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薪窯パン工房「木の葉」との出会い
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 さて、着いた後でどこへ行こうか。札幌でお寿司を食べながら地図を広げる。よく聞く富良野とやらを通って、どこか天然の温泉宿にでも行こう。支笏湖畔に丸駒温泉があるのを見つけた。ここで本物の天然露天風呂に入りたいなぁ!目的は決まりだ。

 札幌で娘と別れ、レンタカーで出発。こうなると北海道はまったく知らないのでカーナビが頼りだ。富良野まで高速を使って3時間。富良野では駅前の都会風なホテルに一泊。次の朝、行きたかった後藤純男美術館を訪ねることにした。後藤純男は78歳の現役の日本画家だ。名前は知っていてもわずかな作品しか見たことがなかったので、期待も膨らむ。美術館は北海道の雰囲気にあった洒落た建物だ。多くの作品群を見ているうちに感動が湧き上がってきた。こんな才能と実力のずば抜けている人を、どれだけの日本人が知っているのだろうか。想像していた以上の力量、作品の素晴らしさ。感激が興奮となり体中を駆けめぐり、しばらく口がきけなかった。そしてもっと多くの人に見て欲しいと思った。
 そこを出て、丸駒温泉まで3時間。やはり北海道は広い。途中で迷ったり人に聞いたりしながら、山また山の曲がりくねった道を車でひた走る。全てが紅葉の真ん中だ。北海道は空気がきれいなせいか寒いからか、枯葉の黄色が目立つ。いい時期に来たものだ。これが一週間遅かったら、こんな風景は見られなかっただろう。紅葉を見るのが大好きな妻も興奮を隠せないようだ。林の中を突き抜けると、支笏湖畔に一軒だけ建つ丸駒温泉旅館が見えて来た。大きな建物で、大正時代に開いてから、今で三代目だそうだ。
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 まずは温泉に入ろう。ここの温泉は塩化物泉で熱海や片山津温泉と同じ泉質だ。大小の湯船からは透明な湯が熱くあふれている。外に見える露天風呂も思った以上に新しくきれい。窓からの支笏湖も静かでいい眺めだ。もっと古い温泉を想像していたが、聞くと2004年にリニューアルしたらしい。温泉の中では自然に鼻歌が出て、時間が止まっているようだった。
 さて風呂から出ようとすると、「天然露天風呂」という案内の紙が貼ってある。この「天然」という言葉に誘われて行ってみることにする。廊下のような幅の狭い通路、そして階段。裸のままで少し震えながら上がったり下がったり、突き当たると古い木製の片開き戸。そこから外へ出ると古い絵に描かれたような石積みの露天風呂だ。外は薄暗く、湯底は見えない。「そうなんだ、これが本物の天然露天風呂なんだ」と妙に感激しながら暗い湯の中へ沈んでいく。じんわりと生ぬるい湯温。見ると落ち葉の古いのや新しいのが浮いている。足の底は丸い砂利石が敷いてあり、ぬるぬるして怪しい感触だ。この丸砂利石と、支笏湖の水を引き入れて、湯の温度を調整しているそうだ。建物は一部改装してしまい、当時の雰囲気が失われたところもあるようだが、この天然露天風呂は創業当時のままらしい。この雰囲気は「温泉好きの人」にはたまらないかもしれない。
 やはり夜も8時になると、まわりは真っ暗。何もすることがない。もう一度温泉で暖まって、そそくさと寝ることにした。

 次の朝、支笏湖めぐりの船に乗った。船の運転手は説明をするのではなく、ただ運転をするだけ。出発の時は「30分で2500円は高いなあ」と思ったが、湖畔を眺めるとなんと紅葉の美しいこと。連なる山々が赤・黄・緑で、まるで日本画の世界だ。すべてが秋の真っ盛り。視界には何の障害もない。黒い湖に紅葉の色が映えてまるで一つの作品のようだった。
 
 突然だったが、こんなに素晴らしい旅ができたのは、本当に幸せだった。
 なかなか乗ることができないトワイライトエクスプレス、しかも一号車A個室スイートの乗車。丸駒温泉での、昔からの古びた本物の天然露天風呂。美術館で見た、後藤純男作品の素晴らしさ。しかも息をのむ紅葉の山々のオマケ付きだ。
 なんという贅沢な旅だったのだろうか。そう思うと、食事の方がどこで何を食べても口に合わなかったことなど、取るに足らないことかもしれない…。

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