繰り返しになるが、私が大陸の2都市を巡ったのは15年以上も前のことである。現在、中国でどの程度、看板類に顔法が定着しているのか、あるいは逆に風前のともし火状態なのかを知らない。しかし、台北では顔法が健在であったことを確認できたことは格別うれしかった。
一般企業・商店で顔真卿流が多いのは地元資本系である。だが、グローバル化が台北にも押し寄せ、日本を含む外国資本はそれぞれ独自にデザインしたロゴタイプ(商標文字)を使っているケースが大半。たとえば、日本の大都市と同様に、台北でも街の至る所でセブン−イレブンやスターバックスを見かける。これらの店は当然のことのように世界共通の統一デザインを採用している。また、地元資本系でも、新しいデザインを導入しているケースが多く、伝統的な商標文字からの離反が顕著である。
残念ながら、顔真卿流に代表される商標は、グローバル化の進展に押され、危機を迎えているのかもしれない。しかし、漢字文化圏において、力強い楷書は揺るぎない信頼性の証しであり、芸術性と視認性を併せもつ。それをもっともみごとに体現しているのが顔真卿の楷書であろう。台湾の顔法に永久の命あれ、と祈らずにはいられない。
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