高橋美江 絵地図師・散歩屋
窪島誠一郎「ある若い画家への手紙」−信州の二つの美術館から−
もぐら庵の一期一印




 ●第50回● かばづくりの日記最終回 あとがきにかえて
 一年というのは、過ぎてしまえばなんてあっという間なのでしょう。かばづくりの一年を振り返ると、春は浜松、秋は東京での個展で、その間に「かばのはこ」の出版があり、やはりこの一年もかばでした。私が個人的にかばに関わって過ごしているのはまあいつものことですが、今年は全国的に何かとかばが人々の注目をあつめた一年だったように思います。ヒポミさんのかば祭りは盛大で、多くの方がかばの魅力を発見、又は再確認していましたし、かば好きで有名な俳人の坪内稔典さんの日本全国河馬めぐり「カバに会う」がつい先月出版され、多くの方が手にとって楽しんでいることと思います。私はこの本を松本の本屋で購入して早速読みましたが、なんと先日坪内先生ご本人が、若輩のかばづくり宛にサイン本を贈ってくださり、カバ界の巨匠からの大変嬉しいプレゼントとなりました。これもかばのありがたいご縁ですね。というわけで、2008年はいよいよ時代がかばを求め始めた「かばの年」だったと思っていますが、皆さんにとってはどんな2008年だったでしょうか?
 ○最終回は、秘蔵写真? によって信州の四季を
 ご紹介します。
春 松本城の桜は見事です。一気に咲くので満開を見逃さないようにお城の辺りをうろうろしています。
春 松本市内のもう一つの桜の名所、弘法山。北アルプスに桜が映えます。
 今回で「かばづくりの日記」は最終回になります。5年にわたり連載してきた最後にいったい何を書いたらいいものか、ここしばらくぼんやり考えていましたが、結局なかなかまとまらず、とりとめもなく書き始めました。
 この5年の間に、世の中はますますネット社会になりましたね。パソコン音痴の私は、初個展で知り合った芸術新聞社のKさんに誘われるままにこの日記を始めましたが、美術の情報もネットで積極的に発信する時代の流れに、知らぬうちに乗せていただき大変感謝しています。この日記が入っている「アート・アクセス」の中のアート・コミュニティーも連載する作家数が増えてバラエティー豊かなものになりました。
初夏 霧ヶ峰が鮮やかな緑におおわれると夏が始まります。
盛夏 梅雨明けを待っていよいよアルプス登山に出かけます。登山道にはこんなに残雪が…。
盛夏 家族で無事に常念岳に登頂しました。素晴らしい展望です。
盛夏 運よく、雷鳥に出会いました。こんなに間近で…。
 美術はネットで体感する、というわけにはいきませんが、ネットで得た情報をもとに美術に親しむ方が増えればなによりですね。本物を見た記憶というのは、いつまでたっても驚くほど新鮮で、10年20年たっても、おそらくそれ以上たっても鮮やかによみがえります。自分のことで思い返せば、小学生の時に家族で訪れた穂高の碌山美術館(荻原守衛の彫刻を展示)や、中学生の時に上野で見たMOMA(ニューヨーク近代美術館)展が本物の美術にふれて感銘を受けたごく初期の経験だったと思います。幼いながらに、美しいってすごいことだと思い、自分なりに感じた美をかみしめました。その余韻が今でも残っています。MOMA展で見たアンリ・ルソーの代表作「眠れるジプシー女」があまりに素晴らしく、一度母と見に行った後に、友人を誘ってもう一度見に行きました。あれから20年近く……いつかはニューヨークで見たい作品です。本物を見て少しずつ蓄積した何かは、生きる上で非常に幸せな何かです。美術は本来、言葉を超えて存在するものだと思っています。純粋美術派? なんですね。何の説明がなくても本当に美しいものは自然と時代を超えて受け継がれていきますからね。
秋 上高地にも秋の気配が。
秋 紅葉の涸沢へ。
秋 山の紅葉は、いろいろな色が混ざり合って
美しいです。
秋 ナナカマドの実。
秋 屏風岩から、涸沢と穂高連峰を望む。
 なかには、美術は腹の足しにならないからと遠ざける人もいるかもしれませんが、衣食住が満足に整わない苦しい時代でさえ、人間は古来から美術を手放さなかったわけですから、造形活動が人間の生活と離れ難い存在であるのは確かでしょう。むしろ物質的に、もしくは精神的に満たされない部分を美術で補おうとしたのが、美術の始まりだったようにも思います。
冬 12月に入り、野沢菜をつけると冬が来たのを実感します。
冬 今年も冬がやってきました。山間ではうっすら雪が…。
 私はこれからもかばとともに、とぼとぼと制作を続けていくつもりです。日記の連載はこれで終わりますが、少し充電して、また別の形でかばの話題を提供できる機会を考えていきたいと思っています。
 これまで連載を支えて下さった芸術新聞社の皆さん、長い間お世話になりありがとうございました。毎回の連載を本にまでまとめて下さり、大変な労力をかばに注いでいただきました。そしてかばづくりの活動を気にかけ、毎回このページにやって来て下さった読者の皆様、どうもありがとうございました。
 驚くほど暗いニュースでいっぱいの年の瀬ですが、2009年が皆さんにとって良い一年になりますように。
2008.12.19 やまだ・みほ(かば製造業)
●山田実穂
略歴
1977年埼玉県生まれ。2002年筑波大学大学院修了。かばの彫刻を専門に制作。日本各地で作品を発表中。

2000年、01年上越教育大学前プロムナードに作品設置 02年筑波大学芸術研究科長賞受賞、日本橋高島屋個展(04、06) 03年昭和会展出品(銀座・日動画廊)04年大阪高島屋個展 06年明日への息吹展参加(日本橋三越) 07年第7回地域現代作家代表作展(松本市美術館) (社)松本芸術文化協会・美術賞受賞 ほか、ギャラリー雲母(四日市)、ギャラリー文夢(静岡)、井上百貨店(松本)、ガレリア・アッカ(東京)などでの個展、グループ展多数。


●information
■山田実穂展「かばのはこ-かばづくり日記-」出版記念
 ギャラリー雲母
 三重県四日市市安島2-3-19 南川ビル2F
 TEL:059-351-5956
 2009年2月11日〜22日
 http://www4.ocn.ne.jp/~ki.ra.ra/

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