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'Round About

第58回 秋元雄史(金沢21世紀美術館館長)

近ごろ、美術館やギャラリーばかりが展示空間ではないと、街中に作品やプロジェクトを展開する展覧会が各地で開催されている。都内では「赤坂アートフラワー」(9/10〜10/13)、横浜の「AOBA+ART」(9/21〜10/13)や「黄金町バザール」(9/11〜11/30)、そして水戸の「カフェ・イン・水戸」(10/25〜11/24)など、いずれも地域住民を巻き込み、美術館に行くことのないような人々も、それぞれの視点で美術を楽しんでいるようだ。金沢21世紀美術館では「自分たちの生きる場所を自分たちでつくるために」というテーマを掲げ、美術館と金沢の街を会場にした「アートプラットホーム2008」を開催している(10/4〜12/7)。展覧会初日、秋元雄史館長にこの企画や参加作家の作品について聞いた。

※画像はクリックすると拡大画像をひらきます。 
 
●この展覧会の企画はどのようなところから始まったのでしょうか。
秋元:この美術館は「開かれた美術館」という言い方をしていますよね。「ぼくたちと一緒に『何かを』つくっていく」というような。それを美術館の中でやってきたわけですが、開館前には美術館という場所を持たずに、街の中でもワークショップをやっていた時期もあったのです。この美術館のありようとしては至って自然なことなので、じゃあ、街の中でやってみようと。
 もうひとつに、私が直島の時代からずっとやってきたことなので、特徴を出すというところからも、美術館と金沢の街を結びつけるという意味でもあります。


■注
秋元氏は、現職に就く以前、15年以上にわたり、瀬戸内海の直島においてさまざまなプロジェクトを実践してきた。島に招いた作家が場所に合わせて作品を制作したり、地元の空き家をつかった「家プロジェクト」、島全体の家や施設などをつかった展覧会「スタンダード」など、いずれも国内外で好評を得ている。


●直島で経験されてきたことと、金沢でこのような展覧会を行うこととの違いはどのようなことでしょう。


秋元:まず、町の規模が違います。直島は島民3,500人という小さなコミュニティであるのに対してこちらは45万人です。ひとつのことを伝えるのに手順がずいぶん違いますね。
 直島では、一人ひとりに伝えることが重要です。誰かに言って伝えてもらうというよりむしろ、一人ひとりに伝える。ところが、金沢ではそんなことはとてもできないので、ある団体、組織を窓口にして伝えていくということになるんです。そういう手続き上の違いはすごく感じました。団体や組織を通じると、伝わり方が微妙に違っていってしまうこともあります。個人対個人でコミュニケーションしているときよりも、微妙にニュアンスが違ってしまうんです。それはすごく気を使いました。また、書面でとなると、かかわり方が大ざっぱになってしまうことが多いのでそうならないように気をつけようとしています。
 もうひとつには、金沢はすでにたくさんいろいろなものがあるので、同じようにならないようにと。これまで個々に活動をされているギャラリーやカフェなどは、今回、K-Plat-extensionという連携企画としてご案内しています。

 
●参加作家は19組ですね。どのように選ばれたのでしょうか。
秋元:アーティストを決めるというよりは、まず初めにキュレーターを決めました。私を含めて、今回のキュレーター4人は、それぞれ見方がばらばらなので、それが面白いということと、美術を展開する場を街にするということを意識しているメンバーです。
 アーティストについては、場所にこだわるか、もしくはたくさんの人を巻き込んでいけるか、あるいはその両方の要素のある人たちにしようと。ひとりのキュレーターが担当できる作家は4〜5人ですから、20人ぐらいがマックスでした。

 
■4人のキュレーターと作家
秋元雄史=小沢剛、カミン・ラーチャイプラサート、中村政人、宮田人司
鷲田めるろ=アトリエ・ワン、KOSUGE1-16、友政麻里子、フランク・ブラジガンド、丸山純子、
      八幡亜樹
黒澤浩美=牛島均、塩田千春、高橋匡太、トーチカ、八谷和彦、松村泰三
高橋律子=青木千絵、高橋治希、藤枝守
 
  ●3年ごとに継続して開催される展覧会と聞いています。
秋元:やっていけたらいいなあと。今回は1年ぐらいの準備期間で開始しましたが、毎年これだけのことを継続していくには、スタッフにかかる負担が大きすぎるので、2年とか3年とか、あるいは5年に1回でもいいと思います。ただ、継続していくことが大切。1回限りでは単なるイベントになってしまうので、どう継続していくかが問題です。
 
●同じ作家が継続して参加していくこともありますか。
秋元:全くないことはないですね。展開の仕方次第ということもあるでしょう。今回参加している中村政人は今の会場で「アートセンターをやります」ということなので、3年たつと様変わりしている可能性がある。そのときに作家としてでてくるかどうか。彼の活動として紹介するということはあると思います。

●場所について、どうお考えでしょうか?
秋元:意外と知っているようでいて、地元の人も知らないというか、あまり使っていないんですよ。住んでいると行くところも決まってくるし、仕事をしていれば行き帰りのルートも決まってきます。旅行者のようにある程度の距離をもって場を見るということはあまりないと思うんですよね。そういう日ごろの日常的な目線ではなく、もうちょっと旅行者っぽいというか、非日常的な目で自分たちが暮らしている場所を見て、そのなかで魅力的なところとか、そうではないところを見ていくということが大切なのかな、と思います。
 あまり目的的になりすぎないほうがいいんじゃないかな。たとえば商店街の活性化のためにとか、アートが、「この作品を置くとどれだけ儲かります」みたいな話になってしまうと、つまらないので。やはり、アート本来が持っている日常的な側面みたいなものをある非日常に変えていったりとか、その作品があることで、普段見えなかったものが見えてくるとか、全然違う風景をつくってしまうとか、まさにアートがもっている非日常的な側面というものはずっと大切にしたいです。
 まちづくりとか、機能とか役割をもたせすぎるとつまらないことになってしまうので。その点では直島時代からも含めて、いい感じで動いていると思います。
 
●今回の展覧会の目標を「一人ひとりが身近な場所で、アーティストと一緒に活動することで、自らの可能性を信じ豊かな生活を作り上げていくこと」とされています。
秋元:もう戦後の高度成長期のような豊かさを一般化することはできないですよね。
 たとえば大企業に入れば安定するというようなこともない。みんなで一緒に豊かさを共通でイメージできることもない。明らかに低成長期に入り、今日より明日のほうが金銭的に豊かになるはずとか、社会ももっとリッチになるはずということもない中で、どういうふうに自分自身を作り上げていくか、何を目標にして生きるかってすごく重要だと思うんです。
 初めて日本が近代主義的な、個人主義的な「わたくし」みたいなものを作り上げていかなければいけない時期だと思います。そこで、「豊か」ということばがキーワードになっていくと思います。どんな生活をしていても、どんな状態でも、自分がハッピーならば、それでいいと思うんです。ある種、価値観や生き方にかかわっていくと思うのですが、それぞれがそういうものをもっている社会が豊かだと思います。答えが出せるわけではないけれど、この展覧会が自分自身で考えるきっかけになってくれればいいと思います。社会を見ていく価値基準、自分が生きていくための価値を自分で見つけられなければ幸せではないでしょう。
●今後の展開として、今回外に出た美術がまた美術館の中に入るということもありますか。
秋元:来年の春の企画展は、一度外に出たので今度は中へということを予定しています。元来この美術館ができたときは、独立したスペースがあって、自由にそのスペースを行き来できるものだったのですが、企画展はここ、コレクション展はここ、フリーゾーンはここ、というように、スペース割ができてしまっているのが現状です。春の展示では、それを本来のスペースに戻そうとしています。
 1アーティスト1スペースとすると、10人以上のアーティストスペースができます。まるで街の中をめぐるように。今は間仕切りで仕切られているところは基本的に全部開放できるので、縦横無尽に移動できて、歩く人は楽しいと思います。
 
(2008.10.4.金沢21世紀美術館にて 取材/重野佳園)  
  秋元雄史(あきもと・ゆうじ)
金沢21世紀美術館館長。1955年東京都生まれ。東京芸術大学美術学部絵画科卒業。91年から2004年6月まで、(株)ベネッセコーポレーションに勤務。美術館の運営責任者として国吉康雄美術館、ベネッセアートサイト直島(旧・直島コンテンポラリーアートミュージアム)の企画、運営に携わる。ベネッセアートサイト直島では、97年から2002年まで直島・家プロジェクト(第一期)を担当。主な展覧会は、「直島スタンダード」展、「直島スタンダード2」展など、街中の民家、空家、路上など直島全体を会場とした屋外型美術展の開催。

1992年〜2004年までベネッセアートサイト直島、チーフキュレーター。2004年〜2006年12月まで地中美術館館長/(財)直島福武美術館財団常務理事、ベネッセアートサイト直島・アーティスティックディレクター。
 
 
●information
「金沢アートプラットフォーム2008」
金沢21世紀美術館が、金沢の街を舞台に、市民と一緒に作品を作り上げる参加型の展覧会。公演や商店街、街中の空き家などを活動の場に、19名のアーティストが形式にとらわれない作品を展開。多くの人が参加するワークショップが行われ、街中では展示が行われる。アートを通して人が出会い、新しい出来事が起こること、そして人々の間に対話が生まれ、社会の間を架橋することで、より豊かな街を創り出すことを目指す。

■2008. 10. 4(Sat)〜2008. 12. 7(Sun) 金沢市内19カ所
http://www.kanazawa21.jp/exhibit/k_plat/index.php