高橋美江 絵地図師・散歩屋
窪島誠一郎「ある若い画家への手紙」−信州の二つの美術館から−
坂崎重盛 新刊・旧刊「絵のある」岩波文庫を楽しむ
橋爪紳也 瀬戸内海モダニズム周遊
外山滋比古 人間距離の美学
もぐら庵の一期一印
はじめまして岡村桂三郎です。
その25−人間万事塞翁が馬(にんげんばんじさいおうがうま)
 *画像は全てクリックすると拡大画面が開きます。
  それぞれ岡村先生のコメントもついています。
明けましておめでとうございます。
本年もどうぞ宜しくお願いします。
 お久しぶりです!結局、去年はたった一回しかこの「ひとりごと」を書く事ができていなかったですね。イヤイヤ、もうチョットは書けるんじゃないかと思っていたのですが、甘かったですね。毎度の事で、心苦しいばかりなのですが、…スミマセンです。
 実は大学の仕事は、入試部長や日本画のコース主任をやめてしまったので、少しは楽になったはずだったのですが、やっぱり忙しかったですね。なぜかと言うと、これは少々嬉しい事でもあるのですが、作品の制作や展覧会の方が、思っていたよりずっと忙しくなってしまっていたからなのです。
 いや〜、それにしても随分描きましたよ、去年は。なにしろ、気が付いたら個展だけでも、大小あわせて4回もやってしまっていました。昨年の一年間で完成させた作品の総面積をざっと計算すると、だいたい155でした。坪に直してみると、46〜47坪くらいですか。いやはや、これでは家が建てられますよね〜?
 でも、作品の大きさも、重さも、今では僕の表現の一部になってしまっていることなので、しょうがない事なのです。来る日も来る日も、重い重いパネルを運び、いくつもいくつもウロコを描き続けていたら、気が付いてみたら、腕が腱鞘炎のようになっていました。…フー(ため息)。…今でも痛みがとれないです。…トホホ、……歳なのかな?

 歳と言えば、去年の春、僕もついに50歳になってしまいました。当たり前の事ですが、今年の春には、もう51歳ですよ。51と言えば、それなりの年齢ですよ。
 ついこの前、いや、数年前、40歳になったばかりのはずだったのに、あっという間じゃありませんか?この調子でいくと、60歳、70歳、…歳と、どんどん歳をとっていく…。人の一生なんてあっという間に費えてしまうのか…。と、やや呆然としてしまうと同時に、少し寂しさも感じます。
 二度と戻れない40代。その頃の事を思い出し、少しホッとしながら、そして、懐かしく振り返る僕なのでした…。
 もともと以前から、予想はしていたのですが、果たして予想通り、画家にとって、40代というのは試練の年月だったと思います。
 画家として、もう若手とは言い切れないのに、大した実績も無いのがこの頃です。それまでの30代の頃のような体力も無くなり、勢いばかりでは通用しないような気もするのだけれど、でも、この僕に、他に何ができると言うのか…。
 社会人としての僕は、中堅として、バリバリと仕事をこなさなければなりませんでした。責任も徐々に重くなり、なんとか成功させようと、力を抜くことなど許されなかったのです。でも、時間も能力も足りない。だから、いっそう猛烈になって、一生懸命になって働きました。しかし気付いてみると、今度は、何ヶ月もの間、絵筆を持つためのほんのわずかな時間さえ、全く見つけることのできない悲しい自分がそこにいるのでした。
 家庭内では、子供はどんどん大きくなり、メシはガツガツ喰うようになります。それによって、我が家のエンゲル係数はドンドン跳ね上がりました。思春期のころは、問題を次から次へと引き起こし、カミさんは、何度も学校に謝りに行っていました。僕の方も、殴るわ、殴られるわ、おろか者の内1名は、どういう訳か何度も、骨折して家に帰ってくるわ、学費の方はトンデモナイ金額になるわ、オマケに、僕自身の体力はドンドン無くなっていくし…。
 いや〜…、タイヘンでしたよ!40代は!!
 子供たちの方は、今では、すっかり落ちついてしまいましたが、50代になったからと言って、まだまだ、それらの問題のすべてが解決した訳ではありません。でも、そういった現実を、少しは落ち着いて眺めることができるようになったような気もします。
 ところで、去年の秋に開催した、神奈川県立近代美術館鎌倉館での個展は、40代後半に制作した作品ばかりを展示したのですが、あきれてしまう程の物量の多さに、自分でも驚いてしまいました。これでも、この時期、僕の描いた大作は、全てでは無いのです。他にも、10m以上ある「白澤」を初め、他の展覧会と展示期間が重なってしまった為に、出品しなかった作品もいくつもあるのです。
「いつ?こんなに、たくさん、描いたっけ…?!」
 思い出してみると、どれもこれも全部の作品は、手に汗握るようなスリルを味わいながら、ギリギリのタイミングで仕上げてきたモノばかりなのです。

 いや〜、よくやってきたよ。
 そして去年、50代を迎えた僕へ、天からの「ハナムケ」なのか、不思議と「おめでたい」ことが続きました。
 神奈川県立近代美術館鎌倉館で個展を開催することができただけでも有り難い事なのに、それが意外と好評だったり。オマケに、運が良かったとしか言いようがないのだけれど、日経日本画大賞で大賞を受賞したりと、これは一体全体どうしたことか。まあ、ここで忘れちゃいけないのは、それぞれの所でいろいろと関わってくれた人たちがいて、その人たちの誠実な努力に対しては、どんなに感謝しても尽くせないな〜。ホントに、ありがたかったな〜…。と、思うばかりです。
 こんな風に色々とうまくいってしまうと、正直、どうしたって、何かを成し遂げたような気分になって、「このまま、めでたく、人生が順風満帆に送れればな〜…。」なんて、ポーッとした事を考えてしまい、ここまで張り詰めていた気力が何処かに消えてしまいそうになるのも人情ですよね。
 でも、これを起点に、僕の人生が大きく「おめでたい」方向に変わるというような事などあり得ない。この歳にもなると、そんな事も充分理解しているつもりです。冷静に考えてみたら、それらの事によって、僕自身の作家としての責任が増したということに、今、気付かなければならないのです。神奈川県立近代美術館で個展を開催したり、日経日本画大賞を受賞したりした作家であるという、僕に対する新たな評価。その新しい評価の基準。今後、僕の作品に対する評価の基準は更に厳しくなる。今までの経験から言っても、そんなことをジンワリ感じるのです。
 良い時が悪い時、悪い時は良い時と、ずっと感じてやってきました。悪い時期は、自分自身を成長させるのに絶好のチャンスであるのに比べ、恵まれている時期は、見通しも甘くなり、堕落しやすい。危うい時期なのだ。
 なんだかどこかの道徳の教科書にでも書いてあるような事を言っていますが、人間万事塞翁が馬。禍がやって来ても悲しむことはないし、福が訪れても喜ぶことはない。ただ粛々と佳い作品を描いていく。そういう風に努力していく事ぐらいしか、今のところ、僕のできる事は無いのでしょう。
 さて、50代に話をもどします。僕の大好きな現代の日本画の作家、例えば、稗田一穂先生にしても、工藤甲人先生や山本丘人にしても、その作家が描いた僕の大好きな作品のほとんどは、考えてみると、だいたい50代以降に描いている場合が多いのです。それは、美術史的な意味や、技術的なレベルの高さではなく、その人がそこまで生きてきて、その「いきざま」がその作品に、魅力を与えているのかも知れません。
 作品の裏側に、その人の人生が無ければ、やっぱり面白くない。その人の生き方や考え方が、作品の裏打ちにちゃんとある事。そうなる為にも、それなりに歳をとるという事が必要なのかもしれないな。何処までできるのか、わからないけど、僕も、行けるとこまで、行ってみたい気もする。
 折しも、今、世界は大不況に陥ったところです。厳しい時代がやってきました。
 と言うことは、これから、もうちょっとは佳い作品が描けるようになれるかも知れないな。なにしろ、悪い時は良い時。悪い時期は、絶好のチャンスなのですから。
 ああ、そう〜だ!
 「ひとりごと」の事も忘れちゃいけない。
 今年からの僕は違いますよ。心を入れ替えて、ガンバリマス。
 最低6回は、書きますから!!!
 …と、言っておこう。 
   
 
【インフォメーション】
「ANIMAL FANTASY イヌイト・アート&動物たち」「現代の美術表現−素材と技法」「2009両洋の眼展」「遠き道展 はてなき精進の道程」に岡村先生の作品が出品されます。
お近くにお出かけの際は、ぜひお立ち寄り下さい!


 
展覧会名 ANIMAL FANTASY イヌイト・アート&動物たち
会場 北海道立近代美術館
 札幌市中央区北1条西17丁目
 tel:011-644-6883
 http://www.aurora-net.or.jp/art/dokinbi/
会期 2008年12月9日(火)〜2009年1月25日(日)
*月曜休館、但し1/12は開館、1/13休館
時間

9:30AM〜5:00PM *入場は4:30PMまで

観覧料

一般800円、高大生400円、小中生200円 *団体割引等あり

展覧会名 現代の美術表現−素材と技法
会場 新潟県立万代島美術館
 新潟市中央区万代島5-1 万代島ビル5F
 tel:025-290-6655
 http://www.lalanet.gr.jp/banbi/
会期 2008年12月23日(火)〜2009年1月29日(木)
*月曜休館、但し1/12は開館、1/13休館
時間

10:00AM〜6:00PM *観覧券販売は閉館30分前まで

観覧料

一般310円、大・高校生150円 *団体割引等あり

展覧会名 2009両洋の眼展 第20回記念展
会場 日本橋三越本店 新館7階ギャラリー
 東京都中央区日本橋室町1-4-1
 tel:03-3241-3311
 http://www.mitsukoshi.co.jp/
会期 2009年1月27日(火)〜2009年2月1日(日)
時間

10:00AM〜7:30PM(8:00閉場)
*最終日は5:30PMまで(6:00PM閉場)

観覧料

一般・大学生500円 、高中生300円

展覧会名 遠き道展 はてなき精進の道程
会場 上野の森美術館
 東京都台東区上野公園1-2
 tel:03-3833-4191
 http://www.ueno-mori.org/
会期 2009年2月1日(日)〜2009年2月7日(土)
時間

10:00AM〜5:00PM *入場は4:30PMまで


© Copyright Geijutsu Shinbunsha.All rights reserved.