高橋美江 絵地図師・散歩屋
窪島誠一郎「ある若い画家への手紙」−信州の二つの美術館から−
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'Round About
第1回 可哀想なおじさんを大切に〜西澤千晴
「スーツ姿のおじさんがいっぱい登場するあの作品ですよ」
「あ〜、しってるしってる」。こんな会話があったのは、つ
い3日ほど前。その作家・西澤千晴さんの東京画廊での展覧
会が近いとの情報が入ったのだ。こいつは面白い話が聞けそ
うだ。会場で飾 り付け中の西澤さんに早速お話を伺いました。


 ■可哀想なおじさんと、それ以前    
  ●うーん。このおじさんたち、私も身につまされるというか(当方42才)、可哀想になるんですけれど。

西澤:そうですよね。けれど、私たちの生活の中には、このような情報が溢れてますよね。けれどあまりにそのような情報が多くって麻痺しちゃっているんですよ。その何気なく聞き流している毎日のテレビだとかの情報を、「じゃあ実際に画面にしてみたらどうかな?気持ち悪いでしょ?」ということなんです。
 
『ハッピーガーデンE』2004年 72.8×53.0cm
哀れゴミ袋に詰められた中年男。
20年後の我が身を思う……。
 
●おじさんシリーズより以前はどんな作品だったんですか?

西澤:学生時代は版画を制作してたんです。オーソドックスなリトグラフの作品。具象のような半抽象のような作品だったんですが、変わってきたのは30才を越えたぐらいからですかね。自分が制作しているものと毎日自分が感じているものとが遊離していると思っちゃって。「制作しているときは別」みたいなすごい違和感があって。ずーと「何か違う」と思ってましたね。かといって、どうすればいいと具体的に思いつかないし。そのうち作品がシンプルになって、葉っぱの群生のみになったり、人形だったりしましたね。その頃から普段の自分と出てきた作品がクロスするようになってきた気がします。ポロッと出てきたんですよ、人物は。こうすれば、ああなるというような感じじゃなくて、「人物って手もあるな」くらいの軽い感覚でしたね。人物なんて学生時代から全然描いていませんでしたから、多少不安はありました。はじめのうちは、ジオラマに使うようなプラモデルのフィギュアを使ってポーズを考えて、そこから動きを変えていって。だから、自分の頭の中で模型を動かすような感じですよね。
 
  ●30才頃というと5年くらい前ですね。子供の頃プラモデルのジオラマは作りました?

西澤:全く作りませんでした。凄く憧れていたんだけれど、子供の頃は自分じゃ買えないし、買ってもらった記憶もないし……。本になってるペーパークラフトで、そこそこのやつは作りましたね。飛行機なんかだとかなりちゃんとしたのが出来たんですよ。プラモデルもやっていれば、はまったんだろうけれど。

●ジオラマって感じはありますよね。

西澤:今回の「ガーデニング」も、以前 「オフィス ライフ」を制作したときも、 そういう仕事に携わっている人にあれこ
 
れ取材して作ったわけではなくて、自分の頭の中で創っていったんです。それって自分の部屋の中でジオラマで勝手に話を創ってゆく状態に近いんじゃないかと思うんです。実際にジオラマって言葉を使ってますし。ロッカーとかテーブルとか、ポルシェとかの小道具は、状況に説得力を持たせたいし、見る人のきっかけにもなるのでしっかりと描いてます。ただ、人物に関してはあまりよけいな状況を入れずに自分の頭の中で「こんなこともあるのでは?」と描くようにしてます。

●可哀想な気もするけれど、おじさん本人自体が嘘くさかったりしますもんね。
 
 ■ちぐはぐなガーデニング   
 
『ハッピーガーデン(イン・アワ・タウン-A)』
2004年 130.3×162.1cm
地図から描き起こされた作品。
実在する横浜のとある住宅地。
  ●あ、この作品には登場人物がいませんね。

西澤:これ、実は連作でしてね。上空から見た構図で、ホントはいるんだけれど、まだ小さすぎて見えないという設定です。だんだん高度が下がってきて、「何かやってるぞ」となんとなく見えてきて、もっと下がると細かいところまで解ってくる。実際の地図から起こしたんですよ。

●どこなんですか?

西澤:横浜の、私が住んでいる住宅地です。コンビニもなかなか無いくらい。どこか変ですよね。
 
●いわゆる新興住宅地なんですね。いびつに進化しちゃった。

西澤:その住宅地を歩いていると、どこにもやっぱり庭があるわけですよ。そこを「ちゃんと」というか、ガーデニングしているわけですよね。たぶんガイドブックみたいなので調べて手入れしてるんでしょうね、それっぽい置物があったりして。ところが、イギリスのガーデニングの資料とか見ると、やっぱり向こうのガーデニングと違う。取り入れ方が浅はかというか。どこかちぐはぐに感じるんです。
 
●「ちがうだろ〜?」という感じですね。

西澤:ただし、「こんな嘘くさいこと……」と完全に否定できるのかなとよくよく考えてみると、そもそも日本の異文化の取り入れ方って、中国とかヨーロッパの文化をとりあえず取り入れてみて、それを何百年かかけて日本独自のものにしてきた歴史がありますよね。ひょっとしたらこれもそのうちに、ヨーロッパ人が気がつかない何か面白いものになるのかもしれない。だから、否定したいところと肯定したいところがあって、「どっちなんだろう?」という「ゆれ」みたいなところが作品になってゆくのかなと思いますね。
 
『ハッピーガーデン(イン・アワ・タウン
-E)』2004年 65.2×53.0cm
ラクダと腹巻きスタイルのおじさんは作業員?

(2005.2.24 東京画廊にて取材)
  

 

西澤千晴 略歴
1970 長野県生まれ
1993 東京造形大学造形学部美術学科絵画専攻卒業
1993 さっぽろ国際現代版画ビエンナーレ入賞、日仏会館ポスター原画コンクール入賞
1995 東京造形大学版表現コース研究生修了
2004 VOCA展佳作賞受賞

ギャラリー現、ギャラリー山口、東京オペラシティーアートギャラリーなど個展多数
 
  
  【インフォメーション】
 現在東京画廊にて先生の個展が開催されています。お近くにお出かけの際は、ぜひお立ち寄り
 下さい!

『ハッピーガーデン(イン・アワ・タウン−D)』2004年 65.2×53.0cm

展覧会名 西澤千晴「ハッピーガーデン」展
会場 東京画廊
 東京都中央区銀座8-10-5 第4秀和ビル7階
 tel:03-3571-1808
 http://www.tokyo-gallery.com/
会期 2005年2月28日(月)〜2005年3月19日(土)日・水・祝休廊
時間

11:00AM〜7:00PM(土曜は5:00PMまで)