高橋美江 絵地図師・散歩屋
窪島誠一郎「ある若い画家への手紙」−信州の二つの美術館から−
もぐら庵の一期一印
三瀬夏之介
佐藤俊介
秋山祐徳太子
林アメリー
マコト・フジムラ
深沢軍治
木津文哉
杉浦康益
上條陽子
山口晃vs佐々木豊
山田まほ
中堀慎治



'Round About

第6回 音と光の白昼夢 松尾高弘

闇で満たされたギャラリーに、インタラクティブアーティスト
・松尾高弘さんが光舞う静謐な世界を幻出させました。手の平
から光が解き放たれる心地よさ。その光が消えゆくときの切な
さ。幼い頃、夢中になって作ったしゃぼん玉や、落ちるのをじ
っと見つめ続けた線香花火のように、生まれては消える光の振
る舞いは、淡くノスタルジックな気分に浸らせてくれます。

 
 
 
「Phantasm」(2005)
光る球体をかざすと白く光る蝶たち
が溢れ出す。参加者を包み込むよう
に飛びまわる蝶たちは、球体の光を
隠すことで夢のように消えてゆく



●制作のコンセプトは何ですか?

作品の前でアクションを起こすと、それがきっかけになって映像や音が空間を作るというインタラクティブ(双方向性)のインスタレーションです。作品が人と関わり合って成立するものなので、作品と触れ合うときに感じる美しさだったり、その反応を見たときの気持ちよさだったり、感動だったり、喜びだったりを大事にしたいと考えています。ただ、技術的なものを感じさせる必要はなくて、表現としてはすごくシンプルな接し方で体験できるものを心がけています。

●展覧会タイトルにもある“幻想”というのが制作上の共通テーマとしてあるようですね。

そうですね。特に自然からインスピレーションを受けることが多いです。流れ星だったり蛍の光だったり、日常の中にも幻想的な体験ってありますよね。そのときの心地よい記憶。僕がメディアを使って作り出す世界は、だれもが共通で持っているその感覚に訴えかけようというものです。現実とすぐ隣り合わせにあるような、だけど架空の世界に入り込むことで心地よい体験をしてほしいと思っています。でも、意識的に幻想的なものにしようというより、自分の気持ちに引っ張られたらそうなっていました。だから、こういう作風なんだって気づいたのも最近なんですよ。

●蝶が出てくる作品が最新作のようですね。

新作の「Phantasm」は幻影という意味ですが、映像を映像として見せるのではなく、一つの世界を立ち現せるような幻影として使おうと考えました。人が作品世界とつながり合い一体化するというコンセプトですね。光る球体をかざすと、向こう側の世界にいる蝶たちが現れて、こちらに呼びかけてくれる、空間全体が一つの窓になっているというものです。
 
 
●タイトルもいいですね。どのタイミングで浮かぶんですか?

作品によって違います。例えば、指輪が光を生み出す作品「Floating Light」は後からつけました。「Phantasm」は幻影を映し出すというコンセプトが明確だったので最初に浮かびました。自然に「幻影→Phantasm」という意味の言葉になりました。夜光虫という意味の「Noctiluca」は、言葉が持つ神秘的なイメージに引かれてつけました。活字としてきれいなものや、語感の心地よさを重視しています。はじめは意味がわからなくてもいいぐらいで、僕も辞書を引いて見つけたんですよ(笑)
 
   
  ●表現に対する志向が先にあったんですか? それともテクノロジーに対する興味から入ったんですか?

もともとテクノロジーには興味がありました。ただ、学校で技術習得はしてきたんですけど、テクノロジーだけでは段々物足りなくなってきて、表現として人の心に訴えかける技術ということも考えていました。それに外観デザインに興味を持ったのも一つの理由ですね。例えば、工業の現場でもシミュレーションやバーチャルリアリティの分野でCGを用いるケースが多くあります。ただ、それらはシンプルでわかりやすいビジュアルなんですが、デザインに物足りなさを感じる面があります。ロボットなんかもそうですね。産業用ロボットというのは外観もへったくれもないわけです。コスト面から引き出した最低限のデザインですし、人の心を豊かにすることが第一目的ではないので当然なんですけど。

 
   
 
「Floating Light 〜光、降る夜〜」(2003)
スクリーンの前で指輪をはめた側の
手を開くと、色とりどりの光が生み
出される。その浮遊する光は捕まえ
ることで泡のように弾ける


あと強烈に覚えているのは、小学校の頃にアジア博覧会「よかとぴあ」(1989年)というイベントで入ったパビリオンですね。大画面映像と連動して椅子が揺れたりするアトラクションで、映像が単純にテレビや映画という枠を超えて、体感と繋がっていることを知りました。そういう機会ってあまりないじゃないですか。その気持ちよさを感覚的に覚えていたのも体感型のインスタレーションに向かった一つの理由です。それでアートとテクノロジーの接点の中で生まれるような作品になったわけです。

●エンターテイメントと表現の線引きはどう考えていますか?

人をどう気持ちよくさせるかという共通点はありますが、エンターテイメントは意味が広いのでアートとの境界線はちょっとわからないですね。ただ、僕の作品の場合は、人を楽しませなければいけないと思っているんですよ。作品としては成り立っているものの、見る側の気持ちをぜんぜん満たさないものってありますよね。インタラクティブの作品は必ず人が介入するものなので、そういう作品には絶対なりたくない。作品に触れてもらう限りは必ず気持ちよくさせるということを前提に考えています。
 
   
 
「Noctiluca」(2004)
空間の乱れを感知し頭上の闇が青白く発光する。参加者の動きにより青白い光たちが生命を持つようにざわめき出す

●受賞歴が多いですね。

そうですね。ただ、選ばれることはもちろんうれしいのですが、それ以上にお客さんたちからじかによい反応を聞けたことが、かけがえのない経験になっていると思います。そういう経験があったからこそ、見る側を喜ばせたい、心地よくさせたいという気持ちがより一層強くなりました。

今はギャラリーの枠を超えてパブリックな場所で発表するチャンスがほしいと思っています。年代だったり人種だったりを超えてもっと多くの人たちに楽しんでほしいし、それに僕の作品を通じて楽しいことを発見してもらえたらうれしいです。

 
     
   
  ●今回の会場である横浜ポートサイドギャラリーはどうですか?

空間全体が広くてすごく開放感がありますよね。お声を掛けていただいてすごく運がよかったと思います。横浜の街自体、海が近いせいもあって空が広いし、風の通りもいいし、開けていますよね。僕の作品は、許される限り大きくしたいし大きくできる作品なので、そういう土地柄と場所でのインスタレーションというのは相性がいいと思います。
 
  

 

松尾高弘 略歴
1979 福岡県生まれ
2002 アジアデジタルアート大賞展2002 インタラクティブ部門 入賞
2002 ブロード・バンドアート&コンテンツ・アワードジャパン 優秀賞
2003 文化庁メディア芸術祭学生CGコンテスト グランプリ
2003 SFC Digital Art Award 2003 グランプリ
2003 アジアデジタルアート大賞展2003 インタラクティブ部門 優秀賞
2004 クリエイティブヒューマン大賞2004 優秀賞
2004 アジアデジタルアート大賞展2004 インタラクティブ部門 入賞
2004 九州芸術工科大学大学院芸術工学研究科 修了
2005 個展 ヨコハマポートサイドギャラリー「真昼の幻想」
●ホームページ:http://www.monoscape.jp/

 
  
  【インフォメーション】
 現在ヨコハマポートサイドギャラリーにて個展が開催されています。
 お近くにお出かけの際は、ぜひお立ち寄り下さい!
展覧会名 松尾高弘展 真昼の幻想
会場 ヨコハマポートサイドギャラリー
 横浜市神奈川区栄町5-1
 横浜クリエーションスクエア(YCS)1F
 tel:045-461-3033
 http://www.ycs-ap.com/
会期 2005年7月15日(金) 〜 9月3日(土)
日・祝日休廊(夏期休廊:8月11日〜8月17日)
時間

11:00PM〜6:00PM