高橋美江 絵地図師・散歩屋
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北川宏人氏
'Round About

第37回 北川宏人

2007年4月、東京国際フォーラムで開催された「アート・フェア東京2007」での出来事。北川の作品は初日のプレスプレビューの時点で完売の状態、ブースの前には接客を待つ人が列をなした。だが意外なことに、そんなことは今回が「初めて」だと本人はいう。アジアマーケットも注目する気鋭彫刻作家、北川宏人。新作が並ぶ個展会場で、インタビューを行った。

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●イタリアに留学されたきっかけというのは。

北川:大学時代(金沢美術工芸大学)に木彫、石彫などやって、その中では粘土が一番好きだったんです。で、抽象よりも具象が好き、具象といえばイタリアだと思って。大学を卒業した時にとにかく翌年の8月にはもうあっちへ行こうと思っていたから、一年位必死でバイトしてお金を100万位貯めて。イタリア語を勉強する余裕も無かったし、何の用意もないまま行ったものですから、言葉は解らないわ、貧乏だわ最初は大変でした。それでもなんとか仕事を見つけて、働いて、美術の学校にも通って…。遊んでいる余裕が全くなかったですね。30歳くらいからは、朝起きてアトリエに行って制作して、家に帰ったらワイン飲んで寝る、日々これの繰り返し。
でも結局今も変わらない生活をしていますね。日本ではワインが缶チューハイになりましたけど。
 
 

●イタリアに行かれてからテラコッタでの制作を始めたのですね。

北川:そうですね。あちらに行って6〜7年たってからテラコッタのうまい先生と出逢って。
割と頑張って仕事していたので目をかけてもらって、テラコッタのテクニックやイタリア式石膏取りなども教わりました。イタリアでは歴史上でテラコッタに手を染めている作家は沢山います。イタリア人ではないけど、ロダンもテラコッタで作品を残していますし。具象の彫刻家はテラコッタをやっている人多いですよ、ブロンズに比べるとかなり安価で扱い易いから。ただ現代美術ではテラコッタはあまり見かけないですね。
 
 
●とはいえテラコッタそのものという感じはしないというか。最初作品を拝見した時に、遠目で見るとテラコッタに見えないなと思ったんですが。

北川:そうですね、従来のいかにもテラコッタっていう作品を作っていてもダメだなと。イタリアでもテラコッタは素材として知られていても特に注目はされていないから。だから歴史上の作家とは違うようなかたちで使ってみようと考え、原色の赤とか青をアクリル絵の具で塗っちゃいました。それが96年頃のことですね。油絵のキャンバスに塗るジェッソを塗って研ぎ出したり、茶で汚したり、金箔貼ったりという見せ方は誰もがやっていましたから。
かたちにおいても「うまさ」という土俵で戦おうとは思っていませんよ。過去の作家でも、テクニック的にうまい作家は沢山いますから。オリジナルな自分の秩序を持った形体にすることが大切だと思っています。かつ「今」表現できるものでないと、僕にとっては全然意味がないんです。メディアや美術評論家や一般のコレクターにしても、人は今までにない作品を目にして感動したいわけですもんね。
 

●オリジナル、という言葉が出ましたが人物像の特徴的な表情に新作では変化を感じたのですが。

北川:表情は変わりましたね。対象が日本の若者という点は変わらないんですが。ここ数年「ニュータイプ」というテーマで作品を作ってきました。ニュータイプというのは次世代の能力を持った人たちのこと…まあガンダム用語なんですけど(笑)そこからきています。時代の変化のなかで従来の体制がそのままの形では通用しなくなっていく事ってありますよね。新しい価値観や考え方が生まれ古いものを打破していく。その際には必ず摩擦が生じるんです。そういった摩擦を突き抜けていける人達がニュータイプなんですよ。今の時代のニュータイプ達の持つオーラや雰囲気を具現化したものがニュータイプシリーズだったんです。
 
それと、彼らの目つきが鋭いのは、彫刻を続けていくこと自体が厳しいから自分の中の戦ってる部分が作品にも出ているのかもしれません。新作との違いはその辺だと思います。
で、今回はニュータイプ以外の今の日本の若者を象徴できるようなものを作ってみようと考えたんです。ニュースを見ている限りでも、彼らを取り巻いてる問題ってすごく色々あるじゃないですか。男女の性差が曖昧になったとか、引きこもりという言葉だとか、いじめ問題もそうですし。そういう事象をざっくりと掬い上げて、自分というフィルターを通して出て来たものが今回の作品なんです。だから違いといえば、今回の作品は以前よりテーマを絞りきっていないから、人物にも色んな表情が出てると思うんですよ。とんがっているばかりじゃないですからね。
 
 

●特に眼が違うように思います。

北川:そう、眼がとろんとしているものもあります。それってパッシヴな受け身の表情なんです。戦ってる人達の一方で、世の中に対してものすごく受け身な人も確実に増えていますから。姿勢も、特に横から見てもらうとわかるんですけど、猫背というか背筋が曲がっていたり。以前は背筋をピンと伸ばして立つ人物ばかりでしたけど。その辺は意識的に変えています。