高橋美江 絵地図師・散歩屋
窪島誠一郎「ある若い画家への手紙」−信州の二つの美術館から−
坂崎重盛 新刊・旧刊「絵のある」岩波文庫を楽しむ
橋爪紳也 瀬戸内海モダニズム周遊
外山滋比古 人間距離の美学
もぐら庵の一期一印
 お久しぶりです・・・・。
なかなかこのコーナーの文章をかくことが出来ませんでした、毎回楽しみに読んで頂いていた方々には、本当にごめんなさい・・・・・・・。
 この夏から秋にかけて、とてつもなく忙しい日々が続いていました。その一番の原因は、
勤めている東北芸術工科大学で、実は僕、先生として、ちゃんと?授業をやっている以外に、入試部長という自分の能力を遥かに越えた大役をやらされていて、立場上どうしても、「少子化の波」というものと戦わなくてはならなかったのです。実のところ、何をしたら良いのかよく分からないので、ともかく体だけは動かしてはいたのですが、いやいや、これっていったい本当はどうしたら良いのでしょうか・・・・?でもまあ、僕のまわりの色々な人々の努力のおかげで、秋にやった自己推薦入試は、大学全体で、去年より、なんと!10パーセントも受験生が増えて、ちょっとだけホッとしました。
 けれども、僕の本業は絵を描くことなので、そんなことで「ホッと」など、「ちょっと」でもしている余裕なんか、絶対的にあっちゃいけないのですヨ、ホントに。「ホッと」する間もないまま、絵を描きまくってました。働きながら絵を描いていくということって、本当に大変なことですね。僕と同じ境遇の人、がんばろう!
 
 さて、このところの出来事の中で特筆するべきことといえば(ちょっと前の話になってしまいましたが)、やっぱり、竹橋の近代美術館で開催していた琳派RIMPA展に出品していたということですね。僕としたら、歴史上の超有名な作家達の名作と同じ会場で、自分の作品(それも十年以上も昔に描いた作品)が一緒に並ぶということは、明らかに相当ヤバイ!できごとで、考えるだけで焦ってしまって、なんだか背中の方でジンワリ汗をかいてしまいました。
 ところで、その展覧会の会場を観て歩いていて、あらためて感じたことがありました。それは、琳派が僕達の美意識に与えた影響というのは、驚くべきものであることを、改めて認識させられたということです。さらにそれは、琳派の表現を観れば、僕達はもれなく、それを日本的な表現と感じてしまうということへの驚きでした。琳派的なものが日本的なのか、日本的なものが琳派的なのか、何がなんだかわからないほど僕達は琳派的な美意識のもとに、ステレオタイプな日本的美意識を認識しているのです。なんでこんな当たり前なことに、なんでまた僕は、今の今まで気付かなかったでしょうか。琳派大好きの僕なので、しょうがないことかもしれませんが、知らないうちに、多様な美の宝庫の日本に育っていながら、日本的イコール琳派的、と短絡的に勘違いして信じ込んでしまっているのです。琳派、恐るべしです。
 

本阿弥光悦・俵屋宗達「鶴下絵三十六歌仙和歌巻」(部分) 京都国立博物館蔵
 

俵屋宗達 舞楽図屏風 一七世紀 桃山-江戸 醍醐寺

     

 日本的うんぬんを越えて、もっと広い視点に立って、現代の日本の美術界を見渡しても、琳派の影響は計り知れないものがあるというのは、誰もが納得してくれることなのではないでしょうか。
 僕自身のことで言うと、実は俵屋宗達のことが大好きです。好きと言うより愛してます。実は僕は、自分の息子の名前にも宗達の「宗」の字を勝手に頂戴してしまうほど、宗達を敬愛しています。宗達は本当にスバラシイ!
 宗達の何がスバラシイかと言うと、まずはその発想力ですね。それまで有った「絵画」の常識をいとも簡単に飛び越えてしまっている。蓮池水禽図や舞楽図屏風、風神雷神図屏風に鶴下絵三十六歌仙和歌巻、白象図、なんとバラエティーに富んだ非常識なのだろうと思います。そして、それらを支えている、抜群のセンスとバランス感覚。意表を付く構成の巧みさは、カッコイイの一言だし、それらが1ミリの狂いもなく、非常識な感じで、完璧にバランスがとられている。決まりまくり。スゴイ!
俵屋宗達 蓮池水禽図(国宝)
一七世紀 桃山-江戸 京都国立

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