高橋美江 絵地図師・散歩屋
窪島誠一郎「ある若い画家への手紙」−信州の二つの美術館から−
もぐら庵の一期一印
2005
2006
諏訪敦×やなぎみわ
中山忠彦VS佐々木豊
森村泰昌
佐野紀満
絹谷幸二VS佐々木豊
平野薫
長沢明
ミヤケマイ
奥村美佳
入江明日香
松永賢
坂本佳子
西村亨
秋元雄史
久野和洋VS土屋禮一
池田学
三瀬夏之介
佐藤俊介
秋山祐徳太子
林アメリー
マコト・フジムラ
深沢軍治
木津文哉
杉浦康益
上條陽子
山口晃vs佐々木豊
山田まほ
中堀慎治


'Round About


第46回 中山忠彦 VS 佐々木豊

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佐々木:写真起こしの人は、細部から始まって、横ばい式に描いていって完成という人もいる。全体から部分へという流れを取り入れないと空間の存在感がない硬い絵になっちゃう。 もうひとつ意地悪な質問。写実の展覧会を見に行って、てっきり個展だと思っていると三人展だったり。白日会もそういう傾向がどこかあるでしょ。
中 山:森田茂さんがあるとき「白日会には写真のような絵が多いですね」と評した。そういうふうに見られる危険性を持っています。ぼくは常々みんなに、「名前を隠してもだれの絵かわかるような絵を描けよ」と言うんだけれど。
佐々木:リアリズム即細密描写と思いがちだけれども、空間の中に立体感を強めるためには明暗の単純化や省略も必要ですね。
中 山:実際に物を見ていればそれができるわけですが、写真だけを見て描く人たちは、転写の作業にしかならない。
佐々木:レオナルド・ダ・ビンチの時代には、本物そっくりであることがとてつもない衝撃であったはず。こんなに映像が氾濫する現代では、そのありがたみはもう99%ない。
 
 
 
中 山:それはあるよね。写真も映画、テレビに現実描写が移り、さらに映画もコンピュータで実写映像を加工して現実であるかのような錯覚をつくりだせるという時代。そうすると、絵画に残されたものはやっぱり手わざに回帰する、つまり手わざが復権するということになってくる。しかし、本当の手わざは修練が必要だから、その修練の時間を 経なかった人たちは、また写真を頼って描く。現実とは何かが常に問われ続ける。
佐々木:手わざで迫らないと相手の体温や心理は分からない。
中 山:さっきまで生き生きしていたのにモデルが疲れた顔になってくる。そうすると、無理にでも話しかけて、元気づけようとするけれども、最初の新鮮な感覚は容易には取り戻せない。つまり手わざであれば、描いている間、生命に対する共感を持ち続けられるわけです。だから手作業と凝視の継続に私は非常にこだわりますね。
 
白日会への憂慮
佐々木:最後に、画壇的な話題を一つ。中山さんが出品を始めたころの、日展は光風会全盛で白日会は弱小会派だった。
中 山:審査員が一人も出ない年が続いた。
佐々木:ところが今や、日展の有力団体にのし上がって、画商も一番押しかける。伊藤先生を引き継いだ、中山、野田弘志両巨匠の功績だけれど、どうしてこういう逆転ができたのだろう。
中 山:伊藤先生は若い人たちを大事にして勉強の場を持たせようと「明日の白日会」をつくりました。そこでは先生もぼくらも「ああしなさい、こうしなさい」ということは言わなかった。だから作家同士が刺激し合う中で、自然に今の白日会がつくられたんだろうと思います。
 
  佐々木:「写実をやるなら白日会」という口コミも若い人に広がった。
中 山:それで画商が見に来て、何人か取り上げられて少し売れるようになっていく。
佐々木:それが、わかりやすく装飾性があり癒し系という、ちょっとイージーな次元で受け入れられているきらいもある。
中 山:今、コレクターからそのイージーな要求しかない。それは描き手とは別の一つの問題です。
佐々木:ぼくらの売れない時代を顧みて、御大将としてはそれを憂慮しているわけだ。
中 山:御大将?!憂慮しますよ。やっぱり、何か勉強する場が必要だろうと、去年、蓼科のぼくの夏の仕事場近くに研究所をつくったんです。白日会の人だけじゃなくても本気で写実の勉強をしたい人には開放しようと。夏の一ヶ月半だけだけど、ぼくの仕事が終わったらちょっと覗きに行って、アドバイスをする。でも、アドバイスできるのは、物の見方も含めた基本的な問題だけですが。
佐々木:ものの見方とか手わざは教えて効果があるよね。ただ「好きな絵を描け」だと貸しアトリエになっちゃう。
中 山:それはやらない。残念ながら今や美大がそうなっちゃいましたからねえ。
 
   
  
中山忠彦 中山忠彦(なかやま ただひこ)
1935年福岡県に生まれる。大分県中津市に育つ。
53年伊藤清永に師事し、阿佐ヶ谷美術研究所、伊藤絵画研究所に学ぶ。
54年日展初入選。58年白日会会員。69年日展特選。
80年白日会展内閣総理大臣賞。87年日展会員。
96年日展内閣総理大臣賞。97年日本芸術院賞。
98年日本芸術院会員、日展理事。01年日展事務局長。
02年白日会会長。
 
●information
■「中山忠彦 永遠の女神展」
日展初入選作品から最新作まで約70点の代表作で50年の画業をたどる。

〈巡回予定〉
●3/26〜4/7=日本橋高島屋
●4/9〜14=大阪高島屋
●4/23〜5/5=京都高島屋
●5/14〜26=横浜高島屋
●6/28〜7/21=名古屋・松坂屋美術館
●9/6〜10/13=北九州市立美術館

  

 

佐々木豊(ささきゆたか)
1935年(昭和10年)名古屋市に生まれ。
愛知県立旭が丘高校美術科、東京芸術大学油画科、同専攻科卒業。1992年、第15回東郷青児賞を受賞。国画会会員、講談社フェーマススクールズアドバイザー。
主な著書に「浮気な女たち」「構図と色彩」「はじめてのクロッキー」、「絵に描けなかった絵の話」・「泥棒美術学校」「画風泥棒」・そしてこの対談も収録されている待望の最新刊「プロ美術家になる!」が 2008年4月に刊行。(芸術新聞社刊)、「佐々木豊画集−悦楽と不安と−」(求龍堂)など多数。