高橋美江 絵地図師・散歩屋
窪島誠一郎「ある若い画家への手紙」−信州の二つの美術館から−
坂崎重盛 新刊・旧刊「絵のある」岩波文庫を楽しむ
橋爪紳也 瀬戸内海モダニズム周遊
外山滋比古 人間距離の美学
もぐら庵の一期一印
はじめまして岡村桂三郎です。
 
その31−勝手ですが、日本美術代表を発表します!!!ミッドフィルダー編(前編)
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   さて、気分を変えて、日本美術代表の続きの話に移ることにしましょう。
 
  ■喜多川歌麿
 僕の事を良く知っている人は、ここで喜多川歌麿の名前を出してくるのは、ちょっと意外だったかも知れません。確かに僕も、日頃はあまり意識していない人の名前です。作品の内容は、美人画だったり春画だったりと、僕の世界とは随分と距離を感じるのですが、どうしても無視する訳にはいかないような存在なのです。
 これは、浮世絵全体に対してなのですが、美術館などで、美人画などが飾ってあったりすると、どういう訳か、その引力に抗う事ができぬまま、その作品に吸い寄せられて、気が付くと、鼻の下を伸ばしながら?しげしげと作品を見入っている自分を発見する事になります。これは、別に僕が、美人フェロモンにやられちまった訳ではありませんよ。
 それは、面的な構成の巧みさ、フォルムの美しさ、その洗練された完成度が、通り過ぎようとする僕を、美術館の片隅から「おいでおいで」と手招きをしているのです。
   そういった美人画系浮世絵師の中でも、ひときわ目立つ実力者が、喜多川歌麿という訳です。
 例えば、「当時全盛美人揃/滝川」(とうじぜんせいびじん/たきがわ)「歌撰恋之部/物思恋」(かせんこいのぶ/ものおもうこい)「婦人相学十躰/浮気之相」(ふじんそうがくじったい/うわきのそう)まだまだまだ・・・ありますね〜、幾らでもあります。歌麿の作品は、どれも良く考えられていて、完成度が高い。画面の中での、黒髪の位置、着物の線のリズム、形の美しさ、色面の入り方。大胆な画面構成と、緊張感。どれを取っても、ちゃんと勘所をつかんでいるのです。繊細なだけではなく、ゴッツイ絵画なのです。美人画と捉えずに、アブストラクトであると思って見てもらいたいですね。
  ■尾形光琳
 ついに出て来ました!尾形光琳!!琳派の琳派たるのは、この人がいなければ、あり得なかった程の重要人物です。何てったって、琳派という言葉自体も、この人がいなかったら無かったのですから。
 俵屋宗達を発見し、その宗達を私淑した最初の人物。そして、その私淑の系譜こそ琳派なのですが、現代において日本的なるものの中心部にあるのがこの琳派であって、その中心人物こそが正に尾形光琳なのだと、僕は考えています。

 これほどの人なので、様々なところで、様々に語られている作家です。もう僕なんかがここで、何も言葉を差し挟む余地はないでしょう。
 岡本太郎は、燕子花図屏風(かきつばたず)や紅白梅図屏風(こうはくばいずびょうぶ)を見て、「凡ゆる幻想も思い出も拒否される。画面以外に何ものもない世界。これ等こそ我が国の芸術には極めて稀な、非情美をたたえた傑作である。」(「俵屋宗達」古田亮著より)と評しているそうです。その意見には、僕も、おおよそ賛成です。

 以前、もう十数年前の事ですが、「金と銀」という展覧会が、東京国立博物館で開催された事がありました。金や銀を使った様々な作品を、時代を追って展示されていて、僕にとっては示唆に富んだ展覧会でした。
 金や銀は、仏像や仏画に盛んに使われるなど、もともと神々しさを表現するための、輝く象徴的な色彩として扱われていました。しかし、そう言った宗教的、呪術的な要素をいっさい取り払ってしまい、全く新しい視点で、単なる金属材料としてそのデザインに組み込んでしまったのが、琳派であったのだということを、僕はその展覧会で実感したのでした。
 
 
   その特別展では、光琳ではなく、宗達の蔦細道図屏風(つたのほしみちずびょうぶ)が展示されていて、その抜群のセンスのよさに感服してしまったのですが、光琳の場合は、さらに、宗達に有ったあるものをも、言ってみれば血も涙もなく捨て去り、純粋に色と形体をどのように効果的に配置するかという意識で、作品を展開しようとしているような気がします。そしてそれを、完璧にこなしてしまっているのです。
 例えば、燕子花図屏風では、同じ大下図使ったのか、同じ形の燕子花が繰り返し画面に使われています。そのパターンの繰り返しに、変化を与えながら作品を創っていく。現代では絵描きがよく使う方法ですが、これはその時代、いったいどのような存在だったのか。岡本太郎は「非情美」と言ったのは、そんなところなのだろうと推察しています。

 どこか根本から違う、特別な存在の光琳。まったく別の次元で絵を描いています。いったい光琳って、どんな人だったのでしょうね?
 
  ■トップ下 俵屋宗達(たわらやそうたつ)
 このポジションに、僕としては、どうしたって俵屋宗達をおいて他に考える事はできませんでした。交代選手も考えられません。  僕にとって、日本美術史上最強の作家は俵屋宗達であり、日本美術のマラドーナ!いや、ジダンですかね〜!!僕にとっては、永遠のアイドルです。

■俵屋宗達
 まぁ、僕がどのくらい宗達を好きのか、もうだいぶ前になってしまいましたが、この「ひとりごと」(第8回)でもさんざん語ってしまっているので、この辺にしておきますが・・・、自分の息子にも宗達の「宗」の字を勝手に頂戴してしまうほど愛しているのですね〜。

 宗達のスバラシサは、語るにも語り尽くせるものではありません。その魅力は、抜群の才能に由来するものだけではないような気がします。作品の裏側に潜んでいる、宗達という人間の大きさ。もしかしたら、うっかり、勘違いなのかも知れませんが、宗達という謎だらけの人物を、その人物の豊かさと大らかさ、大胆さを敬愛しています。
 
 
   蓮池水禽図(れんちすいきんず)や舞楽図屏風(ぶがくずびょうぶ)、風神雷神図屏風(ふうじんらいじんずびょうぶ)に鶴下絵三十六歌仙和歌巻(つるしたえさんじゅうろっかせんわかかん)、白象図(はくぞうず)等など、多彩な作品群は超ハイセンスなだけではありません。度肝を抜く発想力、大胆不敵な構図、それでいて、ちょっと滑稽なところも含め、抜群のバランス感覚が潜んでいます。よっぽど肚の座った人だったのでしょう。
 なんて語ってくると、明らかに僕は、宗達を私淑しています。・・ということは、似ても似つかないのですが、僕は琳派という事になるのでしょうか?
 どちらにしても、ここでキッパリと言っておくと、僕の作家人生の目標にしているのは、まさに俵屋宗達なのです。

 まぁ、そんな事は置いといて、知人の古田亮さんが昨年「俵屋宗達 琳派の祖の真実」という本を出版されました。その本の帯には、「宗達は琳派ではない!」「実際に宗達とともに多くの作品を目の当たりにして感じたことは(中略)、宗達だけが別格な存在に映ったということだ。光琳以降の、私淑というかたちで継承された琳派スタイルを知っている私たちは、つい宗達を琳派の祖と考えてしまいがちである。たしかにそれはひとつの考え方であるが、戦後の美術史観が作り上げた琳派という幻想に過ぎないのではないか。」と、書かれています。もうこれだけで相当そそられてしまうところがありますが、この本、大変面白く読ませてもらいました。
 その本の中で、1951年、「上野の国立博物館(当時)で「宗達・光琳派」展と「アンリ・マチス」展が同時期に開催されたことがある。」ということが紹介されていました。そして、その展覧会を見て、安田靫彦は「宗達の展観が、偶然にも〔マチス展と〕同時に開かれた事は意外な仕合せであった。この両展観から、又その比較から、吾々の得るところ多大である。そうして宗達展を一番に見せたい人はマチス翁であって、その人の感想をききたいとおもうのである。(「マチス展を見て」『アトリエ』1951年6月)」と、感想を書いているそうです。

 なるほど。当時、マチスはまだ生きていたのですね〜。
 そして、宗達とマチスの対決。なんだか、力道山対デストロイヤーみたいで、いかにも面白そうではありませんか。
 日本美術代表の方も、ファンタジスタ宗達をトップ下において、フランス美術代表と戦ったって、相当イケルと思いますよ。なにせ強い!いや〜、勝つでしょう!絶対!!
 まぁ、その辺のところは、次回のフォワード、フロント編を読んでいただければ納得されることと思います。

 ついつい力が入ってしまって、長くなってしまいました。
 それでは、このへんで‥‥‥。
   
 
【インフォメーション】
「高橋コレクション日の出 オープニング展覧会「リクエストトップ30−過去10年間の歩み」」、第17回「ミニアチュールとガラス絵展」、第2回「こめつぶつぶより展」に先生の作品が出品されています。お近くにお出かけの際は、ぜひお立ち寄り下さい!

 
展覧会名 高橋コレクション日の出 オープニング展覧会
「リクエストトップ30−過去10年間の歩み」
会場 TBLOID GALLERY
 東京都港区海岸2-6-24 TABLOID 1F
 tel:03-6435-3173
 http://www.tabloidgallery.com/
会期 2011年2月18日(金)〜5月14日(土) *月・日曜休廊
時間

12:00PM〜8:00PM

 

高橋コレクションWEBサイト:
http://www.takahashi-collection.com/

展覧会名 第17回「ミニアチュールとガラス絵展」
会場 森田画廊
 東京都中央区銀座1-16-5 銀座三田ビル2F
 tel:03-3563-5935
 http://www.ginzamoga.com/
会期 2011年4月1日(金)〜2011年4月16日(土)
*日曜・祝日休廊
時間

11:00AM〜6:30PM *最終日は5:00PMまで

出品作家

岡村桂三郎 加藤良造 斉藤典彦 田宮話子 森山知己 瓜南直子 他40余名

展覧会名 第2回「こめつぶつぶより展」
会場 ギャラリィ&カフェ 山猫軒
 埼玉県入間郡越生町龍ケ谷137-5
 tel:049-292-3981
 http://www.geocities.jp/ura3tametomo/
 http://www.gallery-cafe-yamanekoken.com/
会期 2011年4月8日(金)〜2011年6月26日(日)
*金・土・日・祝日 開廊
時間

11:00AM〜7:00PM


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