高橋美江 絵地図師・散歩屋
窪島誠一郎「ある若い画家への手紙」−信州の二つの美術館から−
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'Round About


第14回 松井冬子 VS 佐々木 豊
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足を描かないなんてずるい
佐々木:「ただちに穏やかになって眠りにおち」は最高にいいね。衝撃を受けた。発想は死にゆく象なんだって?
松井:そうです。
佐々木:この絵は発想と構図の取り方がすごく鮮烈。象の頭が水から出ているだけで死へ向かうことを表現している、という衝撃がある。
松井:動物の自殺と言いましたけど、他者との断絶を描いたものです。例えば目の前に人がいて話をしているけど、意思や感情に触れることなく完全に孤立している。相手に気持ちは届かないし、何も求めようともしないというような。
佐々木:自殺のイメージにとらわれるのはなぜ?
松井:自殺する時って何か理由を考えてするということではなく、基本的に常日頃「死ぬ」ということが頭にあって、狂気の絶頂に自殺してしまうものではと思うんです。
佐々木:死のイメージがいつも頭にあるのかな。
松井:私が自殺したいということではなくて、身近な動物や友達が自殺したとき、その死によって自分は死ななくて済んだと思うことがある。ですから私のしていることは、全体的に「厄払い」に近い(笑)。幽霊画ももともと縁起物の一種ですしね。会場に来た人がはらわたをさらけだした女の姿を見て、「ああ、助かった」と目を覚ましたら最高だと思っています。
佐々木:幽霊というのは足がないじゃない。いじわるに見ると手とか足とか描き手にとっては無茶苦茶難しいんだよね。
松井:難しいですね。でも幽霊を描いた理由というのは、情念の浮遊という魅力的な題材だからということに尽きます。
 
 


   
  佐々木:おっぱいとかお尻の線とか顔とかは描きやすいしおいしい。だけど、絵描きとして大きく伸びるにはまるごと全部描く必要があると思う。難しいところはカットすればボロは出なくて完成度は出るけど。完成度は死ぬ直前に出ればいいんだ。まるごと人間を描かないと、大きな作家として伸びていかないと思う。
松井:「浄相の持続」の人体は何回か描きなおしたんですが、最初は奥や手前の花は描いていなくて、人体全体だけを描いています。私は足の形が好きなんですけど。
佐々木:暗い絵は何かありそうだからやさしい。明るい絵は暗い絵より難しい。明快さを求められるからごまかしがきかない。だから努めて明るい絵も描いてほしいし、色も
 
  使ってみてもらいたい。足や手もまるごとかく。欲張りにいかないと大作家にはなれない。
松井:色、明るい絵、人体を描くという三つですね。
佐々木:人間を描くのは難しい。風景の方が楽でしょ。人間を描いた日本画がこんなにたっぷり出会ったのは久しぶりだ。人間は毎日観てないと描けないからみんなやらないんだ。それにしても、足を描かないのやっぱりずるいよ。象だって、頭と背中だけで胸と足は水中に隠れているし。
松井:全体的にずるい感じ、しますよね(笑)。
佐々木:ずるいことで名声を得たら小さく固まっちゃう。だけど、これだけでかい絵も描ける。小さい絵もそれなりに描けるということはずるいにしても素晴らしい。
松井:勉強になりました。がんばります。
 
 
アート・トップ208号より抜粋) 

◇作品写真・取材協力:東京都現代美術館成山画廊
 
  

 

松井冬子(まついふゆこ)
1974年、静岡県生まれ。95年、女子美術大学短期大学油画専攻卒業。2002年東京藝術大学美術学部日本画専攻卒業。04年、同大修士課程日本画専攻修了。現在、同大博士後期課程美術専攻在学中。
《主な個展》04年、「レスポワール新人選抜 松井冬子展」銀座スルガ台画廊。05年「松井冬子展」成山画廊。

【展覧会情報】
MOTアニュアル2006
No Borderー「日本画」から/「日本画」へ
会期/1月21日(土)〜3月26日(日)※月曜休館
会場/東京都現代美術館(東京都江東区三好4-1-1)
問い合わせ/03-5245-4111
 
  

 

佐々木豊(ささきゆたか)
1935年(昭和10年)名古屋市に生まれ。
愛知県立旭が丘高校美術科、東京芸術大学油画科、同専攻科卒業。1992年、第15回東郷青児賞を受賞。国画会会員、講談社フェーマススクールズアドバイザー。
主な著書に「浮気な女たち」、「構図と色彩」、「はじめてのクロッキー」、「絵に描けなかった絵の話」・「泥棒美術学校」「画風泥棒」「プロ美術家になる!」(芸術新聞社刊)「佐々木豊画集−悦楽と不安と−」(求龍堂)など多数。

 

■おしらせ
この松井冬子 VS 佐々木豊対談の他に、人気若手アーティストとの対談が収録されている「プロ美術家になる!」が 2008年4月に刊行になりました。