高橋美江 絵地図師・散歩屋
窪島誠一郎「ある若い画家への手紙」−信州の二つの美術館から−
坂崎重盛 新刊・旧刊「絵のある」岩波文庫を楽しむ
橋爪紳也 瀬戸内海モダニズム周遊
外山滋比古 人間距離の美学
もぐら庵の一期一印
はじめまして岡村桂三郎です。
 
その29−いくつもの山形、ありがとう。
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  一部、岡村先生のコメントもついています。
 日本の地理的要因によるものなのでしょうか、それはまるで現代の油画と日本画の関係にそっくりですが、日本の美術には海の向こうからやってきた唐絵と、もともと国内にあった大和絵の二つの流れがあったようです。その二つの流れがそれぞれ影響しあいながら、日本の美術史は形作られて来たようです。
 唐絵と大和絵、その内の唐絵系の要として、雪舟等楊(せっしゅうとうよう)。この人の名前を、忘れる訳にはいかないでしょう、やっぱり。何と言っても、世界的スーパー・スターです。
 禅の精神は、どんな強敵が現れても、その煩悩を滅却してしまうことでしょうし、その高い精神性によって、日本美術代表チームの思想的レベルを、高次元に押し上げてくれています。最も影響力のあるチームリーダーなのです。
 代表作に、「破墨山水図」(はぼくさんすいず)「慧可断臂図」(えかだんぴず)「天橋立図」(あまのはしだてず)などが有りますが、どれも非常に好きです。

「天橋立図」(あまのはしだてず) 国宝 京都国立博物館
 唐絵系の要が出てきたので、大和絵系の要にも登場して貰わなくてはならないでしょう。
 そこで、光源氏(ひかるげんじ)。当然、架空の人物です。理由はもうおわかりとは思いますが、「源氏物語絵巻」(げんじものがたりえまき)の作者不詳のため、物語の登場人物の彼の名を、急きょ借りることにしました。どうしても忘れる訳にはいかない日本美術の精華であることは間違いないでしょう。
 ただ優美なだけではありません、時には妖艶とも言える程の色彩感覚、僕らのような西洋絵画に毒されてしまった人間には、予想もできないような絵画構造を持っています。その抜群のセンスの良さと色彩の関係。斬新な発想。こういったものは日本美術に脈々と受け継がれ、絵巻としては「信貴山縁起絵巻」(しぎさんえんぎえまき)や「伴大納言絵巻」(ばんだいなごんえまき)などの傑作を生み、やがては琳派へと繋がって行くのです。ちょっとドキドキしちゃいますね〜。

「源氏物語絵巻 夕霧」(げんじものがたりえまき ゆうぎり)
国宝 五島美術館
■サイドバック:浦上玉堂(うらがみぎょくどう)、
        富岡鉄斎(とみおかてっさい)、
        円空(えんくう)、
        宮本武蔵(みやもとむさし)

 まずは、浦上玉堂(うらがみぎょくどう)。川端康成が所蔵していた、凍雲篩雪図(とううんしせつず)が有名ですね。一見渋い文人画に見えてしまいますが、この人の描く水墨は、普通じゃない。時には、現代の抽象表現主義の絵画のような表現に至っているものもあります。
 この孤高の画家の精神のありようが、その前衛的な表現に至らしめたのでしょう。点の一つ一つ、線の一本一本が、風を孕み自然の旋律を奏でているように感じます。けっして概念的にならず、明らかに宇宙のリズムを感じとっているということを、こちらの側にもビンビンと響いてきます。「気韻生動」(きいんせいどう)とは、こういうものなのかも知れませんね。
 この人、武士の役人を辞職し脱藩した後、生涯死ぬまで琴の先生として日本中を旅していたそうです。ですから、健脚なのは筋金入りでしょう。正にサイドバック向きです。ただ、試合中、酒を飲んでしまいそうなところが・・・、ちょっと心配かな・・・?
 こちらは明治期に入りますが、引き続き文人画から、富岡鉄斎(とみおかてっさい)。「万巻の書を読み、万里の路を行く。」なんて、途方もないことを、本当に実現してしまった人です。そして、数万点にのぼる書画を残してしまった巨人。・・・いや、怪物です。
 なにしろ、作品の裏側に潜む強大な人間力。そのスケールの計り知れなさ。思考の広がり。無尽蔵な生命力、精神的な体力は怪物級です。
 僕が高校生だったころ、何かの展覧会で富岡鉄斎の作品を初めて見た時の驚きは、たぶん一生忘れません。たしか富士山が描かれた屏風絵だったのですが、その展覧会場で鉄斎の作品は、他の作品とはぜんぜん別格の存在でした。何か、笑っちゃったのを覚えています。その時以来、「作品は、人間なんだ。」と思うようになりました。
 こんな人間が、本当にこの世に存在していたのでしょうか?
 とんでもない怪物級の人間をもう一人。修験者円空(えんくう)です。
 旅から旅を重ねながら、仏像を彫り続けていった円空。現存する円空仏として、各地で確認されているものだけでも四千数百体確認されているそうですが、恐らく円空は、まだまだ何万体もの仏像を彫ったに違いありません。いったいこれは何者なのか?どこからこんなに力が湧いてくるのか?いったい、なぜ?このパワー、全くあり得ないことです。
 日本中に残された円空仏、そのノミ跡から伝わってくる精神力、その迫力。縄文を思わせる原始的なエネルギーに満ちた造形。どのような人間が、何を感じ、仏を彫り、旅を続け生きていたのか。円空仏に出会うと、僕たちは永遠に心を打たれ続けるのです。そして今でも日本各地で円空仏は生き続け、その土地の人々に厚く信仰され続けているのです。そのことの凄さ、計り知れない尊さを感じます。
 人がものを作る(描く)ということについて、いろいろと考えさせてくれる人です。
 もう一人、僕としてはどうしても、このフィールドに入ってもらいたい人がいます。それは剣豪「宮本武蔵」みやもとむさしです。
 枯木鳴鵙図(こぼくめいげきず)や鵜図(うず)など、宮本武蔵が描いたものを見ていると、やはり中国の画家梁楷(りょうかい)の水墨を思い出します。けれども、梁楷の水墨と比べても、宮本武蔵が描いた線は、完璧に対象をとらえ、まったく隙がない。どこか凄みを感じる線なのです。
 学生時代、宮本武蔵の絵を初めて見た時、その線の凄まじさに感服した記憶があります。それ以来、「線は、画面を斬ることだ。」と感じるようになったのです。その感覚は、僕が後に制作するようになったレリーフ状の作品群を経て、現在も僕の中に宿っている感覚なのです。
 そんな武蔵、どんな敵が攻めてきても負けることは無いでしょう。そして相手の隙を見つけるやいなや、サイドを駆け上がり、必殺のゴールを決めてしまうのではないでしょうか。何と言っても、宮本武蔵なんですから。
 武士出身の作家では他に、海北友松(かいほうゆうしょう)も、凄みのある作家だと思います。だいぶ前の展覧会ですが、長谷川等伯(はせがわとうはく)の「松林図」(しょうりんず)と海北友松の「松に孔雀図」(まつにくじゃくず)が、同じ会場で向かい合わせに展示されていたことがあったのですが、「あれ?友松のほうが、画面に線が食い込んでいて、良いんじゃないか?」と感じたことがありました。命を張って生きてきた人間の気迫というものは、鍛え方が違うのでしょう。

 ここまでで、ずいぶん長くなってしまいました。今回はこんなところで、やめておきましょう。次回は、ミットフィルダーの話をしようと思います。

 それではまた!
   
 
【インフォメーション】
「遠き道展 ―縦と横の競演―」、「愛知・岐阜・三重三県立美術館協同企画展 ひろがるアート−現代美術入門篇−」「五島記念文化財団「20周年記念展 美の潮流」」、「21世紀の目展」、「プリュス - トウキョウ・コンテンポラリーアートフェア」、「高橋コレクション日の出 オープニング展覧会「リクエストトップ30−過去10年間の歩み」」に岡村先生の作品が出品されます。
お近くにお出かけの際は、ぜひお立ち寄り下さい!


 
展覧会名 遠き道展 ―縦と横の競演―
会場 今治市大三島美術館
 愛媛県今治市大三島町宮浦9099-1
 tel:0897-82-1234
 http://www.islands.ne.jp/imabari/bunka/ohmishima/index.html

村上三島記念館

 愛媛県今治市上浦町井口7505
 tel:0897-87-4288
 http://www.city.imabari.ehime.jp/bunka/santou/
会期 2010年10月9日(土)〜12月23日(木・祝)
*毎週月曜日休館
時間

9:00AM〜5:00PM

観覧料

一般800円 大学生・高校生640円 中・小学生400円

展覧会名 愛知・岐阜・三重三県立美術館協同企画展
ひろがるアート−現代美術入門篇−
会場 三重県立美術館
 三重県津市大谷町11番地
 tel:059-227-2100
 http://www.bunka.pref.mie.lg.jp/art-museum/
会期 2010年10月23日(土)〜12月19日(日)
*毎週月曜日休館
時間

9:30AM〜5:00PM
*最終入館は4:30PM

観覧料

一般900円 高大生700円 小中生400円

展覧会名 五島記念文化財団「20周年記念展 美の潮流」
会場 Bunkamuraザ・ミュージアム
 東京都渋谷区道玄坂2-24-1
 tel:03-3211-4111(代表)
 http://www.bunkamura.co.jp/museum/index.html
会期 2010年10月30日(土)〜11月7日(日)
*開催期間中無休
時間

10:00AM〜8:00PM
*入館は閉館の30分前まで

展覧会名 21世紀の目展
会場 日本橋高島屋
 東京都中央区日本橋2-4-1
 tel:03-3477-9111(代表)
 http://www.takashimaya.co.jp/tokyo/index.html
会期 2010年11月10日(水)〜11月16日(火)
時間

10:00AM〜8:00PM
*最終日は4:00PM閉場

展覧会名 プリュス - トウキョウ・コンテンポラリーアートフェア
会場 東美アートフォーラム(東京美術倶楽部ビル3F・4F)
 東京都港区新橋6-19-15
 tel:03-3477-9111(代表)
 http://jpn.tcaf.jp/
会期 2010年11月19日(金)・11月20日(土) ・11月21日(日)
時間

11月19日(金)4:00PM〜8:00PM
11月20日(土) 11:00AM〜8:00PM
11月21日(日) 11:00AM〜5:00PM

入場料

1,000円(期間中の1日のみ有効)小学生以下は無料
最終日21日は500円

展覧会名 高橋コレクション日の出 オープニング展覧会
「リクエストトップ30−過去10年間の歩み」
会場 TBLOID GALLERY
 東京都港区海岸2-6-24 TABLOID 1F
 tel:03-6435-3173
 http://www.tabloidgallery.com/
会期 2011年2月18日(金)〜5月14日(土) *月・日曜休廊
時間

12:00PM〜8:00PM

 

高橋コレクションWEBサイト:
http://www.takahashi-collection.com/


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