高橋美江 絵地図師・散歩屋
窪島誠一郎「ある若い画家への手紙」−信州の二つの美術館から−
もぐら庵の一期一印
諏訪敦×やなぎみわ
中山忠彦VS佐々木豊
森村泰昌
佐野紀満
絹谷幸二VS佐々木豊
平野薫
長沢明
ミヤケマイ
奥村美佳
入江明日香
松永賢
坂本佳子
西村亨
秋元雄史
久野和洋VS土屋禮一
池田学
三瀬夏之介
佐藤俊介
秋山祐徳太子
林アメリー
マコト・フジムラ
深沢軍治
木津文哉
杉浦康益
上條陽子
山口晃vs佐々木豊
山田まほ
中堀慎治



'Round About

第11回 会田誠 VS 佐々木豊
洋画家の異才・佐々木豊と現代美術家の奇才・会田誠の至極まじめな画家人生対談。「アート・トップ」207号(12月20日発売)掲載の連載企画“免許皆伝 美術稼業の奥義”に先立ち、一部をネットで大公開します!
※画像はクリックすると拡大画像をひらきます。   
  “スキャンダル”からの足の洗い方  
   
 
●下品にならねば
佐々木:表現力が抜群で、若くてハンサム。こう三つ揃ってる絵描きは少ない。今言った三つで一番自信があるのは?
会田:全部無いですよ。歳は四十。佐々木さんから見たら小僧でしょうけど、僕の属する狭い意味での現代美術ではもう中堅。
佐々木:いろいろ文章も書くし、自作について解説がやたら多いよね?
会田:最近は控えてます。
佐々木:なぜ?
会田:自分のことをしゃべるのはもう飽きたというか。
佐々木:小説も読んだんだけど。
会田:読んでくださったんですか。恥ずかしいです。
佐々木:僕も恥ずかしくなった。破廉恥な純愛小説だと思うんだけど、小説が書けるってのは好奇心とパワーがある証拠。
会田:恥の上塗りというか、これを忘れてもらうために新しいの書かなきゃと思いつつ、書けないですね。

 
   
   
  佐々木:『ミュータント花子』も読ませていただいたんだけど、あんなに性器描写が出てきて、そろそろご子息の寅次郎くんが、親父さんの描いたのを見る歳頃でしょ。パパの仕事だと堂々と見せる覚悟はできてる?
会田:たぶん見せちゃうでしょうね。今でも、僕のに限らず、下品な雑誌などは家にいっぱい転がってるし。
佐々木:「いい加減にしなさい」とか奥さんは言わない?
会田:妻も美術家で、破廉恥なビデオ作品とかも作っています。
佐々木:もう一代も含め、三人で破廉恥をやることもありそう?
会田:でも息子が両親を嫌って、すごく道徳的な人間になるかもしれない。両親がかなり潔癖な方だったので、ぼくはこうなっちゃったんで。
佐々木:教育者でしたね。厳格な。それに対する反動が…。
会田:すごくあった。自分で言うのもなんですけど、根は上品なのに、頑張って下品にならないといけないという強迫観念があった。
佐々木:ただ、芸術家といえども、社会の中で生きてる。だんだん子供が育って、どこか有名校に入れたいとか、これから奥さんもそういう風に変わらないとも限らない。そうすると、太宰治が「家庭の幸福は諸悪の根源だ」と言ったように、会田さんも小市民のモラルを憎んで今のままどんどんいけるのかどうか。
会田どうでしょうねえ。周りは「もっと破廉恥な絵を描け」と期待して、それに応えていれば、絵は売れるんでしょうけれど、ぼくはだんだん尖った表現はやらなくなってくると思います。でもそれは、家庭の幸福とかのためじゃなくて、ぼくの個人的な変化としてですけど。
佐々木今度はどんな破廉恥をやってくれるんだろうかって。その期待に対して応ずるのか、それとも裏切っていくのか。期待はエスカレートするでしょ。これしんどいよね。行き先に警官が待っているかもしれないし。







 
 

会田昔のように社会が美術全体をそう注目してないんじゃないかな。寂しいくらいクレームは来ませんよ。
佐々木取り締まるほど美術にパワーが無い。
会田まあ、アングラなカルチャーって感じでやっております。

 
 

会田:ぼくはまともな絵描きじゃない、ということをまずは言うべきなんだろうと思って今日ここに来ました。子供の頃も、時を忘れて絵を描くような少年でもなく、漫画家になりたかったとよく言うけれど、絵というよりは、ストーリーがなんとなく好きだった。大学進学でも、勉強は嫌いだけど、東京に行って何か文化的な仕事をやりたい、だけど漫画大学は無いし、とりあえず美術大学に行っておけば、選択肢がいろいろ残るかなあと思った程度。予備校の時は、朝から晩まで油絵の具と格闘してましたが、大学に入ってしまったら、絵筆をほぼ捨てたような状態で、なんちゃってコンセプチャルアートみたいなものにすぐ行っちゃった。こういうベタベタな具象画をやってもいいかなあと思ったのは、大学の四年が過ぎてから。もう一回、ちまちまと絵を描いてみたいなと思って、技法材料研究室へ行くことにした。佐藤一郎先生の教室です。一番カタい、会で言うと白日会とか、ああいう細密画の世界に飛び込んだ。面接の時に、「学部時代の四年間、何にも絵を描かなかったけど、これから二年間はまじめに絵を描きます」って約束しました。
佐々木:それが今になって良かった。
会田:だからぼくが「絵を描く男」というイメージが創られたのは大学院行ってからのことです。

 
   
 
佐々木:芸大に入るには、十五、六から、まあ下手したら二十歳まで、石膏や静物デッサンを何年間もやる。光と影で立体感を出して、バランスをとって、形もとってという描き方が否応なしに身についちゃう。だけど、その通り油絵描いたって、面白くもなんとも無い。だからある時期、困ったものを身に付けちゃったなという、そういう戸惑いなんかがぼくはあったんだけど。
会田:ぼくの頃は、受験には石膏デッサンはまず出ないと言われていた時代だから、ガチガチな石膏デッサン的ものへの敵意や被害意識は他の世代より少ないかもしれないですね。
佐々木:でも、入ってからヌードデッサンが待ってるじゃない。

 
 

会田:ええ、入ってから二年間はヌードだけでしたね。
佐々木:熱心に描いた?
会田:ある時は熱心に。古典技法のテンペラと油を混ぜて描きなさいっていう時だけすごく緻密に描いて、確か一番良い成績もらった。他は、女の人の顔を、少女マンガのように眼を大きく描いて星をキラキラ散らしたり、手の関節が十個ぐらいあるお化けみたいのを描いたら、講評会で「君は来る大学を間違えた」って一言で講評が終わってしまった。
佐々木:でも、この絵「ジューサーミキサー」を見ると、ガラスの中の人物一つ一つが非常に丁寧に、真に迫るように描いている。でも、「DOG」シリーズの女の子は、この首輪とったら何でもない普通のヌードでしょ?