高橋美江 絵地図師・散歩屋
窪島誠一郎「ある若い画家への手紙」−信州の二つの美術館から−
坂崎重盛 新刊・旧刊「絵のある」岩波文庫を楽しむ
橋爪紳也 瀬戸内海モダニズム周遊
外山滋比古 人間距離の美学
もぐら庵の一期一印
その20−食は、四川省にあった。(後編)
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  それぞれ岡村先生のコメントもついています。
 さてさて、戦いの場と言えば、僕は、末永先生や長沢先生、数人の学生とで、ある朝、大足(たいそく)の町の市場へ出かけて行ったのですが、訪れたその市場のことは、やはり衝撃でした。
 その市場は様々な商店が軒をつらねている商店街の先にあったのですが、思いのほか広々とした巨大な市場が開けているのに驚きました。そこでは、様々な野菜や肉などが見渡す限りのスペースで売られています。遠くの方は、若干かすんで見えるほどです。その光景は、なかなか壮観なものでした。
 特に肉を売っている地域に来ると、肉や血の匂いであたりは充満し、いったい何の肉だかわかりませんが、見渡す限りの膨大な肉だらけの光景に圧倒されました。僕たちがそこに足を踏み入れたとたん、僕たちの目を射って、はずさなかった光景がありました。それはその市場の片隅で、死んだ犬に熱湯をかけ、犬の皮を、今まさに剥ごうとする現場です。それは、僕たちの日常の常識を打ち破り、血なまぐさく、あまりにも凄惨な光景に見えました。そして僕はそれ以降、犬が食べ物にも見えるようになってしまったのでした…。
 芸大時代、中国人の友人、陳文光さんと上野公園を歩いている時、たくさんの鳩を見ながら、「あれ美味しいんですよ…。」とヨダレを垂らさんばかりな表情で呟いていたのを思い出しました。そういえば、「犬も美味いですよ。」と、教えてくれてたっけな。

 中国では、食べるという行為が意味していることの真実が、まだ僕たちにも見ることができる土地の一つなのかも知れません。もちろん、犬や猫などは、あまり普通、僕たちの日常の中では、口にすることは無いけれど、同じ動物で、牛や豚や鶏は、しょっちゅう食べているわけで、あの市場で行なわれているような事は、日本の僕たちの日常の中でも、当然行なわれていることなのです。でも、そういう現場を僕たちは見る機会に恵まれてはいないし、そういった現場を見せたがらない社会と、見たがらない僕たちがいます。
 殺された動物たちは、小さな肉へんに切り刻まれ、バラバラにされ、白色トレーに綺麗に並べられ、ラップによってきっちりとパックされる。スーパーでそれらが並ぶ時は、そんな血生臭い事実は何も無かったかのようなふりをして、その肉へんたちは、綺麗に清潔感たっぷりに、「フレッシュ・ミート」なんて名付けられ、整列しているのです。僕たちはそれを、たんに牛肉や豚肉、鳥肉であると感じ、それらが殺された動物の屍の肉の断片であることを、知ってはいるのに、不思議なことに、すっかりそのことを忘れ果ててしまっているのです。
 僕たち人間が毎日食べている食物、それがどんな食物であったとしても、例外なく、もとはといえば生き物であったものの、その屍を「食物」と僕たちが勝手に名付け、料理しているのに過ぎないのです。僕たち人は、他の動物たちと同じように、他の生物を殺傷し、それを食らい、その生き物がつくり出した栄養素を体内に取り込みながら、自らの生命を維持してきました。数限りない他の生物たちの生命の犠牲の上に、ちょっときつく言うと、膨大な量の生物の殺戮の上に、僕たちは生命を維持しているのです。
 僕たちの文明は、人類史上、かつてない程の清潔で安全で便利な環境を作り上げました。現代の僕たちの生活は、特に日本の生活は、野蛮なものから遥かに遠い、ソフィスティケートされたところまでやってきてました。
 けれども、そんな理想的な環境の中、その世界で暮らす人々はどういう訳か、生命感を失ってしまっています。それは、いったいどういう訳なのか。
 例えば、僕たちの生活の中には、除菌や消臭というものがエチケットとしてはびこり、自分たちの体臭をあくまでも徹底的に嫌っています。ちょっと嫌な臭いがすれば、ファブリーズで、シュッシュッシューッ!と、やってすっかり消してしまいます。しかしこれは、もしかして、自分が一匹の動物であることを、生物であることを、徹底的に否定し隠蔽しようとする、表れの一端ではないかという気がしてきました。僕たちが求める、ソフィスティケートされた生活には、僕たちが動物の一種に過ぎないという現実は、実は根源的に疎まれているのではという気がしてきたのです。現代の文明社会が、病んでいく原因は、もしかしたらこんな所にあるのかも知れないと、ふと、思うのでした。
   
 
【インフォメーション】
10月7日から河口湖ミューズ館 与 勇輝 館で「岡村桂三郎作品展」が開催されています。また、11月2日から「第8回野桜会 東北芸術工科大学日本画卒業生有志展」(天童市美術館・恵埜画廊)、3日から「仙台美術研究所 創立20周年記念展「BLOX2006」」(せんだいメディアテーク)、15日から「目−それぞれのかたち 第11回21世紀の目展」(日本橋高島屋)の各展覧会に作品を出品されます。お近くにお出かけの際は、ぜひお立ち寄り下さい!

 
展覧会名 岡村桂三郎作品展
会場 河口湖ミューズ館 与 勇輝 館
 山梨県南都留郡富士河口湖町小立923 八木崎公園
 tel:0555-72-5258
 http://www.musekan.net/
会期 2006年10月7日(土)〜2007年3月21日(水)
*毎週木曜日・年末休館
時間

9:00AM〜5:00PM *入館は4:30PMまで

展覧会名 目−それぞれのかたち
第11回21世紀の目展 <日本画・洋画>
会場 日本橋高島屋 6階美術画廊
 東京都中央区日本橋2-4-1
 tel:03-3211-4111
 http://www.takashimaya.co.jp/tokyo/
会期 2006年11月15日(水)〜2006年11月21日(火)
時間

10:00AM〜7:30PM(8:00PM閉会)*最終日は4:00PM閉会

展覧会名 第8回野桜会展
東北芸術工科大学日本画卒業生有志展
会場 ●天童市美術館
 山形県天童市老野森1-2-2
 tel:023-654-6300
 http://www3.ic-net.or.jp/~ten-bi/

●恵埜画廊
 山形県山形市七日町2-1-38
 tel:023-623-3140
 http://www.yoshino-garo.jp/
会期 ●天竜市美術館:2006年11月2日(木)〜2006年11月28日(日)
●恵埜画廊:2006年11月2日(木)〜2006年11月19日(日)
 *火曜定休
時間

●天竜市美術館:9:00AM〜5:00PM *入館は4:30PMまで
●恵埜画廊:10:30AM〜6:30PM

入館料

●天竜市美術館:一般400円 高・大学生200円 小・中学生100円
(*毎週土曜日は小・中学生無料、団体20名様以上は2割引)
●恵埜画廊:無料

展覧会名 仙台美術研究所 創立20周年記念展「BLOX2006」
会場 せんだいメディアテーク 6Fギャラリー
 宮城県仙台市青葉区春日町2-1
 tel:023-654-6300
 http://www.smt.city.sendai.jp/
会期 2006年11月3日(金)〜2006年11月8日(水)
時間

10:00AM〜7:00PM *最終日は5:00PMまで

詳細

☆ギャラリートーク開催!/11/3(金)16:00〜18:00
□出品作家:岡沢幸、加川広重、菊地實、コイズミタイチ、佐藤暢子
 佐藤裕一郎、タノタイガ、夏坂眞一郎、畠山信行、増子よしひろ、松岡美帆
□協賛校 出品教員
・創形美術学校/大沼正昭・小山愛人
・東京工芸大学/谷口 広樹・若尾真一郎
・東北芸術工科大学/岡村桂三郎・木原正徳・若月公平
・東北生活文化大学/北折 整・佐藤 淳一・森 敏美
・長岡造形大学/熊井 恭子・真壁 友


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