高橋美江 絵地図師・散歩屋
窪島誠一郎「ある若い画家への手紙」−信州の二つの美術館から−
もぐら庵の一期一印
2005
2006
2007
金井訓志・安達博文
クラウディア・デモンテ
森田りえ子VS佐々木豊
川邉耕一
増田常徳VS佐々木豊
内山徹
小林孝亘
束芋VS佐々木豊
吉武研司
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伊藤雅史VS佐々木豊
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'Round About


第32回 増田常徳 VS 佐々木 豊

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  暗いとか明るいとかで絵が売れるとは思わない。
精神は金で幾らだと計れませんから
 
   
 
 
ドイツの森
佐々木:少し絵の話しをしなければ。一昨年、文化庁在外研修員としてドイツに滞在しましたね。
増 田:ミュンタース芸術大学に三ヶ月間在籍しました。精神文化のドイツの黒と日本の黒とを比較考察すことがテーマでした。
佐々木:分かりやすく説明して。
増 田:暗い作品のなかの闇だとか黒は、感じる力を強くしないと読み取れません。内面性を鍛えることが重視されてきます。黒というものに特別の意味を見いだすゲルマン魂や大和魂といった精神文化は、どういうところから発祥しているのかに関心があったんです。
佐々木:なぜドイツに。
増 田:皿洗いをしていた頃に、ハンブルクから来た人が板長にいて、「絵を勉強すんだったらドイツに行きなさい。彼らは勤勉だから」と言われたことがあった。その頃から、北方芸術に興味を持ち始めていましたね。いつか機会があったら行きたいと思っていた。
佐々木:森をずいぶん歩き回ったそうですね。
増 田:ゲルマン民族はかつて森の民といわれていたので、森を真先に歩いたんです。シュバルツ・バルト(黒い森)の中にドナウエッセンゲンというドナウ川の源流があるんです。そこに向かって川を辿りながら歩きました。ドナウ、ライン、エルベ、この三つの大河のそばからドイツの芸術や文化は発祥してるんです。
佐々木:その旅で、ホロコーストで知られるダッハウに行ったんでしょ。
増 田:ナチスのヒムラーが造ったドイツで一番古い強制収容所なんです。
 
  佐々木:この前の個展(新宿・紀伊国屋画廊、平成19年1月)では、ホロコーストのテーマが前面に押し出された作品が多かった。
増 田:そうですね。ぼくは時代や立場によって、殺される側と、殺戮のボタンを押す側になりうるのです。自分の中にも両方になる可能性を持っているんですね。人間の中には、このように二面性があることを、己を含め突き付けたいのです。みんな、明るいところで太陽を見て生活をしたいと思うじゃないですか。でも、暗いところがあるからこそ、星も輝くし、悲しみがあるから喜びも感じられる。そういうマイナーな部分に価値をもっともっと見出していきたいと思っています。
“黒”に向かう理由
佐々木:日本の画商はこの十年で、飯が不味くなる絵はだめ、という風になってしまった。
増 田:でも、ぼくは暗いとか明るいとかで絵が売れるとは思わない。精神は金で幾らだと計れませんから。
佐々木:バブルの頃や、戦後間もなくの頃は、小山田二郎や香月泰男、麻生三郎らの黒い絵が売れた。ところが今は、癒し系と装飾性と分かりやすいリアリズムばかりが売れている。
増 田:ドイツの現代美術、例えばヴォイスにしてもキーファにしても、ゲルマン民族が持っていた精神文化をずっと引き継いでいる。日本の場合は、印象派を見たら、狩野派をバサッと切って、そのまま真似て描いてしまう。今でも同じことをしている日本の絵描きを見ていているとぼくはうんざりするんです。
 
佐々木:それをしないと画商は振り向かない。
増 田:ぼくは暗い絵を描いているけど、そこに魅力を感じ、食べていくだけ売れることをありがたいと思います。でも、売りたいと思って描いては駄目なんですね。誠心誠意、他にはない自分が見たい絵を描くことです。
佐々木:なぜ黒に向かうの?
増 田:ただ黒く塗ればいいのではなくて、黒い色に無数の意味を見出し、内面性や精神絵画をどこまで掘り下げて、風土に根付いた研究をできるかということを考えています。
佐々木:デッサン力で勝負するにはモノクロの方がいいね。
増 田:装飾的になると、見る人は「綺麗な絵ね」で終わってしまう。「モノクローム」と言われる黒い絵は、デッサン力と質感が作品から要求されます。ぼく自身、まだまだ探求途上ですが。
佐々木:今は視聴率オンリーの時代になってしまった。自分の魂を解放するために描くべきなのに、世の中はそれを許さない。今となれば常徳さんの反骨の生き方は貴重だね。なぜなら数少ない反時代的な先例になっていくはずだから。
 
アート・トップ215号より抜粋) 
 
  

 

増田常徳(ますだじょうとく)
1948年、長崎県五島列島生まれ。76年、日仏現代美術展コンパレゾン賞。82年、現代の裸婦展準大賞。83年、昭和会展林武賞、上野の森美術館絵画大賞展佳作賞。89年、安田火災美術財団奨励賞展新作優秀賞。92年、21世紀への旗手展招待。98年、21世紀の日本洋画を担う精鋭作家たち展招待。2000年、「自然との共生−世紀末を祈る in 野崎島」を企画。05年、文化庁在外研修員としてドイツミュンスター芸術大学に在籍。2007年、紀伊國屋画廊で在外研修報告展開催。

 
 ■増田常徳展■
 2007年9月15日〜29日
 国立市・画廊岳とギャラリーコロン
 東京都国立市東1-14-17 TEL:042-576-9909
  

 

佐々木豊(ささきゆたか)
1935年(昭和10年)名古屋市に生まれ。
愛知県立旭が丘高校美術科、東京芸術大学油画科、同専攻科卒業。1992年、第15回東郷青児賞を受賞。国画会会員、講談社フェーマススクールズアドバイザー。
主な著書に「浮気な女たち」「構図と色彩」「はじめてのクロッキー」、「絵に描けなかった絵の話」・「泥棒美術学校」「画風泥棒」・そしてこの対談も収録されている待望の最新刊「プロ美術家になる!」が 2008年4月に刊行。(芸術新聞社刊)「佐々木豊画集−悦楽と不安と−」(求龍堂)など多数。

■佐々木豊の薔薇・ばら・バラ展■
2007年5月28日〜6月8日
太陽画廊
大阪市北区梅田3-2-14 大弘ビル1F TEL:06-6345-6325