高橋美江 絵地図師・散歩屋
窪島誠一郎「ある若い画家への手紙」−信州の二つの美術館から−
もぐら庵の一期一印
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2006
2007
金井訓志・安達博文
クラウディア・デモンテ
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'Round About


第38回 伊藤雅史 VS 佐々木豊

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かぎりなくでかく描きたい
佐々木:湿っぽくて暗くまじめ一辺倒の絵に反発しているところがあるよね。
伊 藤:でも、意外とデザインフェスタではぼくのような絵が多かったですね。先日三潴さん(ミヅマアートギャラリー社長)が個展に来たんですけれど、「今の流れの絵だよね」って言っていました。茫洋とした画がそろそろ終わって、こういうサイケな絵の時代が来るんじゃないかとぼくは思います。
 
佐々木:今の時代がこうだからとか意識するということはあるの?
伊 藤:それはありますね。
佐々木:盛り上がりもあれば、潮が引くときもある。ただ消費されてしまう恐れもある。
伊 藤:何か考えていくことが必要だと思いますね。サイケな感じの絵は、表舞台にはあまり出てこない。40年前だと、篠原有司男さんがいる。「ギュウちゃんに似ている」ってよく言われるんですが、篠原さんを知ったのはけっこう最近。だから影響は受けていないんです。
佐々木:君のいいところは多作で何でも描ける。大きいのも小さい絵も描ける点だね。
 
  伊 藤:そうですね。壁画とか限りなくでかく描きたい。岡本太郎の『明日の神話』ぐらいでもいい。
佐々木:桜木町の高架線の下にずーっと壁画並んでいるけれど、あの中に君が描いたのもあるよね。ぼくはあそこにあるの全部同じように見えるんだ。
伊 藤:別にそれはいいんじゃないですか。
佐々木:一種のポップアートとして共通しているんだね。
伊 藤:シールはポップアートですね。漫画もアニメも音楽も、サブカルチャーはいろいろと興味があります。
 
 
佐々木:君の絵はアナーキーなんだよね。支離滅裂のおもしさ。それは子供の絵の特徴なんだけど、大人になっても残っているから珍しい。構成なんて考えていないでしょ?
伊 藤:考えていますよ!「これは魚でまとめよう」とか。
佐々木:大人になるとキチっと構成するようになるかわりに予定調和の中で整然とした感じがしてくる。君の絵はそうなっていない魅力があるんだ。ものが投げ出されたまま散らかっている。だからいま「構成を考えている」と言われてびっくりした(笑)。でも、これ「SpiralPart2」なんかはないだろう。
伊 藤:ありますよ。失恋のショックで描いた画ですよ。
 
 
埋めないと我慢できない
佐々木:どういう構成?
伊 藤:いろいろな不吉なものを描いているんです。
佐々木:構成というのはものをどのように画面の中で構築するかということだよ。
伊 藤:メビウスの輪があって、裏表で出会うことがないという意味があるんです。これはムンクの橋。ムンクの橋のこちら側は不吉な意味がある。あと墜落した零戦とか、不吉なものばかり。
佐々木:それと君は、空きがあれば何か描いて埋めないと我慢できない。
伊 藤:やっぱりもっとシンプルに描いたらいいですか?
 
佐々木:いや、ぶちまけたようなエネルギーをもっと出した絵の方がいいね。珍しいから。どんな作家に憧れているの。
伊 藤:作品でいうと、会田誠とか横尾忠則とか、変化するというか冒険する人が好きですね。
佐々木:自分のスタイルをあえて固定させない。それでしか生き残れないということを知っている。それが特徴なんだけど、君のスタイルはすごくはっきりしている。
伊 藤:そうですね。
佐々木:団体展とかに出してみようという気はないの?
伊 藤:そうすると現代アートじゃなくなっちゃう。現代アートでいくなら、無所属ですね。
 
  佐々木:フリーで現代アートをやっていく場合、登竜門が、そのGEISAIとデザイン・フェスタと、あと批評家推薦のVOCAと、その辺りから出てくるしかないんだけれど、画廊からというのはすごく難しいよね。君みたいにできるのはほんの一握り。ところが団体展は毎年1回でかい絵を並べることができる。それもどこかから声がかかるまで気長に何年も。現代アートは、疲れてやめちゃう人が多いんじゃないの?  
伊 藤:でも、そういうものだと思いますよ。団体展に入る人というのは、もう洋画というジャンルでいく人なんですよ。現代アートと洋画というジャンルの間に関わるそれぞれの人たちにはあまり接点が無いというのも、今の日本の平面絵画の不思議な現状ですね。僕はバンドも昔やっていて、ミュー ジシャンともつきあいがあったし、いろいろなジャンルの人たちとも知り合っていき。とにかく自分の絵をたくさんの人に見てもらいたい。表現活動に制限や垣根は必要ないと思います。 
 
(2007.7.6 銀座・彩鳳堂画廊の個展会場にて取材/アート・トップ217号より抜粋)
 
  

 

伊藤雅史(いどうまっさーじ)
1978年、東京都生まれ。2000年、明星大学日本文化学部生活芸術学科卒業。卒業制作展で優秀賞。01年同大研究生修了。05年、個展「孤毒展」(原宿・Design Festa Gallery)。第6回熊谷守一大賞展で優秀賞。06年、第2回世界堂大賞展で大賞。「Design Festa24」(東京ビッグサイト)ブース展示&メインステージにて大トリ出演・ボディペインティングショー。07年、「桜木町ON THE WALL」(横浜)に参加。「DESIGN FESTA25」(東京ビッグサイト)のメインビジュアルアートワーク担当」。個展「不敵にFlashback, Danger life」(銀座・彩鳳堂画廊)
http://www.geocities.jp/massagesidopaintingworld/toppage1.htm
 
●information
■新宿高島屋10階美術画廊にて、8月29日〜9月4日まで2人展開催
http://www.takashimaya.co.jp/shinjuku/
  

 

佐々木豊(ささきゆたか)
1935年(昭和10年)名古屋市に生まれ。
愛知県立旭が丘高校美術科、東京芸術大学油画科、同専攻科卒業。1992年、第15回東郷青児賞を受賞。国画会会員、講談社フェーマススクールズアドバイザー。
主な著書に「浮気な女たち」「構図と色彩」「はじめてのクロッキー」、「絵に描けなかった絵の話」・「泥棒美術学校」「画風泥棒」・そして待望の最新刊「プロ美術家になる!」が 2008年4月に刊行。(芸術新聞社刊)「佐々木豊画集−悦楽と不安と−」(求龍堂)など多数。