古筆の流れ
臨書・鑑賞・類聚整理
関口研二・著
本書は、仮名の臨書を効率的に行うための知識、方法を、豊かな図版とともにわかりやすく提案するものです。
しかし本書の注目点はそれにとどまるものではありません。平安朝の仮名を主とする、古筆(こひつ)についてのいくつかの考察は、定説を覆すものと言ってよいでしょう。
なかでも、「現存せる仮名のうち最も優れた劇跡」(田中親美)、「尊むべく、仰ぐべく、拝すべきはまず高野切」(尾上柴舟。ともに本書48頁)といわれる高野切古今和歌集の成立年代と筆者について、先人の研究を踏まえつつも綿密な比較を行ったうえでの、通説より30年ほど遡るのではないか?3人の筆者のうちの筆頭は、三跡のひとり、藤原行成ではないか?との推論は興味深いものです。その他にも、鋭い視点で深く古筆を見すえてきた筆者ならではの、瞠目すべき考察に接することが出来るかと思われます。
著者は声高に主張するのではなく、「私の中では自然な感覚ですが、当然、批判はあると思います」(書道誌「墨」201号のインタビュー)と語っています。
「書くこと・読むこと」の中心にある「書」は日本文化の中で、大きな位置を占めてきました。日本の書を見直すためにも、重要な一冊です。
■著者まえがきより要約
書の学習の要点は、一に「よい手本を見つけること」、そして、その内容に眼をむけ、一生懸命習うことである。臨書の重要さは多くの先学が指摘してきたことだが、同時に書を見る娯しみ、すなわち鑑賞的な態度としても、実際に筆を運びながら確認することができるという点でも、有効な方法である。実際に筆を運びながらの観察、洞察は、唯見ているだけの見方とは違った面が見えてくることが多くある。そうした視点に基づき本書では、第一章で、近現代の中で残された優れた臨書とその筆者の紹介を、第二章で、臨書についての留意点を、第三章では仮名古筆についての類聚整理(系統的分類)を試みた。
仮名古筆は今日沢山残されているので、やみくもにながめているだけではわかりにくい。類聚整理の理由もその解消にある。本書では類聚整理に多くの頁を割いているが、仮名古筆の系統的見方は、臨書学習の効率化に役立つ。
【目次】
- はじめに
- 第一章 近現代臨書精華-臨書への取組
- 元永本古今集の臨書
- 本能寺切の臨書
- 高野切第一種の臨書
- 桂本万葉集の臨書
- 一条摂政集の臨書
- 西本願寺本三十六人集貫之集下の臨書
- 十巻本歌合永承五年祐子内親王家歌合の臨書
- 関戸本古今集の臨書
- 臨書の貼りまぜ
- 西本願寺本三十六人集から紙文様原本写
- 第二章 臨書の用意
- 用具、用材
- 執筆と運筆
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第三章 類聚整理-仮名古筆の見方と知識
- 仮名古筆の分類
- 高野切について
- 摂関期の仮名古筆
- 院政期の仮名古筆(1)高野切の流れ
- 院政期の仮名古筆(2)藍紙本万葉集系統
- 院政期の仮名古筆(3)寸松庵色紙、関戸本古今集系統
- 西本願寺本三十六人集
- 補遺1 仮名古筆と片仮名
- 補遺2 同筆と別筆(1)
- 補遺3 同筆と別筆(2)
- 補遺4 仮名古筆と写経
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後記
【プロフィール】
関口研二(せきぐち・けんじ)
1947年埼玉県生まれ。東京学芸大学書道科卒業。同専攻科修了。著作に、「篆刻の実際」書苑社刊、「雅印のたのしみ」雄山閣出版刊、
「かな字典」芸術新聞社刊、ほか。