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薪窯パン工房「木の葉」との出会い
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 ある時、妻とお茶を飲みながら「生きているうちにトワイライトエクスプレスに乗ってみたいね」という話になった。大阪〜札幌間を22時間で行く、評判の豪華列車だ。だが札幌に行くと言っても、とりたててそこで何かしたいというのでもない。「ただそれに乗りたいだけ」と妻は言う。
 そこでトワイライトエクスプレスのパンフレットを探して、じっくり調べてみた。A、Bなど細かくランクがあるようだ。料金や設備、食事の写真を眺めていると、妻が「何を調べているの?乗るのは一号車A個室のスイートでなければ意味がないでしょう」と言う。また「それ以外なら乗らない」とキッパリ言い切った。そうか、乗れば良いというものではないのか…。私は人が騒ぐものには興味がない方なので、そんなに力を入れるほどのことかと思った。なるほど一生に一度となると、その気持ちもよくわかる。だが全国のファンが長年狙っているもので、そう抽選枠に当たるはずもない。とりあえずJRで働く知人に頼むだけ頼んでみた。その人も「一号車A個室のスイートはまず取れないと思います」と言ったが、「申し込んでみましょう」ということになった。
 それから一ヶ月、その人から中間報告があった。「申し込んではいるのですが応募者が多く、まだ返事がないのです」と言う。その後2週間ばかりして「やはりスイートは取れないので諦めて下さい」と宣告された。やっぱりダメか…。
 ところがそれから数週間して、「一号車A個室スイートが取れました!」と元気な電話がかかってきた。申し込む時、季節的に9〜11月のうちならどれでもいいと話をしていたのだが、「10月15日」と指定してきた。彼の誠実な性格からして、特別なはからいがあったとも思えないし、それを断ると乗る可能性が消えてしまう。カレンダーを確認すると、なんとラッキーなことか、その一週間は何の予定も入っていない。娘に話すと、「こんな機会はめったにないので、会社を休んでも乗りたい」と言う。そして「帰りはトンボ帰りで飛行機で帰ってもいい」と喜びを体中にみなぎらせていた。
 
 10月15日、昼。大阪駅にトワイライトエクスプレスが入ってきた。我々三人ともワクワクドキドキだ。黒に近い濃い緑色の車体。外から見ると思ったより車体幅が狭いように感じた。だが装飾も少なくコンパクトで格好がいい。さて目的の一号車A個室スイートの部屋は三方が窓になっていて、ベッドが二つと、エキストラベッドにできるソファーが一つある。思った以上に広く素敵な部屋だ。テレビがあり、トイレ付きのシャワールームがあり、普通の夜行列車とは大違いだ。他の部屋を覗いて見ると、豪華さも大きさもまるで月とスッポンだ。みんながぜひ乗りたいと競争が激しいのもよくわかった。
これなら三年待っても乗る価値があるだろう。

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img 一号車Aスイートのせいか、乗務員の人が挨拶に来た。「ウェルカムドリンクも用意していますので、お飲み物は何にしましょうか」とのこと。コーヒーがきて、しばらくするとウェルカムワインが届いた、しかも一人一本ずつ。なんと昼間から豪勢なことだろう。三方の窓からの眺めは、今まで見たものとはまるで違ったように見え、最高の気分だ。昼食は乗る前に百貨店かどこかでおいしい弁当を買って車中で食べようとの私の提案だったが、妻も娘も「せっかくの食堂車付きだから、そこで食べよう」と譲らない。そういえば最近の列車には食堂車がなくなってきた。それだけスピードを求
めてせちがらくなったのだろうか。img
アルコールも入って、いい気分。暮れゆく風景は時の早さを思わせるようで、どんどん日没がせまってくる。昼に発った列車が糸魚川を過ぎた頃になると夕陽の素晴らしさに釘付けになった。「なんと夕陽の美しいことか!」このあたりが、トワイライトエクスプレスで目にできるハイライトだろう。酒田を過ぎると海岸線は広く何の障害もなくなるのだが、夕陽が沈むのは早い。本当にわずかな時間の美しさだった。
 それからほどなく真っ暗になり、部屋の灯りを消すと、まるで映画館の中の暗闇にいるようだ。しかもガタガタと列車が揺れて、ホラー映画の世界に入り込んだような、不思議な空間だ。
 青函トンネルを通るころは夜中の3時過ぎ。どんなものか見ているうちにウツラウツラ…。ハッと目が覚めると、三方見える窓の中央部に、別の機関車の後頭部が張り付いている。「何だこれは!?」
 青函トンネルを通る際、列車の方向を入れ替えて別の機関車で引っ張っていくそうだ。北海道に入ると、中央部窓の機関車は消えていた。だんだん夜が明けてくると、本州では見られないような真っ赤な朝日。それがまた美しい!三人で「朝日が赤い、赤い!」と叫んでいた。

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