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戦争中、文六ともっとも親しく交際したのは
徳川夢声だった。活動写真弁士出身の夢声は、
トーキー出現後は新劇の俳優としても活動、そ
のころ文六と知り合った。妻を亡くし、男手だ
けで娘を育てた、という境遇も同じで、親近感
があった。互いにずけずけと物言うタイプで、
気が合い、文六の数少ない親友といえた。
(中略)
家を訪問しあって酒をくみ交わし、正月には
秘蔵のブドウ酒をあけて痛飲した。夢声手製の
密造ウイスキーを楽しんだこともあった。夢声
は、「フランス仕込みの小言幸兵衛」の牡丹亭
(文六のこと)が、局方アルコールを使った密
造酒を、どういうか心配したが、すっかりいい
気分でご帰還になり、ほっとしたと書いてい
る。
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「昭和の文豪 獅子文六、初の評伝」とされる牧村健一郎『獅子文六の二つの昭和』(平成21年・朝日新聞出版刊)。力作です。 |
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