高橋美江 絵地図師・散歩屋
窪島誠一郎「ある若い画家への手紙」−信州の二つの美術館から−
もぐら庵の一期一印
諏訪敦×やなぎみわ
中山忠彦VS佐々木豊
森村泰昌
佐野紀満
絹谷幸二VS佐々木豊
平野薫
長沢明
ミヤケマイ
奥村美佳
入江明日香
松永賢
坂本佳子
西村亨
秋元雄史
久野和洋VS土屋禮一
池田学
三瀬夏之介
佐藤俊介
秋山祐徳太子
林アメリー
マコト・フジムラ
深沢軍治
木津文哉
杉浦康益
上條陽子
山口晃vs佐々木豊
山田まほ
中堀慎治


'Round About


第5回 篠原有司男 VS 佐々木豊
※画像はクリックすると拡大画像をひらきます。   
   
 
佐々木:でもね、ボクシングペインティングは若いときには体力が続くじゃない。描いてる途中で水飲んじゃったりしないの?
篠原:途中で水なんて飲んじゃみっともないじゃない。芸術なんて、カッコよくなきゃだめなのよ。
佐々木:客が多ければ多いほどいい。だから、スポーツマンとか舞台芸術家に近い。アクションアーティストだからTVカメラがあればあればあるほど傑作が生まれる。
篠原:個展するというのはみんなに見せるということで、その中にアクションとリアクションがある。そうやって自分を奮い立たせるの。だから今度展覧会やる神奈川県立近代美術館に国宝級の絵を入れる15メートルのケースがあるのよ。よし!すごいことをやってみようと思った。以前、中国からきた毒蛙を見たときにこれは何かにしようと思ってて、そのウィンドウケースを見たときにこれは蛙を入れようと決めたわけ。蛙に一番フィットする物はと考えて、思いついたのがセザンヌだった。
佐々木:なんで蛙にセザンヌなの?
篠原:それは直感力だよ。蛙とミミズじゃ当たり前だよ。蛙はミミズを食べるし、それじゃおなかいっぱいになる。蛙とセザンヌだからすごいんだよ。あのサント・ヴィクトワール山と水浴があってジオラマ風になっているんだ。
佐々木:美術館なんかで個展やる時作家は必ずギャラリトークやれって言われるんだよ。でも絵の前で喋るほど馬鹿馬鹿しいことないんだよね。
篠原:なんで? こんな嬉しいことはないじゃない。絵で表現出来ないものを口八丁手八丁でプッシュできるんだから。これからやんなきゃだめよ。
 
   
   
 

 
   
   
 

佐々木:時代が自分の方にやって来たっていう実感あるでしょ。
篠原:じつは「迷宮美術館」でやったのだってすごく恥ずかしかった。
佐々木:恥ずかしいって言葉はギューちゃんの辞書に無いと思ってた。
篠原:とんでもない。「篠原はどんな道具を使ってるのか」って質問で回答者がみんなはずれてんだよ。そこに黒い袋かぶった本人がどうぞって言われてジャーンと出ていく。
佐々木:まるで「K−1」の入場のようだ。僕もボクシング大好きでやってた時代がある。
篠原:あっ、やってたんじゃない。俺なんかふざけてるけどさ。
佐々木:僕はまじめにやってた。そこがギューちゃんと違うんだ。11PMにも出て、ファイティングポーズで葉巻とか眼鏡とかすべてサイズがでかいのを世界中から集めて身に付けた。翌日から後追い取材がすごくて。恥ずかしいから取材はすべて断ったけどね。

 
   
 

佐々木:ところでこの前のオークションで草間彌生の作品が5,000万とか、ニューヨークで村上隆や奈良美智が何千万とか。ギューちゃんはオークションとか商業スペースではゼロなの。
篠原:ゼロ。
佐々木:でも作品は日本の美術館にほとんど入ってる。
篠原:うん。
佐々木:あなた前衛の巨匠なんですよ。これは言葉の矛盾なんだけど。
篠原:巨匠じゃないよ。
佐々木:が、普通の絵描きになったと思う。ネオフォーブのね。これからもすごいエネルギーを発する絵描きだね。だから割と絹谷幸二に近くなってきた。
篠原:そのうちまた違うチャンスが出てくると思うよ。だから愛知万博なんかでも人間国宝の狂言師や笛奏者といっしょになってやるのよ。まあ俺も国宝級なんだよね。
佐々木:そりゃ国宝級だよ。だって73歳で生き残ってる人だもの。
篠原:なんかなぁ、生き残りって言うなよ。
佐々木:だって後ろ見ると死屍累々でしょ。
篠原:頼むよー。俺まだ食いてえ物いっぱいあるしさ。
佐々木:池田満寿夫も晩年は自分の作品が残るか非常に気にしてた。「タエコの朝食」は残るけど、映画は残らないとかね。
篠原:そんなこと気にしてたらだめだね。だって作品なんか美術界に腐るほどあるしさ。

「アート・トップ」205号(8月20日発売)よりテキストを一部抜粋して制作しました。
◇資料提供:ギャラリー山口

 
 

 
 
◇◇ インフォメーション ◇◇
◎篠原有司男氏の大々的な回顧展があります。
オープニング初日にはこれぞ篠原の原点とも言えるボクシング・ペインティングの実演制作を公開で行います。


【会場】神奈川県立近代美術館 鎌倉館
    TEL:0467-22-5000
    http://www.moma.pref.kanagawa.jp/museum/
【会期】2005年9月17日(土) 〜11月6日(日)
    (休館日が不規則ですのでご注意下さい)
【ボクシング・ペインティング 公開制作】
  9月17日(土)14:00PM〜(予定)
  雨天決行 実施場所/美術館入口の大階段下
 
   
  ◎この秋、佐々木豊氏も日本橋高島屋を皮切りに全国巡回の大々的な個展
「佐々木豊個展−薔薇女」を開催します。

●2005.10.12(水)〜18(火)−東京日本橋高島屋6階美術画廊
●2005.11.02(水)〜08(火)−JR名古屋高島屋10階美術画廊
●2005.11.16(水)〜22(火)−高島屋大阪店6階美術画廊
●2005.11.23(水)〜29(火)−高島屋京都店6階美術画廊
●2005.12.07(水)〜13(火)−高島屋横浜店7階美術画廊

◎また、明星大学(青梅校)でも「佐々木豊1972-2005展」が開催されます。
●2005.10.17(月)〜22(土)−明星大学(青梅校)図書館展示室

 
  

 

篠原有司男(しのはらうしお)
1932年(昭和7年)東京に生まれる。
1953年東京芸術大学美術学部油絵科入学
1957年同校中退
1960年に結成された「ネオ・ダダ・オルガナイザース」の牽引力になった。当時の美術界に「これが芸術か?」という大問題を提起した。その後、ボクシンググローブで叩きつけるように描く「ボクシング・ペインティング」でも大きな波紋を呼び、旋風を巻き起こす。1969年には制作の拠点をニューヨークに移し、旺盛な創作と発表を続けている。「ぎゅうちゃん」の愛称で知られ、アートのみならず様々な活動を展開している。
 
  

 

佐々木豊(ささきゆたか)
1935年(昭和10年)名古屋市に生まれ。
愛知県立旭が丘高校美術科、東京芸術大学油画科、同専攻科卒業。1992年、第15回東郷青児賞を受賞。国画会会員、講談社フェーマススクールズアドバイザー。主な著書に「浮気な女たち」「構図と色彩」「はじめてのクロッキー」、「絵に描けなかった絵の話」・「泥棒美術学校」「画風泥棒」・そしてこの対談も収録されている待望の最新刊「プロ美術家になる!」が 2008年4月に刊行。(芸術新聞社刊)、「佐々木豊画集−悦楽と不安と−」(求龍堂)など多数。