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番外編


 ずいぶん前の話だが、たしか漫画家の東海林さだおさんが、今時の若い奴らが・・・、という論調に出くわすと、年甲斐もなく自分のことだと思ってしまう、というようなことをどこかで述べられていた。そのときのお歳がいくつだったのかは分からないが、じつはぼくも40代後半ながら、最近の若い人はなぁ、といわれるとわが身のことかと思ってしまう。

 というのも、ぼくの属している書道の世界は、平均年齢が高い。普通の社会が20代の若手から60代の役員までという構成なら、書道の世界では、50歳ぐらいまでは平気に若手である。しかも、20代30代のいわゆる本当の若手は数が少なくあまり見かけないので、団体や社中によっては、40歳を越えても最年少であることだってある。ぼくもずいぶん長い間「若い人」をさせていただいている。年季の入った若者である。

 玄武書道展というネズミ歳生まれの書家が集まる展覧会がある。ぼくもそのネズミ歳生まれということもあり、村上三島先生や宮本竹逕先生がお元気だった頃から出品させていただいている。最年少だった頃からである。最年長の先生方からぼくまでで、五代のねずみ歳生まれ、つまり、48年の年齢差があった。当時最年少組はぼく一人で、初めて参加させていただいた時は、非常に緊張した。なにしろ、一世代上の方々でも12歳年長なわけなので、じつに気が重い。そのときでも、40歳ぐらいなので、世間的には全然若手じゃなかったけど、こんなに若くしてここにいていいのかという、このときばかりは自分の年齢の低さを恥じたことを思い出す。

 玄武ではまだ最年少であるが、そのほかの書展では、最近やっとちらほら、ぼくより若い年齢の方々があらわれてきて、個人的にはほっとしている。システム上、何々の賞を取って何とかという位になり、そのランクの中で何々大賞やら特選とかを何回か取れば資格がなんとかになる、みたいなルールがどこにもあるので、どうしても時間がかかってしまう。現代的なスピードとはまさにかけ離れた世界ともいえる。

 ただ、書は伝統を重んじるものであるため、一般社会のようなスピードは要求されない。教える人も習う人も平均年齢が高いので、新しいことを打ち出すばかりで安定感がない方が逆に嫌われる。これは、書という文化がそれ自体3500年以上の文字の歴史を有しているのだから、その意味では正しいと思う。書は、人生の深まりの中で、よくなっていったり、わき道にそれたりもしつつ、よい意味で年輪を重ねた成熟を見るのが望ましい。若き天才や時代の寵児を否定はしないが、書家はブームに乗ることよりも、鮮烈にいきることよりも、日々是好日、の暮らしで、自らの幹を太くするべきかもしれない、と思うからだ。


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プロフィール

日比野 実(ひびの・みのる)
書家
1960年京都市生まれ、同志社大学文学部卒業、
幼少より、書を祖父・日比野五鳳に学ぶ。
現在・日展出品委嘱、読売書法会常任理事、日本書芸院常務理事
大学非常勤講師(京都大学ほか)、水穂会副会長




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