高橋美江 絵地図師・散歩屋
窪島誠一郎「ある若い画家への手紙」−信州の二つの美術館から−
もぐら庵の一期一印
金井訓志・安達博文
クラウディア・デモンテ
森田りえ子VS佐々木豊
川邉耕一
増田常徳VS佐々木豊
内山徹
小林孝亘
束芋VS佐々木豊
吉武研司
北川宏人
伊藤雅史VS佐々木豊
岡村桂三郎×河嶋淳司
原崇浩VS佐々木豊
泉谷淑夫
間島秀徳
町田久美VS佐々木豊
園家誠二
諏訪敦×やなぎみわ
中山忠彦VS佐々木豊
森村泰昌
佐野紀満
絹谷幸二VS佐々木豊
平野薫
長沢明
ミヤケマイ
奥村美佳
入江明日香
松永賢
坂本佳子
西村亨
秋元雄史
久野和洋VS土屋禮一
池田学
三瀬夏之介
佐藤俊介
秋山祐徳太子
林アメリー
マコト・フジムラ
深沢軍治
木津文哉
杉浦康益
上條陽子
山口晃vs佐々木豊
山田まほ
中堀慎治


'Round About


第45回 諏訪 敦×やなぎみわ

  やなぎ:それに対して、モデルの反応は?
諏訪:大抵健気に応えてはくれますが無茶なことはさせません。いちいち指図するより動いてもらって、ポーズを拾い出すことが多いです。
やなぎ:例えば、ヌードは困るとか言う人も?
諏訪:当然、困る場合はさせません。モデルさんが希望してきたにしろ私が頼んだにしろ、本来の生活に影響を与えない、というのを一応のルールとして課しています。いろんな境遇にある一般の方たちですから。
 
   
   
標本になる欲望
やなぎ:こういう細密な写実絵画というのは、ものすごい時間と労力の積み重ねがあるわけで、呼吸するように描いて一体感が作品とあるんじゃないか、という憧れはありますね。
諏訪:生活と一致していたいというのは理想ですが、実際は緩やかなものではなく私の場合苦痛が多いです。他の画家さんにうかがうと、制作していて陶酔や高揚感があると言う人が確かに多いけど、信じられない。作業そのものは苦痛に感じます。
 
やなぎ:完全に私の妄想でしたね(笑)。作品と一体化して恍惚と描いていると思っていました。
諏訪:むしろ無理やりやっていますね。ただ、単純作業がある線を超えると瞑想状態に近い感覚を得る時もあります。割と自動的にやっているのかもしれません。
やなぎ:気がついたら髪の毛ができていたみたいな。
諏訪:そうそう(笑)。
やなぎ:そんなことはないと思いますけどね(笑)。
諏訪:(笑)その時間には頭が違う動き方しているのでしょうか。
やなぎ:私は学生のときに工芸をやっていて、途中からハンドメイドで同じマテリアルを作るという“集積アート”に変わりました。そのときは肉体が勝手に動いて、気がついたら作品が完成していて、すごい疲れているみたいな。覚醒しているのかよくわからないところで朦朧と作っている感じがした。作品と自分が一体化しているような魔力があるんですよ。写実の場合、そこまで朦朧とすると描けなくなるのでは?
諏訪:編み物やパターンを繰り返すようなかたちは女性特有の傾向に感じます。ある意味私の瞑想状態と似ているのかもしれませんが、基本的に描写は意識的な作業のみで成立します。熱狂のうちに埋没できるのはある種の才能だと思います。
やなぎ:これは自分が描いたんじゃなくて誰かが描かせてくれた作品です、とかいう人いるじゃないですか。
 
   
諏訪:そういうのは疑ってしまう(笑)。詰まるところ写実ってどこまでも上っ面なんですよ。私がどんなに時間を費やして話を聞いたりしても、その人が背負っていた例えば悲しみなどの感情が絵に反映されているかというと殆どされていないと思うし。だったらなんで相手に質問を重ねたり、時間を共有し追体験しようとしたりするかというと重ねてのセンテンスになってしまいますが、乱暴なのが嫌なんですよ。
やなぎ:乱暴なのが嫌?
諏訪:私は冷酷に対象の視覚情報だけを描くというすごく暴力的なことをやっているとも言えます。だけど特に人間にはいろんな側面があって、上っ面だけ引き剥がしてくるのはあまりに誤解を含んだ行為ではないかと思うのです。たかだか絵画の為の取材の中で、それを完全に回避できるかと言うと全くおこがましい話なのですが、最終的に画面に表れない無駄な行為にせよ手順は踏んでおきたい。
やなぎ:でも、私がもし男だったらジャパニーズビューティーはすごく好きだと思いますね。ストーリーと女性美描写、オリジナルとステレオタイプ、このギャップにグッときます。
諏訪:このシリーズは美人画のフォームを踏んでいるけど、誤解を恐れずに言うと本質は証明写真に近いと思う。
やなぎ:そうですね。テキストがなかったら、本当に美人画のスタイルですよね。
諏訪:視覚的側面以外の要素をテキストなどで補完する事は、写実絵画の本道から外れた行為とも言えるし。
 
  やなぎ:すごく男性らしさを感じます。私にこれは描けないし、写真でも撮れないですよ。グランドマザーズは、しわ一本にしてもモデルといっしょに考える。こちらとは対極の違ったフェティッシュなんでしょうね。
諏訪:やなぎさんはディスカッションを通し一種の共犯関係を築いている。しわ一本まで設定して行くとは、あるがままとは違う種類の緻密さで、畏怖を感じます。
やなぎ:諏訪さんのモデルさんには描かれるがままという欲望もあると思うんですよ。
諏訪:標本的でもあるしね。
やなぎ:標本になる欲望ってあると思うんですよね。グランドマザーズでさえも標本の一つとも言えるんですよ。サンプリングみたいなところがありますからね。まあモデル参加という言い訳はつけているわけですが。
諏訪:やなぎさんの平滑でクリアーな作品から温かみを感じるっていうのはちょっと不思議ですね。
 
やなぎみわ「My Grandmothers/ HYONEE」
H 1300 x W 1000 mm 2007年
© Miwa Yanagi
やなぎ:対象物とはちょっと違いますからね。私とモデルの二人で目指す五十年後の年配女性というのがあるので。
諏訪:私は分離した対象として扱いますが、どこまでも本質にたどり着けないという実感があってどこか諦めてさえいるところがある。
やなぎ:でも、そういうところがないと写実ってできないのかもしれないですね。髪の毛一本一本を描くっていうのは、届かないものに対してなにか祈りを込めて描いているように感じるので。
 
  アート・トップ219号 諏訪 敦 リアリズムを解き放てより)  
諏訪 敦(すわあつし)
1967年北海道生まれ、1992年に武蔵野美術大学 大学院造形研究科修了。 1994年には文化庁派遣芸術家在外研修員としてスペインに在住、彼の地で参加した国際絵画コンペで大賞を受賞し本格的に活動を開始。帰国後、前衛舞踏の先駆者として知られる大野一雄、慶人親子の協力を得て、一年間取材し描いた連作(2000年)を発表、これを契機に古典的な意味での写実表現から次第に離れ、個展でのシリーズ作品発表へと活動の中心が移っていった。以降「JAPANESE BEAUTY」(2003年)「SLEEPERS」(2006年)「Stereotype」(2008年)などを発表。2008年美術館での初個展「複眼リアリスト」(佐藤美術館)開催。
HP:http://members.jcom.home.ne.jp/atsushisuwa/

著作 『諏訪敦絵画作品集1995-2005』
     /求龍堂刊 (ISBN4-7630-0518-9 C0071)
     便利堂 コロタイプ ポートフォリオシリーズ
    『半眼 HANGWAN』/便利堂刊  など

 

 

●information
■〜複眼リアリスト〜諏訪敦絵画作品展
 2008年1月17日(木)〜2008年2月24日(日)
 佐藤美術館
 
やなぎみわ(やなぎみわ)
神戸市生まれ。京都市立芸術大学美術研究科修了。写真やCG、ビデオを駆使しながら、女性をモチーフにしたユニークな作品で国際的な活躍を続けている。 1993年より商業施設とエレベーターガールをモチーフにした作品を制作し、数多くの国内外展覧会に参加。2000年より、若い女性が自らの半世紀後の姿を演じる写真作品「マイ・グランドマザーズ」、実際の高齢の女性達が古い記憶の中の祖母について語る、ビデオインスタレーション「グランドドーターズ」などを制作。2004年、グッゲンハイム美術館(ドイツ)をはじめ、国内では丸亀猪熊弦一郎現代美術館(香川)など巡回個展を開催。2005年、原美術館で「無垢な老女と無慈悲な少女の信じられない物語」を開催。
HP:http://www.yanagimiwa.net/
 

 

●information
■STILL/MOTION 液晶絵画展
 2008年2月14日〜2008年4月13日
 三重県立美術館

■椿会展2008
 2008年4月10日〜2008年6月15日
 資生堂ギャラリー