左から、樋口薫先生、日本画の越畑先生、
橋本憲一さん、工芸の松井先生
第2回目は、カメラマンの橋本憲一さん。橋本さんは、作家さんの作品撮影を多く手掛けており、作家さんからご指名をうける程人気のあるカメラマンです。ご自身を“技術屋”とおっしゃり、裏方としてまさにアルチザンな姿勢を貫く職人気質を見ました。今回は、東京銀座・柴田悦子画廊にて「樋口薫 展」前日に、画廊内で撮影があるとのことで突撃インタビューをしました。
●お仕事柄、結構(作品を)見てますよね。最近、一番ヒットしたもの(作品)ってありますか?
橋本:自分の計算通りの調子で(写真が)上がった時くらいなものかな。
●どの作家さんのどの作品が、ってことではなく。
橋本:そういうのはないですね。作家さんにその作品の創作意図を確認し、その意図を感じ、いかに作家さんの表現意図に沿った写真が上げられるかだけなんですよね。
●作家さんとコミュニケーションとりながら撮る方が(写真に)奥行きがでるというか…。
橋本:やっぱり作家さんが(作品を)描いた時のパワーみたいなのが感じられるんでね。自分の本業はコマーシャル分野なんですが、そんな中現在まで雑誌の表紙や扉用として絵画を撮影するという仕事が切れずに続いていました。ただ、当初の作品撮影は単に作品のコピー原稿を創るだけの撮影だったような気がします。そんな時、ある作家さんに密着取材の機会ができて、作家なんて気ままに好きな時に好きな絵を描いて優雅な生活をしている人種だとばっか思い込んでいたのが…。そこで、絵を描くということがそんな優雅なものではないことを思い知らされて…。それ以来作品撮影を依頼された時は単に作品のコピー(複写)ではなく、作家さんが創作している時のパワーも一緒に伝えられたらと。もちろん写真で原物作品と同じ迫力のある上がりが期待できるわけではないのだけど、それでもなんとか作家さんのパワーを取り込んだ写真を創って、写真や印刷でしかその作品を見ることができない人たちに少しでも本物の作品のすばらしさを伝えてあげたい。そんなことから、作品撮影時にはなるべく作家さんに同席してもらうようにしてもらって、作家さんから直接創作意図なり表現に関するリクエストを確認して撮影するようになったんです。
そこでは、「カメラマンでござい」っていう主張はいらない、ただ、リクエストにこたえられるだけの写真を撮る技術だけが必要になるだけ。それがカメラマンの生業とする今の自分の役目みたいな、ね。
ここ10年ほどそういうこと(作品の中に作家の個性をも表現する)にこだわって撮影をやらせてもらって来たんだけど、…写真上がりを見て、ふつうに撮った写真とどこが違うのと言われたら、返答に困るくらいだからまだこれと言えるような確立したものはないんだろうね。でも絶対に単なるコピー撮影とは違って、こだわっている分だけ作家さんの意図するところは確実に表現できていると思う。
さらにカメラだけじゃなく、デザイン、レイアウト、印刷のセクションまでそれぞれが一緒になってひとつの作品に取り組めたら凄い良いものができる!一つの作品をそこまでやってみたいよね。
余談になるけど、先日ある作家さんのアトリエで「屏風」の撮影をやったんだけど、上がりが気に入らなくて後日貸しスタジオを借りて撮影をやり直したことがある。もちろん自分の持ち出しで。それは、(利益追求が第一の)コマーシャルの仕事では考えられないことなんだけど…、作品撮影では結果が思い通りに上がれば、それで納得できてしまう部分があるんですよ。
作品に忠実な上がりを目指すのではなく、作家さんに忠実な写真上がりを目指している。自分にとっては、大家と言われる作家さんの作品も、若手の新人作家さんの作品も区別はつけない。だって一生懸命に描くひと筆に変わりはないと思ってるから。
それにしても作家さんにはこういうこと(印刷上がりや写真上がりの結果)にうとい作家さんが非常に多いんだけど、写真というのは後々全ての元になる原稿ですよ。その元原稿を創る時点でこんなもんだろうってことで妥協してたら、その後の印刷までの作業行程でどんどん作品が劣化してしまう。
●どうしても、劣化というのはありますよね。
橋本:しようがないことと済ませたくないんだけど、どうしてもありますよね。作家さんたちもこんなもんだろうって諦めてしまっているところがあってね。そんなことはないと、ここで声を大にして言いたい!絶対泣き寝入りしないでほしい。あんなに苦労して一生懸命に描いた作品の記録はちゃんと撮影しなきゃいけないよ、ってね。たかがカメラマンかも知れないけど、心通じ合うプロのカメラマンに作品を撮らせると写真上がりも印刷上がりも絶対良いものに変わってきますって、絶対に。されどカメラマンですよ。難しくてきつい仕事だけど、やりがいのある仕事でもありますよ。
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