高橋美江 絵地図師・散歩屋
窪島誠一郎「ある若い画家への手紙」−信州の二つの美術館から−
坂崎重盛 新刊・旧刊「絵のある」岩波文庫を楽しむ
橋爪紳也 瀬戸内海モダニズム周遊
外山滋比古 人間距離の美学
もぐら庵の一期一印
はじめまして岡村桂三郎です。
その23−作品と「出会う」ということ。
 *画像は全てクリックすると拡大画面が開きます。
  それぞれ岡村先生のコメントもついています。
(現在書きかけ中!)  
 僕たちが行ったこの旅行は、芸工大で副学長をやっている宮島達男さんが、発案して企画したものだったのですが、京都造形芸術大学の学生と、東北芸術工科大学の学生の合同で、そしてそれも、それぞれの展覧会のオープニングに合わせた時期に出かけて行ったのでした。
 「こういう展覧会に出品されている作品には、旬というものがあって、オープンの頃に行った方が、いいんだよ。もしかしたら、アーティストに遇えるかも知れないしね。」と、宮島さんも言っていた通り、確かに、まだ出来立てのホヤホヤの会場に、足を踏み入れることは、ある種の緊張感を伴って、全く新しい芸術を発見するための冒険のようでもありました。
 引率は、宮島達男さんと京都造形大学でアーティスト・サミットを担当している田中昭子さん、それに僕でした。中でも、今回のヴェネチィア・ビエンナーレの出品者の一人でもある宮島さんは、今まで、何度もヴェネチィアには出品して、注目を浴びてきたアーティストであるし、世界的には、既に名前が轟いてしまっている人でもあるのですが、ともかくいろいろと詳しいのです。いや〜、世界的アーティストというのは、かくあるべきものであるのでしょうか。僕としては、旅行中ずっと一緒にいて、毎晩のように酒(ビール)を飲み、いろいろな話をし、とても面白かったです。タメになりました。
 「まだ20代の頃、『それは、変化し続ける』『それは、あらゆるものと関係を結ぶ』『それは永遠に続く』という、三つのコンセプトに考え至ったんだよ。その時、僕は、一生作品を創り続けることができると、確信したんだよ。その頃はまだ、ガジェットによる、一連の作品が生まれる前だったのだけれど。」
 「僕はやっぱり、偉大な芸術というのを、信じているんだよ。ジョットー、ミケランジェロ、長谷川等伯、それに、榎倉康二。榎倉先生の作品は、等伯の作品に通ずるものがあると思っているんだ。」などなど、宮島さんの話は、尽きることなく面白いのですが、なにしろ、ビールが水よりも安いということは、いやはや、もう、本当に素晴らしいことでした。
 ところで、この旅の始まりに宮島さんは、「今回の旅行のテーマは、サバイバルである。」と学生たちに告げ、わざと放任的に引率していきました。海外旅行はこれが初めてだという子が殆どだったのですが、簡単なサバイバル術(?)を教えられた彼らは、それなりに知恵と勇気を振り絞り、この旅行を楽しんでいたようでした。夜は夜で毎晩、食事をしながら、宮島さんを中心に、その日見てきた作品について、夜遅くまで、真剣にディスカッションしていました。学生たちにとっては、かなりハードで充実した旅行だったのではないでしょうか。少しずつ、それぞれの表情の中に、人間的な成長が発見させられるような気がして、なんだか嬉しいことでもありました。

 さて、今回、この三つの展覧会を観て、どうだったか?
 現代美術、今日のアートの世界は、どんなもんだろうか?いったい、どのような動向で動いているのだろうか?何か、途方も無い、新しい衝撃を受けたい。と、僕としては、正直、期待に胸を膨らませていたのです。
 振り返って、今、それらの展覧会を見て、どうだったかと言うと。予想していた通り、どれも、相当なレベルに達している展覧会だったし、いくつもの気に入った作品とも出会えたし、それで良かったのかも知れない。けれど、それ以上に、予想を裏切るような、大きなショックを受ける程のものでは・・・なかったのかも知れない。
 

© Copyright Geijutsu Shinbunsha.All rights reserved.