image image
image image
image 今月の遊印 image
image 墨游漫印 image
image もぐら仙人独白 image
image プロフィール
image
image image image image image image image image image image
※画像はクリックすると拡大画像を開きます。


imgimgimg

image
 それから、あるきっかけで文珍さんの眼鏡を売っているところが見つかった。やはり何でも思い続けることが大事だ。大阪のど真ん中の有名な老舗の眼鏡店だった。主人は古い木箱を倉庫から大事に持ってきて、私の前に差し出した。「これが文珍さんの掛けているのと同じものです。何しろ古くてビスがぼろぼろです」。ようやく探し当てて来たというのを聞いて、主人は気の毒そうに「十個ほどあるのですが三個がやっと使えるぐらいです。みなどこか傷んでいるのです。どうしますか」という。それでも私は嬉しく「使えるものならみな下さい」と大声になった。主人はもう捨てる前なのでそんなに欲しいなら、と考えられないほどの安い価格で譲ってくれた。私はそれに玉を入れしばらく掛けていた。
 これも慣れてくると枠の太さが気にくわなくなってきた。やはり欲は出てくるものだ。私の顔には細い丸は似合わない。もう少し太い縁の眼鏡があるはず。それからまた「太い縁」探しが始まった。古道具や、骨董市にも足しげく通って探し回った。

image

 すると数年して「特注でどんな眼鏡でも作ります」という情報が入って来た。注文通り作ってくれるならその方がいい。それは京都の京極にある眼鏡店。私が古い眼鏡を持っていき、これと同じものでサイズを1.5ミリ大きく、ここは何ミリ狭くとか何でも聞いてくれる。もっと早くにここで注文していたら、今まで全国を歩き回らなくてよかったのにと思った。それから数ヶ月後、イメージ通りの丸眼鏡が出来上がった。
 眼鏡というのはいくら店頭で枠だけ掛けても、本当に自分に合っているかどうか分からないものだ。それは見本のガラス玉でなく度の入った玉を入れると本当に似合うかどうか分かるのだ。注文された枠に自分の度のレンズを入れて掛けて見て完成するのだ。大いに満足だった。それから私の眼鏡も安定期に入った。

 この歳になると度数が変わらないのはありがたい。むしろ近視と乱視なので歳とともに近くがよりよく見えるようになった。つまり印彫りとか絵を描く時には眼鏡がいらないのだ。
これは益々ありがたい。うれしい財産だ。みな老眼だ天眼鏡だと、彫る時には苦労している人が多い。
 眼鏡ではこんなこともあった。私の個展では印の注文があると、その場で彫ることにしている。そんな時いつもの眼鏡を掛けて近くは彫りにくい。ピントが合わないのだ。そういっても眼鏡なしで彫ることもできない。人前で裸眼では、みっともなくてとても彫れない。眼鏡を外した私の顔は見られたものではない。そこで手元はよく見えても対面上、眼鏡姿にならないと様にならない。そのため眼鏡にガラス玉の入ったものを注文することにした。眼鏡屋は驚いた。立派な注文の虎柄の丸眼鏡に、わざわざガラス玉を入れるのだから……。
 個展会場では彫る時にガラス玉の入った眼鏡に掛けかえる。これを見て人は「この人は老眼鏡に架け替えたのだな」と思うだろうが、まさかガラス玉に変えたと思わないだろう。

imgimgimg

 最近、もっと既製品で安くてイメージに合った枠がないものかと探してみることにした。こうして、ある目的で探し回ることは嫌いではない。こんな時インターネットは本当にありがたい。いろいろ探し回ったが、ここしかないだろうと、全国一の眼鏡の産地「鯖江」で探すことにした。
 よく福井には行くのだが鯖江には一度しか降りたことはない。とりあえずインターネットで「丸い眼鏡」を探していることを伝えると、いろいろやり取りの結果「鯖江には丸の眼鏡はない」と言われた。かなりのショックだった。虎柄の楕円の眼鏡はあるのだが肝心の丸がないそうだ。大きなメーカーが言うのだから本当だろう。また別なところを探していると、「丸めがね研究会」というのがあるのが分かった。全国に丸眼鏡だけを販売している店があるそうだ。聞くとこれが馬鹿に高価だ。

 さてさて、私の丸い眼鏡はどこで落ち着くのだろうか。

img


imgimgimg

<<  2/2

   
image このウィンドウを閉じる