気持ちと腕が一致してきて、本物の絵が描けるようになっていく。それくらい長いスタンスでこの学校を考えてほしい。


●でも、若い人はせっかちだと思います。目に見える結果を求めてしまうのではないでしょうか?

冒険して、いろいろなことを体験して、芸術の無限性を知るということだけでも、すごい進歩です。1,2年で「優秀ですね」と言ってもそんな人間は見向きもされない。どんなところに行こうが、落ちている砂を使ってでも、「俺は描く」となれるか。青木繁が、その辺の流木に絵を描いたという話を聞くじゃないですか。それくらい欲求があるんですよね。そういう欲求がない人は別に描かなくたっていい。だから全員が芸術家になれるとは限らないと思うんです。でも人間の生き方はここで勉強できる。芸術を学ぶことで、人に愛を与える人間にはなれると思います。