「黒猫の千早の印」
若い芸術家が私の本を見て印を頼みたいという。
行きつけの喫茶店で話をしながら注文を聞く。近々抽象画の個展をするという。猫は飼っていないが好きらしい。
「黒い猫がいいですね。しかも坐っているところが。どこかに名前を入れて下さい」と希望をいう。短い会話だが、それだけでイメージが組み立ってくる。彼もスケッチを見せてくれとも云わず、お茶を飲みながら別の話になった。
さてこれだけの会話でどんなものができあがるだろうか。お茶を飲み終わるころには、デザインが頭の中で出来上がっていた。
「マズルの蔵書印」
ある会社で猫の好きな人同士で猫クラブを作っている。書類の返事でも「ありがとうニャン」とか「ご苦労ニャン」とか楽しそう。
そんな人が上司にお礼の印を贈ることにした。「肉球がいいかな。マズルがいいかな」と言う。マズルとは初めて聞く言葉だ。猫族の人には常識で、「猫の口の周りのふくらみ」のことを言うらしい。
それだけでは絵にならないので穴からのぞいて、マズルを強調した。この印を見て上司はどう思っただろうか。
|