高橋美江 絵地図師・散歩屋
窪島誠一郎「ある若い画家への手紙」−信州の二つの美術館から−
もぐら庵の一期一印
日野之彦
小滝雅道
遠藤彰子VS佐々木豊
長谷川健司・中野亘
松本哲男
やなぎみわVS佐々木豊
清野圭一
Jean Claude WOUTERS ジャン・クロード・ウーターズ
長尾和典VS鷹見明彦
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カジ・ギャスディン・吉武研司
千住博VS佐々木豊
山本容子VS佐々木豊
三瀬夏之介
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秋山祐徳太子
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マコト・フジムラ
深沢軍治
木津文哉
杉浦康益
上條陽子
山口晃vs佐々木豊
山田まほ
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'Round About


第26回 千住 博 VS 佐々木 豊

※画像はクリックすると拡大画像をひらきます。
   
 
千 住:自分の滝の絵を見てきますと、2006年の滝の絵と1995年のヴェネツィアの絵は全然違います。当初は滝の迫力や神々しさやリアリティを追っていたんですが、今は滝の情報だけを伝えていくためになるべくフラットにしていこうとしている。滝のかたちはしているが、もはや抽象絵画のようなんです。
佐々木:滝の絵は誰が見ても千住の滝だ。しかしこれから、何十年も滝だけでは済まされない。他の絵を描いたとき、千住の絵だというアイデンティティはどうなるのだろう。
千 住:それはもうどうでもいいと思っています。大作はほとんどサインをしていなくて、誰の絵だと思われてもかまわないと思っています。多くの人の心に響く何かがそこに残るということが大事ですから。ただ、さまざまな絵を描いても、 どの絵も僕の中の核は手放していません。宇宙観であるとか空間意識であるとか透明感であるとか。
 
   
   
 
日本絵画と欧米絵画の違いとは
佐々木:「フラットウォーター」など、絵か、硬調にした写真なのかどちらなのか見分けがつかない作品もあるけど、千住さんにとって、写真と絵の違いを端的に言うと?
千 住:僕もプロジェクターのスライドを使って大きな絵を描くことがあります。ただそれは、全仕事の最初の二、三パーセントの部分で、綺麗なかたちだけ拾っていくために一つの画面に数台のプロジェクターで、違う映像を重ねて映してみます。また、連続写真や動画で滝を撮ると、水の固まりがどういう風に落ちてくるのか手に取るようにわかる。エアーブラシの流し方でたいへんヒントになりました。それで質問の答えですが、僕の結論は写真と絵画の違いは何もありません。
佐々木:そんなズバリと言っていいの。
千 住:たとえば、国際展では僕の絵の隣に写真作品が並びますが、まるで違和感はない。光州ビエンナーレも隣の部屋はオノ・ヨーコのビデオでした。絵画的な写真もあれば写真的な絵画もある。問題は、作家のビジョンだと思います。僕も写真やビデオの方が適していると思ったらそれで展覧会をするでしょう。
佐々木:絵を描くことにこだわらないんだ。
 
 
千 住:最近気がついたんです。日本の美術と欧米の美術はどこで分かれるか。昔は絵の具と言われました。僕もそう思っていたんですが、ごく最近、考え方を訂正しました。それは、紙に描くかキャンバスか印画紙かという支持体の差です。上に乗せる絵の具というのは結局似たようなものなんです。ウォーホールを考えてみても、その上に絵を描いてみても、写真を印刷してみても、そんなに大きな差は無いわけです。紙とキャンバスと絹とコットンに、並行して同じような絵を描いて気がついたんです。それに至る経緯として羽田空港の天井から吊るす作品を創った時に、紙とフィルムとゴムと布と人工皮膚で試したんです。だからこだわるとすれば支持体です。僕は結局紙が心にしっくりきた。 なおかつ一番破れにくく、視覚的効果も抜群だった。要するに、文化というのは支持体なのだと思いました。
佐々木:それは面白い発見ですね。紙を見直そうと考えているんですか。
千 住:紙だから残ったという文化もあります。強いと思われているものほど実はもろかったりする。そういう強弱を考えた時に紙は意外なしぶとさを持っているということに気がついた。この話は今日が初披露なんですよ。
 
 
(ポートレイト撮影:遠藤 純/アート・トップ 新装刊1号(212号)より抜粋) 
 
  

 

千住 博(せんじゅひろし)
1958年東京生まれ。87年東京芸大大学院博士課程修了。95年第46回ヴェネツィア・ビエンナーレ優秀賞受賞。2000年「両洋の眼」展・河北倫明賞受賞。02年大徳寺聚光院別院襖絵完成。第13回MOA美術館岡田茂吉賞大賞受賞。03年、グランドハイアット東京に壁画制作。04年羽田空港の第二ターミナルのアートディレクターを務める。現在、京都造形芸術大学副学長
■公式ホームページ:http://www.hiroshisenju.com/

■千住博・展覧会予定
11月11日までの韓国・光州ビエンナーレに出品。
10月7日(土)〜12月24日(日) NAOSHIMA STANDARD 2 「家プロジェクト」 香川県直島・地中美術館
12月2日(土)〜3月4日(日) 千住博展 山種美術館 フィラデルフィア・松風荘・襖絵を公開
 
  

佐々木豊(ささきゆたか)
1935年(昭和10年)名古屋市に生まれ。
愛知県立旭が丘高校美術科、東京芸術大学油画科、同専攻科卒業。1992年、第15回東郷青児賞を受賞。国画会会員、講談社フェーマススクールズアドバイザー。
主な著書に「浮気な女たち」、「構図と色彩」、「はじめてのクロッキー」、「絵に描けなかった絵の話」・「泥棒美術学校」「画風泥棒」「プロ美術家になる!」(芸術新聞社刊)「佐々木豊画集−悦楽と不安と−」(求龍堂)など多数。


■おしらせ
この千住博 VS 佐々木豊対談の他に、人気アーティストとの対談が収録されている「プロ美術家になる!」が 2008年4月に刊行になりました。