高橋美江 絵地図師・散歩屋
窪島誠一郎「ある若い画家への手紙」−信州の二つの美術館から−
もぐら庵の一期一印
滝口和男
岡村桂三郎
松井冬子
日野之彦
小滝雅道
遠藤彰子VS佐々木豊
長谷川健司・中野亘
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やなぎみわVS佐々木豊
清野圭一
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小滝雅道氏

'Round About

第16回 小滝雅道

ひょっとすると、文字を書くために使っていた点や線が、絵画を構成する上で思わぬ影響を及ぼしているのではないだろうか。そんな疑問を解き明かしつつ、流麗な線を自在に描いて制作する小滝雅道は、全く類例の無い絵画表現をめざしている。そこで、この度の個展会場で作家本人から創作の秘密を聞き出してみた。

※画像はクリックすると拡大画像をひらきます。   
  小滝雅道「点でもない・線でもない、No.81」 小滝雅道「点でもない・線でもない、No.177」  
  ●書の文字のような線で表現されていますが、書を学んでいたのですか?こういった表現に至るきっかけは何だったのでしょう?

書は子どもの頃からまったく習ったことはないんです。普段は日本画を描いていますが、ある時は文字を書くために線を書きますよね。その線を日本画の方で考えてみようと。もしかしたら書的な文字線が、日本画の線になんらかの影響を与えているのではないか?そんなふうに疑問に思ったことがきっかけです。はっきりとはわかりませんが、僕は書的な構成とか文字の構造、特質も、絵画の平面化と装飾化に影響を与えているのではないかと思っているんです。

●作品の中に言葉やメッセージが隠されているという仕掛けは?

何もありません。逆にそういうものをつくっていくことはたいへんですよね。文字になったものは磁力が発生しています。無名性、名づけがたいもの、言いがたいものであることが、文字の持つ磁力から距離を置く僕なりのスタンスなんです。文字は、言葉




 
  にしたり文章にすることで力を人に伝える道具ですが、僕のやっていることは絵画なので、あえてそういうものを排除して、捨てて、残ったものが線だけの形体なんです。その中で何ができるか可能性を求めています……。フレームの中にどうやっておさめるかというのは、文字も絵画も同じだと思いますが、僕の作品では中心や方向を持たせないようにして、なるべく文字の磁力(字力)から離れるようにしています。
 
 





小滝雅道「点でもない・線でもない、No.333(波濤図)」
小滝雅道「点でもない・線でもない、No.258(那智瀧)」


小滝雅道「点でもない・線でもない、No.214」
 
  ●墨が印象に残る作品ですが、色とのバランスが何とも言えない空間をつくり出していますね。

作品は、何層にも墨をのせて、その上から色をかぶせたり、またそこに墨を入れたりと重ねていきます。書の一回性とは違うところですね。重層的な画面で、空間が生まれてきます。線の中にも立体的に見える部分がありますが、垂らし込みという日本画の技法で、墨の中に色を注し、起伏、立体感、奥行き、うねりを出そうと思っています。フレームの中のバランスというのは、絶えず一筆一筆意識して描いていきます。

●どのようなプロセスで仕上げていくのでしょう?

下図をつくり、だいたいの色や線の配置を考えてから描いていきますが、まったく同じにはいきませんね。下図がないように思われがちなんですが、そうではないんです。重層的といいましたが、奥から手前に、自分に近づけていくように絵の具を塗り重ねていき、最後に墨で仕上げます。多くの日本画は下図の通りに仕上がっていくもので、偶然性はあまりないものだと思いますが、僕の場合は書的な偶然性も取り入れて動きが出るようにしています。思い通りにいかなかったら修正を加えたり、重ねたりしますよ。そこは書と違う点でしょうね。何枚も描けないところに集中力が必要です。制作日数は2ヶ月くらいですが、画面に向かったときに自分のモチベーションをもっていくのは、野球選手がバッターボックスに立ったときと同じような感覚かと思います。
 
   
   
  ●アクリル絵の具も使っていますね。

和紙の弱点を補強するために使っています。なるべく新素材を取り入れて、新しい作品にしようと。混ぜ方もいろいろあるんですが、僕自身にあった比率で使っています。自分としては日本画という意識はないですね。むしろ自分の仕事は漢字とか文字とかにも興味がありますので、どちらかといえば東洋絵画とか…。ただ、現代に生きていますから、もちろん西洋絵画も入っています。あえて既成の枠から逃げるような、飛び出すような、つかまらないようなところでやっています。

●日本画というフィールドを超えていこうと。

自分の色を出すために、絵の具を錬って混色したり、手で混ぜたりしている。そういった意味で僕の仕事は昔の錬金術のように「錬色術」というのがいいのかなと思っているんです。そのほうが広がりが出てきますよね。日本画からも距離を置いて、なおかつ書からも距離を置く立場。そこにいつもいるように、追い込むような作品をつくっていくことで、両方を客観的に見られるようなところにいたいのです。日本画を学んできて、幅広い東洋の文化の中で、今自分が表現する上でプラスにしていけるものを具現化する、作品にするということに取り組んでいこうと思っています。






 
   
 
(2006.3.14 渋谷・松涛「ギャラリエ・アンドウ」個展会場にて取材) 
 
  

 

小滝雅道(こたきまさみち)
1961年 東京生まれ
1984年 東京芸術大学日本画科卒業
1986年 東京芸術大学大学院修士課程日本画修了
1989年 東京芸術大学大学院後期博士課程修了
1999年 第5回フリーマン フェローシップにて留学
1999(アメリカ/ヴァーモント スタジオ センター滞在制作)

【個展】
1988年 銀座スルガ台画廊/東京
1990年 ギャラリーなつか/東京
1996年 玉屋画廊/東京
1998年 Gallery 朋/東京
1999年 アート ギャラリー閑々居/東京
1999年 Vermont Studio Center Red Mill Gallery/USA
1999年 東京国際フォーラム・Exhibition Space/東京
2000年 Kitakamakura Gallery/鎌倉
2000年 BATH HOUSE STUDIO/鎌倉
2000年 ギャラリーなつか/東京
2003年 BATH HOUSE STUDIO/鎌倉
2006年 ギャラリエ アンドウ/東京
 
  【グループ展】
1986年 第1回「有芽の会」有楽町西武アートフォーラム/東京(〜'92)
1996年 「DRAWING−その表現と可能性Part1/Part2」玉屋画廊/東京
1996年 「Mac World Expo/ Tokyo レトラセットCG展」幕張メッセ/千葉
1996年 「フィリップ モリス アート アワード1996展」
1996年 青山スパイラル/原宿クエストホール/東京
1996年 「開廊記念展」アートギャラリー閑々居/東京
1997年 「第14回−今日の日本画−山種美術館賞」山種美術館/東京
1997年 「初秋の会」アートギャラリー閑々居/東京
1997年 「'97大邸アジア美術展」/韓国
2002年 「コレクション展」東京国際フォーラム Exhibition Space/東京
2002年 「Contemporary Art展」銀座井上画廊/東京
2002年 第6回「形象展」香染美術/広田美術/東京
2002年 「つくられる平面展Part2」コートギャラリー国立/東京
2002年 「近、現代日本墨画考展」潺画廊/東京
2002年 「F.S展」ギャラリーワッツ/東京
2005年 第9回「形象展」香染美術/東京
2005年 「清流の扉からvol.4」ギャラリーゴトウ/東京