山本タカト 幻色のぞき窓
image
高橋美江 絵地図師・散歩屋
窪島誠一郎「ある若い画家への手紙」−信州の二つの美術館から−
もぐら庵の一期一印
文人閑居して文字に遊ぶ

バックナンバー
vol.01
vol.02
vol.03
vol.04
vol.05
vol.06
vol.07
vol.08
vol.08
vol.10
vol.11
vol.12
vol.13
vol.14
 
spacespace

今月の写真
暮れに農家から届いた野菜の段ボールに、正月用の植物がサービスで入っていた。それと和紙を使い適当に正月飾りを作り、「賀正」の下手文字も書いた。何となく正月気分になった。で、赤い実の植物の名前は…。
(2010年元旦・自宅にて)

イントロ 赤い実の植物の名前を母に聞いたら、千両か万両ではと教えてくれた。その名は私も聞いたことがあるし、縁起物なので正月に使うことも多い。調べていくと、どうもこれは百両らしいとなった。百両の正確な名前は百両金、別名:カラタチバナ。更に十両や一両もあることがわかった。いずれも小さな赤い実を付ける植物だが、葉の形状や実の付き方などで判別できる。千両は上向きに実がなるので鳥に食べられてしまうが,万両は葉の下に重く垂れ下がるように実がなるので、鳥の被害にも遭わず実がたくさん残る。やはり万両が目出たいのだ! この話にはオチがある。百両と一応結論がimgついたが、仕事柄、検証をしなければと農家の方に確認したら「それは南天だよ」と。アチャ…。南天は音(オン)が「難が転ずる」ことから縁起の良い木とされる。赤飯に乗っているのも南天の葉だ。植物音痴の私だが、ひょんなことから正月早々勉強させてもらった。
  万両・千両……http://www.azami.sakura.ne.jp/hana/zoku/manryo.htm
  南天……………http://ja.wikipedia.org/wiki/ナンテン



   さて、前回「不自然な自然」では写真、しかも奇妙な写真の構成だったので、それを見た知人が「あれ、絵地図師のブログのはずだが…ウロついてしまった」と、連絡があった。写真構成はどちらかというと散歩屋目線での内容なので、絵地図とは直接結びつかないかもしれない。だからという訳ではないが、今回は絵地図のことについて書こうと思う。しかも、昨年、面白い経験をした絵地図について書こう。



子どもたちが作った地図 昨年6月、NHK教育の「ヒミツのちからんど」という番組に出演した。毎回音楽、体育、アートの各ジャンルから子どもたちが何かに挑戦し、それを「ちからマスター」と呼ばれるゲストがサポートして実現していくもの。私は絵地図の専門家という立場でちからマスターになり出演した。そこで子どもたちが作った地図がなかなかいい出来だったのでご紹介しよう。
 スタッフと相談してひとつ提案したのは「地図を書く(描く)」のではなく、「作る=造る」ということ。どうしても絵地図というと書く=平面と捉えがちだが、テレビという媒体で平面は弱く面白みに欠けるので、立体、もしくは半立体の完成形を考えた。地図にする町は谷中。子どもたちは2名ずつの男の子チームと女の子チームに別れ、実際に町を歩き、そこで見たもの得たものを地図に表現していく。


img 女の子チーム【大仏の見守る町】
制作者:ユイちゃん(右:小学校5年生)とレイナちゃん(左:小学校6年生)
 ユイちゃんは気分屋のオチャメさんだがノルとすごい。レイナちゃんは少しお姉さんで、冷静に見つめるタイプ。最初、町を歩いて何かを発見するのに少し苦労したようだったが、作品は楽しい雰囲気あふれるものに仕上がった。色も、ライトグリーンとピンク系を中心に使い、女の子らしい色合いでまとめ、さわやかな印象だ。
img
img
img
img
【写真左】町の人に尋ねることはとても重要。地図に、町で出会った人やコメントを入れると情報に厚みが出るし、第三者にわかりやすくて丁寧になる。
【写真中】女の子たちは、千代紙をうまく使っていた。着物やモミジも千代紙を使って描いた。そうすると絵の表現に多様性が出てきて、マーカーや色鉛筆だけでは出ない緊張感も生まれる。
【写真右】粘土で作ったレリーフ状の大仏の表情が、何とも笑える。バックに千代紙や金色の折り紙も使い、それっぽい雰囲気をかもし出している。こういう感性は理屈じゃない。
 
img 男の子チーム【歴史の町 谷中】
制作者:レイ君(右:小学校4年生)とホツミ君(左:中学校1年生)
 最年少で活発なレイ君と年長で思考型ホツミ君のいいコンビ。町歩きでも地図づくりでも、それぞれのキャラが生かされて、これまた個性的な作品に仕上がった。最初地図を見ると、中心の大きな大仏の方に目が行き、地図のアイッキャッチになっている。全体的に色味もタッチも男の子らしい作品に仕上がっている。
img
img
img
img
【写真左】鬼瓦は粘土で作ったものだが、特徴をよく捉えている。大人が作ると、こうも思い切りよくできないのではと思う。迷いをあまり感じさせないのが、この子たちの特徴か。
【写真中】彼らは最初、道を緑色のマーカーで描いていたが、「谷中の昔っぽい雰囲気を出そう」と竹材を道に貼りだした。接着剤が固まらず大変だったみたいだけど、竹を使って地図全体が力強くなった。夕やけだんだんに苦労のあとが見える。
【写真右】谷中の「指人形笑吉」を見て、よほど印象に残ったのだろうか。ホツミ君の人形も上手だし、これを地図の中にサラリと入れてしまうのも子どもらしい。こういう柔軟性は大人も見習いたいものだ。

 まちづくりで各地に呼ばれ、講演やワークショップをする機会が増えた。その多くが大人対象でそれなりに面白い展開を見せるが、子どもたちが作る地図は、なんというか次元を超えた発想があるように思う。いい意味で期待を裏切られる、とでもいうのだろうか。年齢が上に行けば行くほど、既製の「地図」に自分を封じ込めてしまう…それが大人になることでもあるのだが、だからこそ殻を壊して散歩や絵地図に自分を開放してほしいと思う。来年度(4月以降)似たような講座をする機会を得たが、どのような面白い地図ができるかと私も楽しみだ。ちなみに、年度内に3本の絵地図…横浜・南区の第二弾/日本橋/滋賀県甲南町が完成する。こちらも完成した頃にご紹介するのでお楽しみに〜

 

A

「shouji」
A
「混沌とした根」  

img

imgimg

img

imgimg

 
         
A
「恐竜の背」
A
「プレデター」  

img

imgimg

img

imgimg

 
   

 


プロフィール
  プロフィール

高橋美江(絵地図師・散歩屋)


1953年生まれ。東京都出身。生粋の江戸っ子。武蔵野美術大学卒業。高橋デザイン室主宰。東京観光専門学校・儀礼デザイン講師。グラフィックデザイナー、イラストレーターの枠を超え、行政や企業のイベント、商品企画をも手がける異色派。絵地図師として、全国200ヶ所以上の絵地図を制作、その取材で得た経験をもとに、NHK文化センターでまち歩きの講座を3クラス持つ散歩屋でもある。専門は、まちの「ハレ」と「ケ」を見つめる『お散歩民俗学』。

【TV出演情報】
毎月、NHK 総合「こんにちは いっと6 けん」の 『とっておき東京便』美江さんの散歩コーナーに出演。
番組開始時刻は11:05AM〜(一部関東圏で放送はされないこともあります)
※次回放送は1月 29日(金)まち歩きは「横浜・南区」で、2月はお休みです。
※基本的に毎月第4金曜日が放送日です。
http://www.nhk.or.jp/shutoken/6ken/

【まち歩き講座】
NHK文化センター青山教室、横浜ランドマーク教室で講座を開催しています。
●青山教室「人・まち・味の出会い旅」
http://www.nhk-cul.co.jp/programs/program_442724.html
●横浜教室
「東京下町小さな旅-1」
http://www.nhk-cul.co.jp/programs/program_440651.html
「東京下町小さな旅-2」
http://www.nhk-cul.co.jp/programs/program_440650.html



img●高橋美江さんへのインタビュー記事が、
2010年01月11日付『東京新聞』朝刊の「東京達人列伝」に掲載されました。右の画像をクリックすると、掲載記事を見ることができます。