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武田信明『〈個室〉と〈まなざし〉』(平成7年・講談社刊)。あの本郷・菊富士ホテルに集った大正の群像。その中に高田保も。 |
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ところで、ここでの高田保だが──
菊富士入居後のある日、高田保は以前から欲し
かった時計を買いに出かけたが、時計の代わりに
ツァイスの十六倍陸軍用望遠鏡を購入してしまう
。時間を知りたければ向かいの帝大の時計を望遠
鏡で見ればよい。
しかし、この望遠鏡購入には心ときめく余禄があった。引用を続ける。
しかもそれ以外に、近所の女子美術学校の寄宿舎
や菊の湯まで見えるのである。宇野浩二や三宅周
太郎らの同宿人も彼の望遠鏡にひかれて高田保の
部屋をしばしば訪れたという。
そして、「昭和三年のカール ツァイス社カタログ」の図版が掲載され、さらに、高田保と生涯の交遊を続けた広津和郎が、この望遠鏡のことについて書いたエッセーを紹介している。
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