高橋美江 絵地図師・散歩屋
窪島誠一郎「ある若い画家への手紙」−信州の二つの美術館から−
もぐら庵の一期一印
日野之彦
小滝雅道
遠藤彰子VS佐々木豊
長谷川健司・中野亘
松本哲男
やなぎみわVS佐々木豊
清野圭一
Jean Claude WOUTERS ジャン・クロード・ウーターズ
長尾和典VS鷹見明彦
わたなべゆうVS佐々木豊
カジ・ギャスディン・吉武研司
千住博VS佐々木豊
山本容子VS佐々木豊
三瀬夏之介
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マコト・フジムラ
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山口晃vs佐々木豊
山田まほ
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'Round About


第17回 遠藤彰子 VS 佐々木豊
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縦の迫力を発見……
佐々木:こういう構成を考えているときに横の方が楽なのになどと悩みません?
遠藤:たしかに私たちが生きてる空間は横広がりですね。特に田舎に行ったら、縦だと空だけになってしまいますね。だけど、私の絵は空だけじゃ駄目なんです。上を空にしたくないから、ねじったりひっくりかえしたりしちゃう。
佐々木:空は何にも無いからつまんないもんね。
遠藤:もうひとつ、人間にとって大きさは重要で、面積のもつ力を発見しましたね。あんまり意味無く大きすぎるっていうのはいけないんじゃないですか。
佐々木:で、地面が上の方に行っちゃったんだ。そこで遠藤さんが発明したのは、階段を入れること。バベルの塔みたいに上の方に伸ばして、建物が縦にも重層的に広がっていく。
遠藤:階段は上っていくと、宇宙の果てにいくような感じが表せると思ったんです。抽象的な現代美術の流れの中で、絵に感情はいらないと言われた時代がありましたけど、私は感情を控除した絵というのは納得できないとそのころ思っていましたから。
佐々木:階段によって、高いとこへ行きたいという人間の本能を表した。
遠藤:本能です。感情を形にするにはいいと思ったわけ。
佐々木:遠藤さんにとって、視点の流れがスパイ



 
  ラルで上がったり下降したりというのが気持ちがいいんだね。だから、縦の絵が描けるんだ。
遠藤:でも、それだけじゃ駄目なんです。
佐々木:なんで?
 
   
 

 
   
  遠藤:ただ上に上がっていく視点は、上に空があるという視点です。それは普通な感覚で、もう一回これをひっくり返して降ろしていくような、逆転していく感覚を持たなきゃいけないと思ったの。
佐々木:空が下にきたり海が上にきたり。
遠藤:だから、私の場合は構成をがっちりし直さなきゃ絵にならないと感じた。要するに絵の中では自由自在に生きたいと。
佐々木:二紀展の幹部に「遠藤さんのあのでかい絵は規約違反じゃないの?」って聞いたら、「いや、あれは横の制限を守っています」って。ああそうか、遠藤さんは大きい絵を発表するために縦にのばしているんだと納得した。
遠藤:まあ、それも一つにはありますけど(笑)。横ばかりの絵の中で、縦に描いたら絶対迫力が出ると、ピンときたというのもあります。
佐々木:縦の方が出るかねえ。
遠藤:そりゃ出ますよ。だって空間というのは、上に目がいく。上に目がいくということは、上に描きたいものを置かなければならない。それで縦を研究しだすと、ある逆転効果を狙わないと絵にならないということがわかった。百号だとそうでもないんですが、五百号ぐらいになると見る人の視線がはるか上に行ってしまうので、日常の空間だけで考えるには限界がある。だから現実を超えたものを描かないと、がらんどうな絵になっちゃうと思った。それで、こういう構図を考え出したというのが正直なところ。
佐々木:でかい絵が描ける秘密は多分、エネルギーと根気だけじゃなくて、構成力だということがよくわかった。
 
 
手が五本あったっていい……
 
  佐々木:遠藤賛歌になるんだけど、加えて視点の自在さがあり、これでもかこれでもかという人物のさまざまなポーズの変化がある。上からの視点は、ビルの上から下を歩いてる人を見れば、スケッチしたり記録できるじゃない。難しいのは下から。
遠藤:それは記憶とか想像ですね。
佐々木:赤坂のディスコティックで、ガラスの板の上で踊るゴーゴーガールを下から見上げたことがある。ああこんなに下から見る人間は面白いのかって気づいたことがあった。
遠藤:ああ、それは楽しみも含めていい経験ですね(笑)。
佐々木:上も下も横も、ほとんど抵抗なく描ける?
遠藤:抵抗なくというか、私ね、人間を描くときに、人間が本当にそのように見えたら、手が五本あったっていいと思ってます。そのものに見える、その感じが出るというのであれば、いいんじゃないかと。
佐々木:そう、絵は説明じゃない。
遠藤:現実ではできないけど、絵の上で思いっきり自由にやるというのが私はいいんですね。
佐々木: 遠近法にのっとて大小の人物を散らばらせているけど、一番大きな人物は五百号の大画面においても等身大。あとはそれ以下。だけど、動物は巨大なエイやワニなどは実物大以上もある。なぜ、人物は巨人とかぼくの絵のような顔が登場しないの。
遠藤:五百号の作品に登場してますよ。大小というのは私にとって、記憶の大小だと思います。



 
   
   
  
  遠藤彰子(えんどう あきこ)
1947東京都生まれ。68年武蔵野美術大学短期大学油絵科卒業。86年文化庁芸術家在外特別派遣(インド)。99年武蔵野美術大学造形学部油絵科教授就任し現在に至る。78年「広場」で昭和会展・林武賞、80年「駅」で女流画家協会展・女流画家協会賞で受賞。86年「遠い日」安井賞。90年「私は来ている、此処に、何度も」で二紀会展・文部大臣賞受賞。2004年府中市美術館「遠藤彰子―力強き生命の詩―展」開催。
■公式ホームページ:http://www.akiko-endo.com

【展覧会情報】
「遠藤彰子展」
会期/2006年7月21日(金)〜8月27日(日)
会場/茨城県つくば美術館(茨城県つくば市吾妻2-8 029-856-3711)
 
  

 

佐々木豊(ささきゆたか)
1935年(昭和10年)名古屋市に生まれ。
愛知県立旭が丘高校美術科、東京芸術大学油画科、同専攻科卒業。1992年、第15回東郷青児賞を受賞。国画会会員、講談社フェーマススクールズアドバイザー。
主な著書に「浮気な女たち」「構図と色彩」「はじめてのクロッキー」、「絵に描けなかった絵の話」・「泥棒美術学校」「画風泥棒」・そしてこの対談も収録されている待望の最新刊「プロ美術家になる!」が 2008年4月に刊行。(芸術新聞社刊)「佐々木豊画集−悦楽と不安と−」(求龍堂)など多数。