高橋美江 絵地図師・散歩屋
窪島誠一郎「ある若い画家への手紙」−信州の二つの美術館から−
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'Round About


第9回 横尾忠則 VS 佐々木豊

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1人でグループ展―
佐々木:ぼくは横尾さんの絵をほとんど全部見ているけど、あなたは絵肌にほとんど興味を持っていない。
横尾:下塗りなんて面倒なことしたくないもの。いきなり表面だね。高校の頃やっていたあのごてごてしたものだけはやりたくない。先生が絵肌をものすごく重視していて、ぼくもその影響は受けていたけど、砂を入れたり膠を入れたり、もう壁を塗っているような感じだった。ところが80年から絵画をやろうとしたときは、そんなものはどうでもいいと。ピカソの作品でストロークだけで成立している作品もある。そういう作品をやってみたいというのと、ポップ・アートやミニマルの考えを取り入れようとしたのが、ぼくの出発かもわからないね。
 
 

佐々木:ピカソは、様式なんかくそくらえと言っている。
横尾:そうでしょう。
佐々木:絵肌で留まっていたら、あんなに大きくならなかった。
横尾:青の時代の延長で終わったでしょうね。
佐々木:ところがバルチュスの絵肌は、下塗りから10層ぐらいあるから、ものすごく手間がかかる。ぼくの絵の描き方もそう。ぼくは、絵肌は1品制作に残された最後の砦だと思っている。美術評論家の林紀一郎さんが言っていた。「いい絵とはものがぽんと1つだけある絵だ」と。例えばリンゴがたったひとつとか。でも横尾忠則の絵はりんごひとつで勝負できない。
横尾:ぼくのは記号としてのりんごだね。だけどね、何を描くかということと同時にいかに描くかということは重視するよ。いかに描くかというのは何も絵の具を積み重ねていくことだけじゃない。さらっと平面的に描く。それもいかに描くかということなんだよね。ポップアーティストのウエッェルマンにしても、平面的でぺたっとしているでしょ。そういう単一的な表面もぼくは絵肌と考えている。
佐々木:あなたの作品は、過去の名作などがモチーフになるんだけど、目の前のこのコップがモチーフになることはない。今度の南天子画廊の新作にしても、過去の絵がモチーフになるんだよね。
横尾:今回は、昔のスタイルを表現や技術を変えて描いている。地肌の話も面白いんだけど、特にメディウムで薄く溶いたものを塗り重ねた作品に興味があるんですよ。

 
  佐々木:油絵の初心者はだれでもおつゆ描きからはじめる。それだと、皆同じ絵肌になる。ぼくは、そこから100人に1人の画家になりたいから必死で絵肌づくりに励んでいる。
横尾:ぼくは100人と同じようでありたいから、このような描き方をするんだ。
佐々木:つまり1作かぎりの絵肌というのは必要がないんだ。だから、印刷物などの多様なメディアで完結をみる。その発信基地で十分だと。
横尾:ぼくはいろんな雑誌を切り抜いてコラージュするじゃない。コラージュには印刷されているモチーフしかない。ニューヨークのギャラリーでコラージュ展をやると美術館やコレクターが買っちゃうんですよね。絵肌で買っているわけじゃない。イメージでしょうね。
 
 

佐々木:これだけ知名度があるのだから、南天子画廊以外に画商が殺到していてもしかるべきなのに、していない理由がもしあるとすれば、ぼくは絵肌だと思う。外国でも日本でもこういう状況は珍しいんだよね。欧米では、知名度と美術館や画商の評価はだいたい一致しているんだけど。

 
 


横尾ははは。小品は描かないからね。でも美術館には入っているよ。まあ、欧米と比較してもしょうがないでしょ。ぼくは日本の画壇には属していないから。画壇にとっては絵肌というのは神様みたいなものなのかもしれないけど。ぼくは再来年フランスのカルティエ財団現代美術館で個展をやり、そのあと別のプロジェクトでヨーロッパ5カ国を巡回する予定があるんだけど、過去の作品と新作によって構成しようと思っている。そうすると作品の傾向がころころ変わるのがわかるで


 
 

しょ。30点ならべても一人の作家ではなく、5、6人のグループ展みたいな展覧会になると思う。そういうものはかつて受け入れられなかったけれど、時代がそういうのを要求しているんじゃないの。
佐々木:昔、日本画の大家何10人かの展覧会をヨーロッパにもっていった。そうしたら、観客はみな個展だと思って観ていた。その逆だね。ところで、「人はだれでも10分間だけ有名になれる」とウォーホールは言ったけど、だけど横尾忠則は40年間有名であり続けてきた。よく文壇では「流行作家になるな」というんだけど、流行作家になると必ず消えてしまうから。でも、40年来、どこを見ても横尾忠則はメディアに出てきた。
横尾:それは作品の価値とか評価とかとは関係ないと思うよ。ぼくは、何か描くことが修行のように、人生の最終目的だなどと考えていないから。それより生活をエンジョイすることが重要。今日会っているのは、雑誌に載るからではなくて、佐々木さんと久しぶりに話しができるからだし、芸術のためにほかの仕事を全部断るなんてこともありえないですね。

「アート・トップ」206号(10月20日発売)よりテキストを一部抜粋して制作しました。
◇資料提供:南天子画廊

 
 
 
 
■インフォメーション
◎南天子画廊にて「横尾忠則 (then)and Now」が開催されます。横尾ワールドを是非堪能して下さい!

【会場】南天子画廊
    東京都中央区京橋3-6-5
    TEL:03-3563-3511
    http://www.nantenshi.com/
【会期】05年10月17日(月)〜11月12日(土)
    (日・祭日休廊)


 
  ◎またこの秋、佐々木豊氏も日本橋高島屋を皮切りに全国巡回の大々的な個展「佐々木豊個展−薔薇女」を開催します。
●2005.10.12(水)〜18(火)−東京日本橋高島屋6階美術画廊
●2005.11.02(水)〜08(火)−JR名古屋高島屋10階美術画廊
●2005.11.16(水)〜22(火)−高島屋大阪店6階美術画廊
●2005.11.23(水)〜29(火)−高島屋京都店6階美術画廊
●2005.12.07(水)〜13(火)−高島屋横浜店7階美術画廊

◎また、明星大学(青梅校)でも「佐々木豊1972-2005展」が開催されます。
●2005.10.17(月)〜22(土)−明星大学(青梅校)図書館展示室
 
  

 

横尾忠則(よこおただのり)
1936年兵庫県西脇市生まれ。美術家。1960年代よりグラフィックデザイナーとして国際的に活躍し、72年にはニューヨーク近代美術館での個展を開催。以降73年ハンブルク工芸美術館、74年アムステル ダム市立美術館など世界各国で個展を開催。81年に画家に転向し、絵画においての世界3大ビエンナーレといわれるパリ、ベネチア、サンパウロ、のビエンナーレに招待出品。近年は兵庫県立近代美術館、神奈川県立近代美術館、東京都現代美術館、広島市現代美術館、京都国 立近代美術館、熊本市現代美術館など美術館での個展を相継いで開催している。95年 毎日芸術賞、2000年 ニューヨークアートディレクタ ーズクラブ殿堂入り、01年紫綬褒章受章。作品は、ニューヨーク近代 美術館、ボストン美術館、ポールゲッティー美術館、ビクトリア & アルバート美術館など国内外100以上の主要美術館に収蔵されている。今秋は10月17日より11月12日まで銀座の南天子画廊で新作の個展を開催。10月24日より11月5日まで東京青山小原流会館での「第20 回平行芸術展」に出品する予定。また今後もパリのカルティエ美術館、世田谷美術館、兵庫県立美術館と数年先まで個展の開催が予定されている。
■オフィシャルホームページ http://www.tadanoriyokoo.com
 
  

 

佐々木豊(ささきゆたか)
1935年(昭和10年)名古屋市に生まれ。
愛知県立旭が丘高校美術科、東京芸術大学油画科、同専攻科卒業。1992年、第15回東郷青児賞を受賞。国画会会員、講談社フェーマススクールズアドバイザー。主な著書に「浮気な女たち」「構図と色彩」「はじめてのクロッキー」、「絵に描けなかった絵の話」・「泥棒美術学校」「画風泥棒」・そして待望の最新刊「プロ美術家になる!」が 2008年4月に刊行。(芸術新聞社刊)「佐々木豊画集−悦楽と不安と−」(求龍堂)など多数。