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戸板康二『あの人この人』(平成5年・文藝春秋刊)。装丁はもちろん田村義也。戸板には、この他に『ちょっといい話』のシリーズがあり、文士の、とっておきのエピソードが語られている。 |
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少しだけ紹介したい。2月10日「ふぐ」の項。
だれが言ったのか、
ふぐは食いたし、いのちは惜しし
などという文句も聞かされていて、自然敬遠して
いたが、折口信夫先生が、
あほらし。どうせみんななしくずしに、たべ物
にあたって死んでいくのさと言われたので、それ
以来悟りをひらいて、まったく平気になった。
もう1話だけ。「すし通」の項。
すしの食べ方や、順序などについて、江戸っ子
のたべ方はどうかなどと聞かれることがあるが、
そういう「通」ぶったことは知らないのが江戸っ
子だろう。江戸っ子の本筋は、「野暮」である。
たべやすいようにつまみ、たべたいものを食べる
のが、一番である。たべる順序だって、何も「ひ
かりもの」から、などといういき方にする
ことはない。
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