高橋美江 絵地図師・散歩屋
窪島誠一郎「ある若い画家への手紙」−信州の二つの美術館から−
坂崎重盛 新刊・旧刊「絵のある」岩波文庫を楽しむ
橋爪紳也 瀬戸内海モダニズム周遊
外山滋比古 人間距離の美学
もぐら庵の一期一印
はじめまして岡村桂三郎です。
その27−入試部長、旅がらす。(後半)
 *画像は全てクリックすると拡大画面が開きます。
  それぞれ岡村先生のコメントもついています。
 予想外の展開でしたが、いざ予備校を回ってみると、それはそれで、結構楽しい出来事が、僕を待ち構えていました。どこの予備校へ行っても、意外なことに、そこで先生をやっているのは、先輩や後輩ばかりではありませんか。懐かしい顔ばかりです。初めて会った先生達も、そのまんま皆、僕の友達になってしまって、時には予備校の近所の居酒屋で、酒を酌み交わし、芸術談義などに花を咲かせたりしていたのです。
 やっぱりここで感謝しなくてはならないのは、当時、予備校の先生をしていた友人たちですね。これが大学の営業活動であるにもかかわらず、どういう訳か、だれもがいつも、快く迎え入れてくれました。それどころか、僕の訪問を喜んでくれて、感謝さえされました。ほんとにカタジケナイ思いでいっぱいでした。中には、山形まで遊び(学校見学)に来てくれた人達や、田んぼを手伝いに来てくれたりする人も結構いました。
 予備校の先生たちのご好意もあって、気がつくと日本画の受験生の数はうなぎ登りに上昇していってしまいました。(もちろん、その前段階として、日本画の先生方全員のがんばりがあってこそなのですが。)そのことは、入試課内部では、「岡村マジック」と呼ばれるようになってしまったのでした。
 本当は、マジックでも何でもないし、カイカブリ以外の何ものでもないことは、本人が一番よく知っていることだったのですが・・・。
 しかし、そんなこんなで、僕が気が付いた時には、不本意ながら、大学の入試部長になって(させられて)しまったのでした。

 入試部長というのは、美術だけではなくデザインや芸術学の分野まで、学生募集のことから入試当日のことまで、要するに大学全体の入試に関わる全てを担当するものです。その責任の重さからも、結果がすぐに数字に出てしまうということからも、大変な仕事だったのだと思います。
 当然の成り行きですが、結局、僕自身の力には限界があり、年々僕の存在感は、薄くなっていきましたが。当時副部長をされていて、もともと部長をずっと歴任されていたプロダクトデザインの早坂功先生や、当時課長をされていた花岡孝さんや担当理事の野村真司さん初め、入試課職員の皆さんのお陰で、なんとか入試関係全般は運営されていました。ところで、当時特に、早坂先生とは、毎週のように、山形の夜の街に繰り出していました。懐かしく楽しい時間でした。またいつか、久々に行きたいな〜・・。いつも面白かったな〜。
 さてさてそれにしても、先にも述べましたが、受験生がいる所なら日本中のどこまででも行きました。もちろん、東京周辺や山形県の各地域は、いろいろと伺うのは当然ですが。そういった所以外でも、今思い出すだけでも、札幌、青森、仙台、福島、宇都宮、水戸、静岡、名古屋、京都、熊野、広島、長崎、佐世保、熊本、それから試験を実施する為だけに、韓国のソウルへも行ったこともあります。高校や予備校、学校説明会、出張講義。こんな所にも受験生がいて、こんな風に頑張っているのかと思うと、どうしたって、何とか力づけてあげたくなります。だから、僕も一生懸命でした。
 色々な所へ行きましたが、たいていは飛行機に乗ったり、電車を乗り継いで目的地の会場となっているビルや学校に着いたら、早速受験生に会い、その場で作品講評や大学の説明などしてすぐに、講評会や会議、有象無象の書類が待ち受ける大学へ、もしくは搬入直前の作品が置いてある自宅のアトリエまで、トンボ帰りで戻らなくてはなりません。もちろん、家庭のことや田んぼのことだってある。だから、日本中いろいろと行ったとしても、その土地の風土を感じられる程の時間も無く、見てきた景色のほとんどは、東京とさほど変わらない、ただただビルや道路が織りなす画一的な日本の都市の風景ばかりでした。
 それでも、会場までの横断歩道をわたる時に吹く風の匂いや、通り抜ける街の様子、そこを歩く人々の表情、途中の電車から見える海や山の有り様が、その土地々々でやはり見え方も違い、「遠くに来たんだ」という思いがしたものです。
 真冬の札幌の凍り付いた交差点、熊野古道から眺めた太平洋、夏の日差しが照りつける熊本の街、明るく青く広がる佐世保の海などなど。広島のお好み焼きや、札幌や熊本のラーメンも美味しかったな〜。
 電車を乗り継いで、青森までやって来た時。車窓から遠くを見つめる乗客の寡黙な表情を眺めながら、
 「俺も、来るとこまで来ちまったな・・。」と、まるで旅がらすの渡世人のような気分になっていました。
 そういった中で、懐かしい顔に久々に会えたり、そこへ行く度に仲良くなった友人に会うことも楽しみの一つでした。そこにはそれぞれの人生があって、でも、どの人も、それぞれの土地で、一生懸命生きている。時には、そのピュアな考え方や生き方に、感動すらしたものです。
 日帰りができない時は、一緒に旅した大学の職員の人達と、ゆっくりと話すことができました。例えば、入試課の人や東京事務所の人達と、その晩、ゆっくり酒など酌み交わし、それぞれの夢や理想の話、大学への思いを聞いていました。
 「ああそうか、こういう人々が、大学を支えているか。」と、目が覚める思いがしたものです。良い人生勉強でした。もうそんな話も聞けないかと思うと、少し寂しいですが・・・・。
 こんな経験、これからは出来ないでしょう。いくつもの旅の忘れられない風景とともに、それらのことは、きっといつまでも覚えていると思います。・・・ありがとうございました。

 さて次回は、僕がなぜ芸工大を辞めて、多摩美に行ったかの話をしようかと思います。
   
 
【インフォメーション】
「愛知県美術館所蔵作品展 戦後の日本画」、「META|| 2009」、「山本直彰 岡村桂三郎 三瀬夏之介展」、「高島屋美術水族館」に岡村先生の作品が出品されます。また、まゆみ先生のグループ展「はまゆうの会」が開催されます。お近くにお出かけの際は、ぜひお立ち寄り下さい!

 
展覧会名 愛知県美術館所蔵作品展 戦後の日本画
会場 碧南市藤井達吉現代美術館
 愛知県碧南市音羽町1-1
 tel:0566-48-6602
 http://www.city.hekinan.aichi.jp/tatsukichimuseum/
会期 2009年7月7日(火)〜8月30日(日)※月曜日休館
時間

10:00AM〜6:00PM ※入場は観覧時間の終了の30分前まで

観覧料

一般200(160)円/高校・大学生100(800)円/中学生以下無料
※()内は20人以上の団体料金

展覧会名 META|| 2009
会場 日本橋高島屋 6階美術画廊
 東京都中央区日本橋2-4-1
 tel:03-3211-4111
 http://www.takashimaya.co.jp/tokyo/
会期 [前期]2009年7月8日(水)〜7月20日(月・祝)
[後期]2009年7月22日(水)〜8月3日(月)
時間

10:00AM〜8:00PM ※最終日も8:00PM閉場

イベント

岡村桂三郎先生のギャラリートークが、7/12(日)と7/19(日)の3:00PMより開催されます。

展覧会名 山本直彰 岡村桂三郎 三瀬夏之介展
会場 コバヤシ画廊
 東京都中央区銀座3-8-12 ヤマトビル B1
 tel:03-3561-0515
 http://www.gallerykobayashi.jp/
会期 2009年7月13日(月)〜7月18日(土)
時間

11:30AM〜7:00PM ※最終日は5:00PMまで

展覧会名 はまゆうの会(岡村まゆみ・斉藤佳代・蓬田阿哉)
会場 スルガ台画廊
 東京都中央区銀座6-5-8 トップビル2F
 tel:03(3572)2828
会期 2009年7月13日(月)〜7月18日(土)
時間

11:00AM〜7:00PM ※最終日は5:30PMまで

展覧会名 美の継承、飛翔百年へ。 高島屋美術部創設百年
高島屋美術水族館
会場 日本橋高島屋 6階美術画廊
 東京都中央区日本橋2-4-1
 tel:03-3211-4111
 http://www.takashimaya.co.jp/tokyo/
会期 2009年7月22日(水)〜7月28日(火)
時間

10:00AM〜8:00PM ※最終日は4:00PM閉場


© Copyright Geijutsu Shinbunsha.All rights reserved.