高橋美江 絵地図師・散歩屋
窪島誠一郎「ある若い画家への手紙」−信州の二つの美術館から−
もぐら庵の一期一印
諏訪敦×やなぎみわ
中山忠彦VS佐々木豊
森村泰昌
佐野紀満
絹谷幸二VS佐々木豊
平野薫
長沢明
ミヤケマイ
奥村美佳
入江明日香
松永賢
坂本佳子
西村亨
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久野和洋VS土屋禮一
池田学
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佐藤俊介
秋山祐徳太子
林アメリー
マコト・フジムラ
深沢軍治
木津文哉
杉浦康益
上條陽子
山口晃vs佐々木豊
山田まほ
中堀慎治


'Round About


第70回 山口 晃 VS 佐々木豊

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佐々木:では、ここで質問を受けましょう。学生時代の修行の仕方、絵の手法の順序など今まで時間を追ってきましたが。
質 問:山口さんの絵は例えば見た目が凄く細かいとか、昔のものと現代のものが混在しているとか、所謂イラストレーション的な、表面的なところで捉えられがちだと思うのですね。ただ山口さんが以前、どこかでイラストレーションのレベルで見られるとがっかりするって仰ってたような気がするのです。イラストレーションと絵画、アートとの違いとか、どういうポリシーで描いてらっしゃるのか、学生時代と今とはどういう違いがあるのか、その辺をお聞きしたいのですが。
 
 
 
山 口:なんでしょう、きっと漫画家もすぐ尻尾を巻いて逃げ出しそうですし、イラストレーターもここ描き直してなんて言われたらへそを曲げてしまいそうなので、こういうところでずるずるやってると思うんですけど。絵に対してよく思っていたのが、日本で油絵をやるってこと、もっと言えば日本がどういう風に文化を育ててきた国なのか、ということで。さっきのインスタレーションもそうでしたけど、どうしてもサイクルというのがあちら発のものに敏感に反応して、こちらは育ててきたものを生き埋めにしているサイクルみたいなものが嫌で。私が油絵科に入って何かやろうと思ったのも、まぁ漫画を描いている方が楽しかったのですけど、せっかくこういうところに入って偶然にしろ油絵をやってるって時に、油絵の先達がやってなかったことは何かないだろうかと思いまして、生き埋めになったところを掘り返す様なところから始めまして、だったらいっその事、明治を飛び越えて江戸とか室町の絵師が油絵を手にしたらどうだろう、というようなところから始めた気がするんですね。そう思って頼朝の絵と、もうひとつ二年生の時に描きまして、その時点で行き詰まるのですね。  
 
山 口:その行き詰まりが何かというと、自分の絵はもうちょっと日本人然としての素養があるかと思ったら、描き始めましたら鎧の仕様ひとつ分かりませんし、まげをどうやっていたかも分からないし、わらじの履き方も全然知らないのですね。あーなんだ、知っているのは映画で見たお侍さんとか、時代劇に出てくる町人しか知らないんだって思った時に落書きに戻る。その時に、落書き少年から始めようというので、油絵も西洋美術も日本の古いものも面白がって取り扱って行こうってところから始まりまして、それで日本の美術を見渡してみますと、その前は日本のオリジナルがあると思っていたんですね。探せば探すほどオリジナルっていうのが、前の時代との相克で生まれてきたもので、きりがないんですね。そうするとこれはどうもオリジナルを探すのにはあまり意味がなくて、そうなると純然たるオリジナルと思っていた西洋美術なんかも各国の相互模倣だったりとか、時を経ればイスラム経由で、ルネサンスなんて直系じゃなくて、イスラムのカプセルで眠ってたものがヨーロッパに輸入されてきたっていうと、あーなんだ、あっちの本家と言われてる方ですら、そういうハイブリットの結果なのかと。日本もやっぱりそうで、むしろそれを加工したメンタリティというのがどういう事なんだろう、ってことに目が向く様になりまして、そのメンタリティの特質っていうよりかは、それに対して興味を持ち続けて何か加工していく、その同時代的な面白さを追求していくってところでいいのではないかというような、とても気楽な考えになりまして。  
 
 
  山 口:少し前までは北斎の波に写真貼付けた様なのが一番嫌いだったのですけど、あれっていうのは現代人だからこそできる非常に傲慢な描き方で、その傲慢さっていうのは現代人だからできるのだと思うと、むしろそういう風に節操なくやったものの方が現代性があって。ただまあ、未だに日本のイメージっていうと、浮世絵を一歩も出てないって点でいうと、そろそろ日本の絵描きが次のイメージっていうのを作ってあげないと。絵描きがまごまごしているうちに、漫画とか、そういう方が日本のイメージになっていて、ああいう人達っていうのは何かっていうと、節操なく模倣の、更に模倣をやって元から非常に離れるのですね。節操なく日本ばっかりやっているかっていうとそうではなくて、ハリウッドの映画ですとか、フォークロアな図像であったりとか、とにかく節操なくやってる結果、非常にどこにもないものを生み出す、浮世絵的な部分と非常に似ていまして。  
  佐々木:僕の師匠の三尾公三先生が、「『両洋の眼』展は洋画と日本画の絵描きが、普段の自分のスタイルの作品を並べるだけでは意味がない。油絵画家はできるだけ日本画の絵描きが扱う花鳥山水とか、もっと日本の古いものとかに目をやって、それで油絵の具で描いてみる、逆に日本画家は西洋の美術史をもう一度検討して、花鳥山水と離れた事をやってみるとか、できるだけ両方が普段描かないギリギリまで行かないと意味がない」という手紙を頂いたことを思い出しました。今の山口さんの発言を以前文章で読んだ時に、ああ、この人こそ「両洋の眼」展に特待として一番いい場所を与えて招待すべきだったなと思いました。残念ながら終わっちゃいましたけど。

佐々木:僕の一つの懸念は、青木繁が「海の幸」か「わだつみのいころの宮」とかを描いた時に、「大きいところが決まれば、細部はなんでもない」と言っています。あなたでいうと、アイデア、図起こしが決まれば、細かいところは機械的に描いていけばなんなく絵はできるんだと。最後は俯瞰する絵、人物も建物も、線描写の絵は何でも描けるし、細部は金太郎飴のようにくり返しで描けます。で、それが自分の目にも人の目にも飽きられる最大の理由ではないかと。ピカソなんかは最後まで、破壊して再生して、細部の線もベタだったり細かったりします。あなたの大和絵様式の細部はどれも同じなので、10年20年もつかどうか危惧しています。そういうこと考えることってあります?。
 
 
 
山 口:細く長くと思っておりますので。世間で長く続いている方を見ますと、同じ方も見ていますけど、また新しい人間がつくのです。そうすると第一線、第一面のものしか出してないってことは、それだけ分母が減るといいますか、それまでやってきた様式が並列で人の目につく事が大事なのですね。水木先生でいえば、悪魔君も見られれば鬼太郎も見られて、絵が緩くなってきた『東海道中妖怪道』みたいなのもあったりですね。大事なのはマンネリを恐れるがためにいつも新しいことをやるというよりも、逆に自分が面倒くさくてしょうがなくて、やりつくしたと思っている事を、初めて見る人がいるという事を忘れないでおくことだと思うんですね。それがあった上で、ずっと見ていて飽きようとしている人に「山口晃は挑戦してるな」とか、次何が出てくるんだろうとか、二本立て三本立てくらいの仕事をしていけたらと思ってまして。日常会話をすると全然話が通じない様な若い人が、ある日、「山口さんの絵、面白いですね」と言ってもらう為には、今のものもあるけど、むしろ昔のこなれていないものの方が、ひょっとしたら取っ付きになるかも、という事で、いかに並列して出して行くかを考えます。  
   
 
(協力:世界堂ミヅマアートギャラリー/7月24日世界堂にて取材)
作品画像 ©YAMAGUCHI Akira Courtesy Mizuma Art Gallery 
 
  
山口晃(やまぐちあきら)
1969年東京生まれ、群馬県桐生市に育つ。96年東京芸術大学大学院美術研究科絵画専攻(油画)修士課程修了。
時空の混在し、古今東西様々な事象や風俗が、卓越した画力によって画面狭しと描き込まれた都市鳥瞰図・合戦図などが代表作。観客を飽きさせないユーモアとシニカルさを織り交ぜた作風、また人間を含めた動植物と機械などの無機物を融合させた表現も特徴的である。絵画のみならず立体、漫画、また「山愚痴屋澱エンナーレ」と名付けた一人国際展のインスタレーションなど表現方法は多岐にわたる。
最近では日本橋三越100周年記念広告、公共広告機構マナー広告「江戸しぐさ」、成田国際空港や東京メトロ副都心線「西早稲田駅」のパブリックアート、槇原敬之「LIFE IN DOWN TOWN」のCDジャケット、五木寛之著「親鸞」挿絵などを手がけ幅広い制作活動を展開。
2007年上野の森美術館での会田誠との二人展「アートで候。 会田誠 山口晃展」08年12月より京都のアサヒビール大山崎山荘美術館にて個展「さて、大山崎」を開催。本年は5月よりシドニービエンナーレ(オーストラリア)に参加、10月にはミヅマアートギャラリーで個展を開催予定。

 
●information
山口晃個展
■2010年10月27日〜11月27日
 ミヅマアートギャラリー
 東京都新宿区市谷田町3-13 神楽ビル2F TEL:03-3268-2500
 

 

佐々木豊(ささきゆたか)
1935年(昭和10年)名古屋市に生まれ。
愛知県立旭が丘高校美術科、東京芸術大学油画科、同専攻科卒業。1992年、第15回東郷青児賞を受賞。国画会会員、講談社フェーマススクールズアドバイザー。
主な著書に「浮気な女たち」「構図と色彩」「はじめてのクロッキー」、「絵に描けなかった絵の話」・「泥棒美術学校」「画風泥棒」「プロ美術家になる!」(芸術新聞社刊)、「佐々木豊画集−悦楽と不安と−」(求龍堂)など多数。