田邉古邨全集〈第4巻〉
漢籍講義2
書道一元會・発行 / 芸術新聞社・発売
書研究に、書教育に、書作に大きな足跡を遺した田邉古邨(たなべこそん)の全文集。書を見つめ、思索に富むその言説は、明解にして味わい深く、今日さらに有意義である。没後35年企画、全8巻刊行。
第6弾は、第4巻 漢籍講義2。
「爐邊孟子」(昭和四十五〜四十八年)
「講經三篇」(昭和四十八年、五十一年、五十二年)
書論講義
「書概」(昭和四十二〜四十四年)
「虞世南筆髓論」(昭和三十六〜三十八年頃)
「カク經の論書」(昭和三十六〜三十八年頃)、他
古邨論書
「書気論の一考察」(昭和四十五年)
《古邨の研究と主張》
1、用筆法の研究
篆・隷・楷・行・草・仮名の用筆は全て同じであると断じ、
用筆一元論を主唱した。
2、中国古書論の研究
古書論の解義を通じて千古不易の書の大道を示した、多くの「書話
(書道随想)」を著し、古書論に基きつつ自己の感懐を投影して書
の真髄を述べた。
3、漢学の研究
儒学に加え老荘の学の修得によって自己の人と為りを形成し、かつ
その学問を持って書論を解義した。
4、漢字仮名交り書の範を示す
古典に基く現代の漢字仮名交り書を書作したが、それに関わる論は
「書話」に詳述した。その作は全集写真版に見える。
5、書の日常性の尊重
古邨は実用書と藝術書とを区別しない。実用書も優れたものは藝術
であり、その反対もある。その論もまた「書話」に見える。
田邉古邨全集を推薦する
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井垣清明(日本書学院副代表、北城書社代表)
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石田 肇(群馬大学名誉教授、無窮会専門図書館長)
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伊藤 滋(東京学藝大学非常勤講師、岐阜女子大学特任教授)
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内村嘉秀(国士舘大学教授)
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角井 博(筑波大学名誉教授、東京国立博物館名誉館員)
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杉村邦彦(京都教育大学名誉教授、四国大学名誉教授)
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塚本虚齋(和洋女子大学名誉教授)
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堀 久夫(毎日書道展審査会員、日本書道院理事)
推薦の言葉
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江口大象 ────────────────────────────
先生の右手が少し不自由になられる前後に私は入学した。しかし驚いたことにペン字に至るまで悠然と左手で書かれて、その文字の姿は右手とほとんど変わりがなかった。表情も始終穏やかで、そのための焦燥感などおくびにも出されなかった。私が卒業後に小坂奇石門下の月刊誌「書源」を出すことになった際には、うれしい激励の原稿をお寄せ下さった。昭和42年の初めのころである。先生は日頃の言動、たとえば廊下の立ち話の一言にも深い味わいがあった。このたびの『田邉古邨全集』には、この一言も聞き漏らしてはならない言葉がぎっしりと詰まっていることだろう。当時の先生からの激励の言葉は、そのまま私の今の気持ちを代弁して下さっている。刊行が楽しみである。(日展会員、璞社会長)
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平㔟隆郎 ────────────────────────────
父平㔟雨邨は、田邉先生の下で書を学んだ。先生の口癖は、漢文を学べ、だったそうである。先生は、その漢文読解の訓練の場として、松本洪先生をご紹介になった。松本先生は、今の大東文化大学の漢学の基礎をお作りになった方で、いまで言うゼミを私的に開講されていた。家の事情で茨城の田舎に職場を定めた父は、戦後、その田舎と東京を11年間往復し、多くの漢文に触れたそうである。私は、その父の薦めで、田邉先生をお訪ねしたことがある。大学生になりたての頃である。緊張の中にも、すずしげなやさしさが伝わってきて、ものごとを究めるとはこういうものかと感慨深いものがあった。わが恩師松丸道雄先生宅を皆でお邪魔したおり、杯をいただけることになり、たまたま私は東魚先生ご愛用のものを引き当てた。実際にお会いしたわけではないのに、松丸道雄先生のお話を通して、田邉先生宅で感じたすずしげなやさしさに触れた感じがした。漢文の豊かな素養に裏打ちされた田邉先生の文章には、往時の諸賢のしずかな瞑想が息づいている。とくに若い方に購読をお勧めする。(中国学研究、東京大学東洋文化研究所教授)
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古谷 稔 ────────────────────────────
田邉古邨先生には、大学在学中に書論の授業を受けている。毎回、孫過庭『書譜』の本文を段落ごとに区切って丁寧に板書されながら諄々と講義がなされ、心にしみいるような共感を覚えたものである。授業では中国の書論を通じて書の魅力を知るだけでなく、漢文を分析しつつ思考するという柔軟性が養われたようにも思う。その後、昭和43年に文藝春秋刊『生活の中の美』(生活の本10)に、小林秀雄や高村光太郎らに交じって田邉萬平「書について」の随想が収載された。庭の建仁寺垣に思いを寄せ、その日本的情緒溢れる風情を語る美意識は、田邉書学の世界観を窺う源泉ともいえようか。このたび、芸術新聞社から『田邉古邨全集』全8巻が刊行されるという。書の用筆法、古書論、随想はじめ、漢字かな交じり書ほか多くの遺墨も掲載され、田邉書学の全容を収録する本全集は、現代日本の書の未来を切り開くうえに必携の書としてお薦めしたい。(東京国立博物館名誉館員、元大東文化大学教授)
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吉田鷹村 ────────────────────────────
古邨翁全集刊行を期して、木村会長はじめ一元會諸氏は大変な努力をされた。幸いに芸術新聞社のご承引を得、刊行可能と相なった。代表的書作品、書論書話、古書論の解義、随筆、短歌、書簡にわたり、翁の全貌が見られるのは有り難い。翁は東方書道会において鍛えに鍛え実力者となられた。夙に漢字かなまじり書を提唱、実践、すぐれた作をのこされた。翁はまた漢籍研究に深く、東洋文化研究所所長に推挙された程である。学得された読解力を以て多くの古書論を解義解説された。かくして深遠な思索と実作の体験により書の本道を示されたのである。翁若き日、文学に耽溺されたという。それ故か文章表現が妙である。書人以外の方々にも興味深く読まれると思う。本書の滲透により書壇が正化され、文化の広場において、書に対する正当な認識がなされることを祈りたい。(東京学藝大学名誉教授、書道一元會顧問)
【略歴】
田邉古邨(たなべ・こそん)
古邨は号、本名萬平、別号を白茅。書道一元會初代会長、元東京學藝大學教授。書道、漢学、短歌に多くの著作がある。
明治36年、神田錦町生まれ。父三五郎(帝国議会開設時の衆議院議員)より、5歳にして書を学び、
漢文の素読を始める。昭和7年、28歳で高塚竹堂の門に入り平安古筆の研鑽に励む。3年後、東方書道會で最高賞を受賞。その後、書道報國會常務理事、書道同文會総務長・参与をつとめる。昭和47年、
漢字仮名の用筆一元論を標榜する書道一元會を設立し、会長に就任。昭和55年逝去。享年78。